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——2054年12月31日 大晦日

——VRMMOFPS『シャドウマーセナリーズ』では、年間ファイナルランキングイベントが開催されていた

■ネオ・ドイツ シュバルツバルト

 

 宇宙からの侵略者が来て、荒廃した地球が舞台であり宇宙人を排除しながらも土地などの利権争いで人類も争っているというデストピアな世界観の中でも有名な森林エリアではランキングバトルの上位者による激しい戦いが行われていた。

『わわわぁっ、危ないよぉー』

 

 可愛い声を出す、ピンク髪で赤いマフラーを付けたミニスカートの女子高生が焦るような声とは裏腹に弾道すれすれで避けて、パンチラを画面に映す。

:今日はいちごパンツ!

:スクショできたぜぇぇぇぇ!

:くっそぉ、次こそは!

:いや、アーカイブで見ろよw

:それなw

:バカだなぁ、キミたちは……はるまきちゃんのパンチラはリアタイでこそ価値があるんだよ。

:わかるまーん

:わかるまーん

 掲示板も大盛り上がりで、はるまきちゃんと呼ばれたピンク髪の女子高生の動向に注目していた。

『まずは、えいえいっ!』

 軽快な声と共に、銃弾を撃ってきた敵の背後に、瞬時に回ってナイフで仕留めていく。

 その動きは鮮やかとしか言いようがなかった。

 

:はるまきちゃんのサーチ&デストロイはヤバイw

:さすまき!

:さすまき!

:Amazing!

 

 日本語だけではなく、海外からもチャットが流れていく。

 

『さぁ、私を狙うわるいこはいねぇ~かぁ~』

 はるまきちゃんが周囲を見回す隙だからけの動きを逃さないようにレアアイテムステルスマントで身を隠していた男達が茂みからはるまきちゃんを囲んだ状態で立ち上がって、一斉にアサルトライフルを撃つ。

 マズルフラッシュが暗い森に光り、瞬く様は蛍のように見えなくもなかった。 

 ババババという音と共にはるまきちゃんが撃たれたかと思ったら、はるまきちゃんは身をかがめて斜線から外れる。

 古いFPSではこうした動きはできなかっただろうが、VRになったことで、自在に体を動かしてゲームを遊べるようになった。

 だが、それでも柔軟な動きや咄嗟とっさの判断力はプレイヤースキルによるものが大きい。

 画面のはるまきちゃんはVRアバターを自らの手足のように使っていた。

『ちょーっと、このままだとやりづらいんで、一気にいっちゃいまーす♪』

 銃弾でフレンドリーファイアをさせたことで、戸惑いだす男たち。

 それらに向けて体を起こしながら、はるまきちゃんはハンドガンでヘッドショットを綺麗に決めていった。

『ふぅー、つまらぬものを撃ってしまったよ♡』

 銃口に唇が付くほど顔を近づけて息を吹きかけ、可愛くポーズを決める。

 :かわゆす!

 :KAWAII!

 :はるまきたん、ハァハァ

 :もう今年は思い残すことはない

 :いや、あと数分で終わるしw

 :それなw

『はるまきたん……やっと二人きりになれたね♡』

『ほんとうだ! あと3分で決着つけなくちゃね♪』

 いつの間にか、二人になっていた。

 片方はピンクの髪の女子高生のはるまきちゃん、もう一人はランキング2位ではるまきちゃんを追いかけているガチ課金勢の金髪優男ガンマンのジャック・キャバリア―だ。

 この二人だけが立つ空間は森の中のはずが、荒野のような雰囲気が立っている。

:ドリームマッチ!

:これ切り抜き候補だろ!

:やれやれ、はるまきちゃん!

:ジャックも負けるなー!

 掲示板も盛り上がりも最大になり、その雰囲気を掴んだのか、二人が同時に動いた。

 パァンと銃声が鳴り、倒れたのははるまきちゃんだった。

:嘘だ! ドンドコドーン!

:MJD!? はるまきちゃん!

 

 どうようがチャットに走るが、その中で気づいた人がいた。

:あれ、試合終わってなくね?

『ハッ!』

 勝利を確信して、はるまききちゃんに近づいてきていたジャックの背後にはるまきちゃんは回り込んで首を斬る。

 血飛沫の代わりにデータの残滓が飛び散ってジャックの姿が消えた。

 ——WINNER はるまきちゃん! ——

 ◇ ◇ ◇

「ふぅ……これで年間トップだな」

 HMDを外して、俺は一息つく。

 このシャドマセを始めてから、初めての年越しだが今までにない充実感を得ていた。

 仕事と食事と睡眠だけの生活だった俺の中にゲームが入ってきてまだ数か月である。

 壁に掛けてある時計を見れば、23時50分であり、そろそろ家の居間に集まって、新年の挨拶をする時間だ。

「いくか」

 家族にも内緒にしている地下室の一角の隠しゲームルームから俺は出て、家族の集まる居間に向かう。

◇ ◇ ◇

 今に向かうと、家族が集まっていた。

 忍者であり、暗殺を主な仕事としている俺の父親であり、有名暗殺者”ヤタガラス”の先代でもある風間小十郎が俺が座るのを待っている。

 俺が座布団に座るとちょうど0時になり、新年になった。

「あけましておめでとう。こうして皆と顔合わせができることをうれしく思う。ワシらは——」

 その後は長々と親父のあいさつが続き、皆、眠いのを我慢しながら聞いている。

 毎年変わらない、いつも通りの新年だ。

「——で、今年の抱負を語ろうと思う」

 親父の最後の言葉を聞き逃さないよう、皆が体を伸ばして整える。

「この「はるまきちゃん」を晴臣の嫁として迎えるよう、探し出すのだ!」

 

 一瞬で目の覚めることを言い始めた親父の言葉に俺は愕然とした。

 精神を研ぎ澄ませることを修行し続けてた俺の心を揺さぶる一言である。

 何故かと言えば、俺の名前は風間晴臣……シャドマセのトッププレイヤーはるまきちゃんの中の人なのだ。


■晴臣の部屋

 朝、殺気を感じて俺は目を覚ます。

 布団を蹴りあげて相手にかぶせ、距離をとった。

 手には腰から抜いたクナイを持ち、いつでも迎撃できる用意はしている。

「まって、お兄ちゃん、ストップ! ストーォォォッップ!」

 布団からごそごそと顔を見せたのは親戚の娘であり、俺を兄と慕う風間静香だった。

 おでこの出ているショートヘアの頭にはいわゆるアホ毛が揺れている。

 服装は休日だが、動きやすい忍び装束を付けているので修行でもするつもりだろうか?

 なんにしても、新年はじめの親父の挨拶を忘れようと寝ていたのに、殺気で起こされてはかなわない。

「シズ……殺気をだしながら朝から来るのはやめろと何度も言っているだろうが」

「だって、それは欲望が抑えられずに……ごにょごにょ」

 俺はクナイを腰のベルトあたりにしまい、腕を組んでシズの前に立った。

 シズはごにょごにょと言っているが、悪気が合ったわけではないので頭を撫でて宥めておく。

 もう16になると思ったが、まだまだ子供らしさが抜けないのは俺が若干甘やかしているのかもしれなかった。

 

「それで、何の用だ? うちは初詣などはやらない仕来りなのは知っているだろう?」

「要件はあれ! おじさまから通達が来たけど、お兄ちゃんのお嫁さんに【はるまきちゃん】って何なの!?」

 口から言葉が出そうになるのをグッと俺はこらえる。

 ここで何かを言ったり、顔にだしたらシズに感づかれる……。

 それだけは避けたかった。

「何なのだろうな……俺には親父が何を考えているのかわからん」

「そりゃあ、お兄ちゃんは20歳で、現ヤタガラスでしょ? この風魔の隠れ里では一番じゃん! だから、忍者として優秀な人を嫁にして、強い子孫を作るっていうのもわかる! わかるけども! 理性と感情は別なの!! アンダスタァァァァン!?」

 ヒートアップしているシズは最後に謎の英語を吐き捨てながら俺を見上げて来た。

 発音がよくないので、今度しっかり教えておかなければならないだろう。

「言いたいことはわかった、親父にもシズが嫁に立候補したいと伝えておく」

「えっ、ひゃぁっ!? それは、ちょ、や、うれしひけどっ!?」

 いやいやと顔を赤くしながら悶えるシズを背中に俺は部屋を後にした。

 この程度の甘言で揺らぐとは修行が足らないぞ、シズ。

■小田原 Bar Hanafuda

 開店準備中と書かれた看板のある戸を一定のリズムでノックする。

 そうすると、中から開き俺は店へと入っていった。

 薄暗い店内には照明がたかれていて、いい雰囲気のバーであることを示している。

 新年早々にこんな場所へ酒を飲みにきたわけじゃない。

 来た理由は俺の相棒に会うためだ。

「あけましておめでとう、ハル」

「ああ、無事にあえて何よりだ。ヨウ」

 愛称は短く、シンプルに……それが風間の流儀だ。

「俺ッチのとこにも来たんだよねぇ、【はるまきちゃん】の行方探し。しかも報酬がいいってなんの。普段の人探しの5倍だよ、5倍!」

「ほう、それは何よりだが……貴様の命の値段にふさわしいか?」

 

 俺の方へスマホを向けてアピールしてくるチャラい男——神崎陽一かんざきよういち——に俺は鋭い視線でもって返す。

 今、この瞬間から1分でもあれば100通りの殺し方はできる状態だ。

「ハルってばぁ、冗談だよ。冗談、はるまきちゃんのことは墓場まで持ってく情報にしてるよ」

 そう、このヨウは俺=はるまきちゃんと知る人間の一人だ。

 リスクだとも思ったが、どうにも相談できる相手が皆無で、ネットに情報を広げる危険性と天秤にかけてヨウに明かして、いろいろ手伝ってもらっている。

「もっとも、はるまきちゃんの偽情報でたくさん儲けさせてもらってます、はい」

 

 いい笑顔で俺を見てくるヨウだが、この現金なところが俺も買っている部分だ。

 情よりもシビアにネタを扱うこいつだからこそ、俺のネタを明かしている。

「とにかく、親父には困った……俺は普通に遊んでいただけなんだがな……」

「普通に遊ぶ奴は年間ルーキーランキングトップを3か月でとりゃしないってばよ」

 俺はカウンターに体を預けながら、ぼやくとハルはケラケラ笑っていた。

 そう、3か月前のあの日、俺ははるまきちゃんに会ったのである。

 暗殺予定だったターゲットが、遊びで殺した女。

 彼女が持っていたデバイスに残っていたのが【はるまきちゃんのデータ】だったのである。

 ターゲット周りを整理するためには女も処理する必要があったのだが、日記と共に遊ぶ予定だったゲームとはるまきちゃんのアバター情報が俺は忘れられずに奪取して、ヨウに足がつかないようにしてもらって今に至るという訳だ。

「思い返してみれば、らしくないことをした……」

「そうだとしてもよ、今のハルは昔に比べれば人生楽しそうだぜ?」

 

 ヨウにいわれた通り、はるまきちゃんとしてシャドマセを遊んでいるのが楽しい。

 仕事をして食事をして、寝るだけだった俺の人生に彩りを与えてくれているのが【はるまきちゃん】なのだ。

「この人生捨てるわけにはいかないな……何か情報があったらいつも通り頼む。金は払う」

「毎度、一杯飲んでいくか?」

「いや、これからシャドマセでクランの新年会なんだ。未成年は飲まないので、また今度な」

「さよかw」

 ヨウがまたなーと手を振って俺を見送る。

 昼飯を食べた後で、隠し部屋に戻って新年会だ。

 あとでヨウから聞いたんだが、俺の顔が珍しく緩んでいたらしい……。


■クラン【夜の円卓サークル・オブ・ナイト】 クランハウス

 中央に大きな円卓が置かれているクランハウスのコネクトポイントに、はるまきちゃんが現れる。

 すでに他のメンバーはいて、バーチャル空間にもかかわらず飲み物を飲んで盛り上がっていた。

 アルコールを摂取してないのに酔ったりしないはずだが、雰囲気に酔っているのだろう。

『あけましておめでとう、はるまきちゃん』

『あけましておめでとうございまーす、リアムさん♪』

 はるまきちゃんに声をかけたのは長身で騎士の礼服のような華美な衣装に身を包んでいるリアム・ファルコンだ。

 金髪で碧眼、わかりやすいイケメンで銃よりもロングソードのほうが似合いそうな風体である。

 年齢は20代後半くらいだろうが、ゲームのアバターである限り中の人がそうとは限らなかった。

 はるまきちゃんが初めてシャドマセを始めた時にいろいろ教えてくれた先輩であり、そのこともあってはるまきちゃんはクランに入っている。

『あけおめです。はるまきおねーちゃん!』

『あけましておめでとうだよ、アリスくん!』

 パタパタとはるまきちゃんの方にかけて来たのは中性的な外見をした栗色のくせ毛の少年のアリスだ。

 はるまきちゃんは近づいて抱き着いてくるアリスをむぎゅーと抱き返す。

 豊満なはるまきちゃんの胸のアリスの顔が半分ほど埋まった。

 微笑ましくも、一部ではうらやましがられる光景である。

『ん……』

:あけましておめでとうございます、はるまきちゃん

『ソルさんも、あけましておめでとうございます』

 

 無言で鋭い視線を向けてきたボロボロの軍服にマントを付けた男にはるまきちゃんは笑顔で挨拶を返す。

 ソルと呼ばれた男は登録名を兵士となっているが、無口で名乗らない為、いつしかソルジャー→ソルという愛称が定着していた。

 会話も主にチャットでしている。

 この場にははるまきちゃんを除き女性アバターの姿はない……いわゆる、はるまきちゃんハーレム状態だった。

 そのことについてはクランリーダーのリアムは何も言わないので、誰も言わない。

『じゃあ、はるまきちゃんも来たので改めて乾杯しようか』

『ありがとうございます。オレンジジュースにしますね♪』

 

 はるまきちゃんの手にオレンジジュースが召喚されたのを確認するとリアムが乾杯の挨拶をした。

『それでは【夜の円卓】の今後を祝福を! 乾杯!』

『『乾杯!』』

 乾杯をしたとき、タイミングよくはるまきちゃんへシステムメッセージが届く。

 はるまきちゃんがウィンドウを呼び出してメッセージを開くと、ツインテールの少女がなだらかな胸を張って宣言をする動画メッセージが再生された。

『はるまきちゃんへ、スティルハンターより、挑戦状を叩きつけるわ! 4対4のスクワッド戦よ。こっちは全国のトップランカーをそろえてくるから、あなたもメンバーをしっかり選ぶことね! あんたになんか、お兄ちゃんを渡さないんだからっ!』

 言いたいことを言い終えるとメッセージの再生が止まり、リプレイボタンが出てくる。

 メッセージを見たはるまきちゃんは固まっていた。

『スティルハンターってあのギリースーツの小柄なランカーだったが、女の子だったとはね……声を聴いたものはほとんどいないから、そういう場合もあるか』

:スナイパーでしたから、通信をほとんどしないのもさらに謎の人物観をだしていましたね。

『はるまきおねーちゃんとスティルさんのお兄さんはどんな関係なんでしょう?』

 ガヤガヤとクランメンバーが騒いでいる中でも、はるまきちゃんは接続が切れたかのように固まり続けていた。

『はるまきちゃん、大丈夫かい?』

『あっ、はい! 大丈夫ですよー! スクワッド戦は私、ほとんど経験ないからどうしようかなぁ~なんて』

『はるまきおねーちゃんなら、募集すればすぐにノラは集まりそうですよね』

:だが、相手がトップランカーぞろいとなれば、連携が重要。

『ふむ、それならば……僕達、【夜の円卓】の出番じゃないかな? ちょうど全員合わせれば4人だよ』

 

 リアムの言葉にアリスも、ソルも頷いてはるまきちゃんを見る。

『みんな、ありがとう! うん、知り合って長いみんななら信じられるよ』

『じゃあ、スクワッド戦の役割確認のため、このあと訓練場で動いてみようか』

『……賛成だ』

『『ソルさんがしゃべった!?』』

 意外な人物の意外な声を聴いて、驚きながらも訓練場での連携実験とリアムによるスクワッド戦の解説を聞いていたら、いつの間にか夜になっていた。

 

——2055年1月3日

——Team【静かなる狼】 VS Team【夜の円卓】 SQUAD BATTLE START!

 試合開始の合図と共に、廃病院フィールドの北側と南側の平地にはそれぞれのチームが召喚される。

 互いに目視できない距離だが、レーダーには映っていることを確認していた。

:新春スクワッドバトル助かる~

:それなw

:ワクワクが止まらないぜ!

:コーラとポップコーンを準備してた俺は勝ち組

:ちくしょう! 俺も買ってくる!

:いてらー

 試合の進行を眺めている視聴者たちはチャットで試合を盛り上げている。

 シャドマセの公式チャンネルで配信中のこの試合は視聴数が開始数分で1万を超えて、まだ伸びていた。

 カメラドローンがフィールド上空にいくつも飛んでいて、試合の様子をライブ配信で流し続けている。

 ライブ配信はシャドマセ内の待機所や、ゲームにログインしていない人はスマホで見ていた。

■Team【静かなる狼】

『一気にせめていこー! 私はスナイパーのポジションを取ればいいよね?』

『連携については向こうのほうが上だろうが、こちらはソロランキング上位の猛者たちだ、それぞれの得意分野で攻めていけばいい』

『敵の全滅狙いで、いつも通りやっていこう』

『今日も地獄を振るわせていくぜ!』

 今回の主役であるスティルハンターがギリースーツから美少女の顔を出しつつ話している。

 まるで土から生首が生えているようだ。

 そのスティルに合わせて、チームを組んでいる、ブラッド(ランキング7位)、ヴォイド(ランキング12位)、ヘルシェイカー(ランキング5位)達がレーダーで【夜の円卓】のメンバーの位置を把握しながら動き出す。

 

:スティルは可愛い女の子だったなんて!

:生首助かるぅ~

:いや、それはないだろw

:それはないだろはないだろw

:大草原不可避wwwww

 チャットの盛り上がりを受けつつも、無駄な会話を避けて【静かなる狼】達は平地から廃病院を目指した。

 

■Team【夜の円卓】

 レーダーで全体の流れを見ながら、リアムが金髪の髪を揺らして全員に指示を出す。

 ランキングは20位よりも下なのだが、それはランクマッチを主にやっていないだけで、プレイ時間は長かった。

 豊富な経験から導き出される作戦を反対するメンバーはここにはいない。

 

『はるまきちゃんが病院に入ったのを確認した。アリスは後ろから追いかけてフィールド確保の援護。ソルは中距離支援に回ってくれ』 

:きゃー、リアム様のご尊顔が!

:正月からいいものを見れた。今年一年生きていける!

:ありがとうございます、ありがとうございます!

 こちらは女性からのコメントが多い。

 リアム・ファルコンはゲーム内の実力ランキングは低いが知名度という意味では断トツだ。

 噂ではリアムの薄い本も出ているとかいないとか……。

 カメラの1つがはるまきちゃんを追いかける。

 なぜか、ローアングルでパンチラを狙っているのは数字を取るためだ。

:今日は縞パン!

:さすが運営、そこにしびれるあこがれる!

:いや、ドローンカメラの動きはAIが視聴率を分析して自動でやっているって噂だぞ?

:ΩΩΩ<な、なんだってー!?

 廃病院の中心部にある大浴場が今回の制圧ポイントだった。

 はるまきちゃんが、持ち前のAGIを生かして、敵の接近前に制圧を目指している。

 狙撃を警戒して風呂の中に身をかがめて、はるまきちゃんは道中に入手したアイテムを整理していた。

 ゲージが進み、制圧度合いが上がっていく。

 しかし、すんなりとは進ませてはくれないようだ。

『オレ様が地獄だぜ!』

 建物の外部から、ロケットランチャーが撃ち込まれる。

 一発が大浴場に入って、爆発した。

 爆風があたりをつつみ、視界が悪くなる。

 

『無茶苦茶な人がいるなぁ……ステルスマントを付けて移動していたのかな……なかなかやるなぁ~』

 爆風に包まれるも、致命傷を避けられたはるまきちゃんは手に入れた回復アイテムを使って治療していく。

 はるまきちゃんが治療している間に、再び外からロケットランチャーが撃たれそうだったが、そこをアリスとソルが迎撃してくれたので、はるまきちゃんは安全を確保しながら制圧ゲージを達成できた。

 先手必勝作戦はうまくいき、フィールド制圧によるポイントがTeam【夜の円卓】がまずは1ポイント確保する。

『二戦目もポイントを取って、勝利を手にしよう』

 リアムの言葉に次の試合に向けて各自は気合いを入れ直すのだった。


■Team【静かなる狼】

 試合の仕切り直しがなされた時、フィールドは北側から南側に移っていた。

 場所の切り替えもスクワッドバトルの特徴でもある。

 メンバーは集まり、すぐに反省会を行った。

『作戦を変えていこう。事前に打ち合わせた作戦のうち【ハンティングネット】を実行しよう』

 話を切り出したのは、冷静な判断なこのチームでできるヴォイドだ。

 ランキングは12位でスティルよりは上なのだが、ソロではなくチーム戦で力を発揮するタイプである。

 今日の試合前に事前の打ち合わせで、決めていた作戦名を告げたら全員がその通りに動いた。

 今回はスティルもアサルトライフルを持って移動している。

:なんか軍隊みたいに綺麗な動きになった!

:ここから逆転するか!

:ワクワクが止まらないぜ!

 

 チャット欄も盛り上がり始め、静かなる狼たちをドローンカメラが追いかけていった。

 廃病院に入っていき、導線を潰していく様子に無駄な動きはなく、進路をクリアにしながら中央拠点へあ・え・て・敵を誘導していった。

 ここまでは作戦通りである。

 次なる一手はブラッドのチャフ&スタングレネードから始まった。

■Team【夜の円卓】

 バァァンとグレネードがはじけて、レーダーが死に続いて耳がキーンとなるような爆音が拠点となっている大浴場に響く。

 元が大浴場だったこともあって、音の反響がよくスタングレネードの効果が二割ましだ。

『通信ができない!? みんな、無事ですか!?』

 

 思わず、大きな声を上げてしまうアリスだが、この状況では悪手である。

 声を上げたアリスのほうに向かってまずるフラッシュが光り、撃たれたのがわかった。

 隠れているはるまきちゃんは逃げるために周囲を伺うが、耳鳴りが酷いこととレーダーで敵の位置がわからないことで、上手く動けないでいる。

:はるまきちゃんピンチ!?

:がんばえー、はるまきたん!

 チャットからは応援メッセージが流れているが、はるまきちゃんは見ることはできない。

 もちろん、みれる状況であったとしても、そんな余裕はなかった。

 制圧拠点にはチームが入り乱れているので、ゲージは増えずに停滞しているのだけがわずかに確認できたことである。

 静かに匍匐前進するようにはるまきちゃんが動いていると、頭部にナイフが刺さった。

 振り向けばヴォイドがにやりとした笑みを浮かべている。

 特殊スキルによる瞬間移動をしたため、気配を察知できるはるまきちゃんでもとらえきれなかったのだ。

 はるまきちゃんが悔し気な顔を浮かべながら画面から消えていく。

:さすが全国ランキング上位だ

:はるまきちゃんも、いうてまだルーキーだからなぁ

:新人なのを忘れるほど、はるまきちゃんがすごいねん

 消えていったはるまきちゃんを見送るチャットには否定的な意見はなかった。

 

◇ ◇ ◇

 倒されて、次のフェイズまで見ることしかできなくなった俺はギリリと歯ぎしりをする。

 【悔しい】という感情を久しぶりに得たが、すぐに深呼吸して冷静さを取り戻した。

「やってくれたな……確かにああいった装備で包囲されたら対応できないか、このゲームは本職への修業になる」

 画面でははるまきちゃんとアリスが倒れたことで数の差で対応ができず、リアムがスティルに狙撃されたところで決着となる。

 第三フェイズが始まる……泣いても、笑っても最後の戦いだ。

 

「たかがゲームと思っていたが、ルーキーから上にはこんな奴らがいるわけだな。あらゆる手段を使って目的を達成するやり方を知っているのはお前らだけでないことを教えてやる」

 俺は自分でも気づかぬうちに笑みを浮かべていたのを、口元を触ることで気づく。

 目の前にでている試合開始のボタンを押して、俺ははるまきちゃんとして、再び戦場へ戻った。

 
■Team【夜の円卓】

『作戦を変えたいと思うの……私達のランキングは低いかもしれないけれど、殲滅戦を挑みたい!』

 はるまきちゃんがチームメイトに告げる。

 突出した実力を持っているのがはるまきちゃんだけの【夜の円卓】では殲滅戦は不利といえた。

 それでも、拠点制圧しようと思うと先ほどと同じ作戦で包囲殲滅される恐れが高いのも事実である。

『わかった、はるまきちゃんの作戦を聞こう』

『ソルさんに足を確保してもらって、リアムさんを運ぶ形にしてほしいの。フォーメーションはツーマンセルを2つみたいな?』

:了解……リアムは俺について来てくれ

『はるまきおねーちゃん、今度は足を引っ張らないようにするよ!』

『アリスくん、よろしくね』

 

 二組に分かれて行動をし始める。

 はるまきちゃんとアリスは廃病院のほうへ、リアムとソルは車を入手するために外を行く。

 

:ここから殲滅戦に切り替えるのはすごいなぁ

:いい勝負になるか、どうか……具体的な作戦次第?

:はるまきちゃんがちょっとかっこいいぜ!

 チャットの応援を受けた【夜の円卓】は戦場へ向かった。

■Team【静かなる狼】


 レーダーを見ていた、ヴォイドは同じ作戦を引き続きとるため、制圧拠点に向かうための進路妨害を仕掛けていく。

 はるまきちゃんともう一人が廃病院に入ってきたのを確認はしていた。

 向かうのは拠点だろうと思っていたヴォイドだが、レーダーは自分のほうへ向かっている存在を示す。

『何!? どういうことだ?』

 ヴォイドは〈瞬間移動〉スキルを使うタイミングを計りながら、光点が移動しているのを見た。

 敵は二人……先行しているのは、はるまきちゃんだろう。

 ヴォイドは残弾を確認し、アサルトライフルを構えて、敵が姿を見せるのを待った。

 姿を見せたのはアリスである。

 アリスの手からスモークグレネードが転がり、ヴォイドの視界が悪くなった。

 おおよその位置に向かって、ヴォイドはアサルトライフルを連射する。

 チュンチュンチュンと壁などにあたっているだだろう軽い音しかしなかった。

『お・か・え・しだよ♡』

 突如、天井が崩れたかと思うと、はるまきちゃんが現れヴォイドの首をクナイで斬りつけた。

 喉元を瞬時に斬り裂き、即死させる。

 

『アリスくん、次を倒しに行こう。このヴォイドって人がリーダー格だから、あとは崩れていくはずだよ』

『はい! はるまきおねーちゃん!』

 はるまきちゃんとアリスは互いにうなずきあって、レーダーを元に次の敵を探しに行く。

 二人で挑めば無敵のように見えた。

:ぷりてぃな二人組だ!

:まて、アリスは男だぞ?

:何を言って言いる。ついているならお得じゃないか!

:変態しかいねぇなぁw

 チャットでははるまきちゃんとアリスをたたえるコメントが流れていく。

『私の活躍を引き続き見てね♪』

 カメラに向かって投げキッスをしたはるまきちゃんは、ミニスカートをひるがえしてその場から離れた。

◇ ◇ ◇

 一方、別のカメラはヘルズシェイカーを追っていた。

 高火力重装備を持った歩く要塞ともいえる彼の行動は1試合目、2試合目と目立っていたので注目されるのは仕方のないことである。

『ヴォイドがやられたか……だが、俺は俺の道をいくぜ!』

 当初の予定通り、制圧拠点となっている大浴場の窓側に回り込んで動いていた。

 装備が重いために移動速度が遅いが、小回りの利くメンバーが先行しているので問題ない。

 背後もスナイパーのスティルが狙撃体制に入っている限り安心もできた。

 チュンと足元に銃弾があたったことを知り、ヘルズシェイカーは中庭の林になっている部分へ身を投げる。

 身を隠しながらレーダーで敵の位置を確認する。

 動いている光が1つだけ見えるが、スナイパーは捉えきれていなかった。

 装備しているのは赤い悪魔のような外見をしたパワードスーツ【ディアブロ】である。

 ただのスナイパーライフルではやられることのない耐久度を持っていた。

『隠れるのはいいが、じっとしているのは性に合わん』

 動く光に向けて、誘導ミサイルを構える。

 サイトが捉え、ロックオンの合図が出た時、銃弾が飛んできてヘルズシェイカーの頭を吹き飛ばした。

『見事』

『貴重な賞賛ありがとう。ソル君の運転が安定しているおかげだよ。サイドカーが見つかったのは運も僕らに向いているのかな?』

『然り』

『はるまきちゃんの援護に向かおう。スナイパーであるスティルははるまきちゃんに倒させてあげたいしね』

 サイドカーに乗りっぱなしのリアムに従い、ソルはバイクを走らせて飛ばした。

◇ ◇ ◇

『ヴォイドも、ヘルズシェイカーもやられた!? どういうことなの!?』

 ランキング上位だったメンバーがやられてしまったことで、動揺したスティルはギリースーツを脱いだ。

 装備しているのは連射ができるスナイパーライフルとして優秀なマークスマンライフルタイプの銃である。

 抱えたまま移動し、作戦を考え直しているようだった。

:スティルたん終了のお知らせ

:処刑用BGMが流れてもおかしくない展開だ

:ま、まだ仲間一人いるし!

 

 チャットの方も終わりが見えているのか反応が鈍い。

 スティルは物陰に隠れながら、レーダーを確認し目視でも警戒をしていった。

 焦っているのがわかるほど、周囲をキョロキョロしている。

 そこに、仲間であるブラッドの姿が見えた。

『ブラッドね。良かった、二人いれば背後を守ってもらえるわ』

 一安心し、他を警戒するために視線をブラッドから離したとき、タンタンと銃声が鳴ってスティルは背後から撃たれた。

『喋らない味方は味方じゃないこともあるんだよ』

 何が起きたかわからないといったスティルが目を見開いてブラッドの方を向くと、ブラッドの姿がバラバラになって消えてはるまきちゃんが立っている。

 はるまきちゃんの持つスキル〈偽装〉だった。

『私の負けね……完敗よ……』

 光の粒子になって消えていくスティルを見送ると、試合終了の合図がでる。

 ——WINNER IS 【夜の円卓】——

 一つの戦いが終わった。

 だが、これは次の戦いの序章に過ぎない……。


■風魔の里 訓練所

 俺のいる風魔の里はいわゆる忍者の隠れ里であるため、里の中に訓練所がある。

 風がそよぐ竹林の中にいる俺は朝食後の運動として、自主訓練を続けていた。

 訓練所は時間帯によって決まっているので、その決まっていない時間帯……日が昇りきる前に俺はいる。

 息を吐けば白く染まり、1月という季節を感じた。

「ゲームではこういうところは再現されていないんだがな……」

 ぽつりとつぶやいて、水分補給をする。

 すると、目の前が真っ暗になった。

「だ~れだ?」

「こんなことをするのはシズしかないだろ……」

 目を手で隠されたが、殺気などもなかったし近づいている段階で気が付いていた。

 ただ、あえて無視していただけである。

「そっか~。なーんか、つまんないの!」

 両手を頭の後ろにもっていって、口を尖らせたシズは俺の隣に移動した。

 改めてみると、シズは背丈が低く小動物のような可愛いさのある女だと思う。

「お兄ちゃん私を見てどうしたの?」

「いや、修行をさぼっていて少し太ったんじゃないかとな」

「なぁ!? デリカシーなし! そんなんじゃ、おねー様を射止められないよ!」

「おねー様?」

 俺の突っ込みに顔を真っ赤にして反応をするシズから、気になる単語が出て来た。

 今まではそんな単語を聞いた覚えはない。

 嫌な予感が俺の脳裏に浮かんだ。

「そう、はるまきおねー様! 可愛くて強くて、もうお兄ちゃんのお嫁さんは私がなれないなら、はるまきおねー様だけだね」

 うんうんと頷くシズの姿に頭痛がし始めるも表に見せず、平静をよそおう。

 挑戦状の段階から予想はしていたが、この結果は予想外だった。

「だからね、はるまきおねー様と仲良くなるためにリアムさんへクランに入れてって、ラブコールを送っているところなの♪ 明日までに返事が来なかったら、ちょっとリアルで訪問しちゃうのも辞さないかな」

 フフフフと笑うシズの顔は端的に行ってヤバイ。

 現役女子中学生がしていい顔じゃなかった。

「シズ、【風魔の掟】はわかっているな?」

「わかっているわよぉ、”依頼がない限り外部との接触はご法度”でしょ? 情報屋経由でちょっと探りを入れるだけだよぉ~」

(それは、わかってないだろ……)

 シズは【静香】という名前なんだが、静かというより激情型だと俺は思う。

 何よりも問題なのは……。

(はるまきちゃんの中の人は俺なんだが)

 この情報を伝えられる人間はごく少数。

 ますます墓場まで持っていかなければいけない秘密を抱えてしまった俺だった。
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