78 / 86
亜利馬、人生最高の1日
2
しおりを挟む
部屋に入って温めた弁当をテーブルに置き、正面に座ったケンさんのカメラに向かって「いただきます!」と手を合わせる。クリスマスなんだから弁当ではなく豪華な食事やケーキも用意するべきだと思ったけれど、「素の俺」が良いということで、いつもとさほど変わらないメニューだ。
「乾杯!」
シャンパンに見えなくもない炭酸飲料が入ったグラスをカメラに向けて、一口飲む。こんな平凡なクリスマスで良いのだろうか。部屋の中も普段通りで、飾りもツリーもない。
それからしばらくカメラに向かって返事のない会話をした。休憩を挟みながら撮っていたからだいぶ時間がかかってしまったが、そろそろこの撮影も終了だ。
「一緒に寝ようか」
布団に入ったところで「おやすみ。大好きだよ」の台詞と共に暗転し、映像が終わる手筈だ。残すはあと1シーンだけ。
──東京で初めて迎えるクリスマス。まだ少し先のことだけど、みんなで楽しめるといいな。
布団を敷きながら思った瞬間、インターホンが鳴った。
「ありゃ、お客さんかな。一旦カメラ止めるね」
ケンさんがデジカメをテーブルに置き、俺は「誰だろう」と立ち上がった。今日この動画を撮ることはみんな知っているから、ブレイズの誰かが訪ねてきたというのはありえない。こんな遅い時間にセールスでもないだろうし、最近は通販で何かを頼んだ記憶もない。
記憶はないけど、モニタには配送業者らしい男の人が映っていた。制服に帽子に、手には段ボールの箱を抱えている。……何か頼んだっけ。
「はいはい」
ドアを開けると、業者の人が「お届け物です」と素っ気ない低い声で言った。サインをして受け取った箱はかなり大きく、しかも何故かひんやりしている。母ちゃんが実家から何か食料を送ってくれたのかと思ったが、伝票の差出人には何も書かれていない。
「あの、どなたから……」
「俺達だよ!」
「わっ……!」
瞬間──隣の獅琉の部屋のドアが開き、中から獅琉と潤歩、大雅が飛び出してきた。
「えっ、何……どういうこと?」
「確かに届けたぞ!」
「……竜介さんっ?」
宅配業者だと思っていた男の人が帽子を取って笑う。その笑顔は間違いなく竜介で、俺は目を回しながら動揺してしまった。
「何で? どういうことですかっ?」
「お邪魔しまーす!」
どたどたと四人が俺の部屋に入ってくる。
「ちょちょ、待ってください! 今、クリスマス用の動画を撮ってて……!」
箱を抱えたまま慌てて四人の後を追いリビングに入ると、ケンさんがデジカメを構えて立っていた。そして──
「亜利馬、誕生日おめでとう!」
「ハッピーバースデー!」
「……へ?」
茫然としながらも視線を時計に向ける。零時過ぎ──日付は、十二月三日。
俺の、誕生日。
「乾杯!」
シャンパンに見えなくもない炭酸飲料が入ったグラスをカメラに向けて、一口飲む。こんな平凡なクリスマスで良いのだろうか。部屋の中も普段通りで、飾りもツリーもない。
それからしばらくカメラに向かって返事のない会話をした。休憩を挟みながら撮っていたからだいぶ時間がかかってしまったが、そろそろこの撮影も終了だ。
「一緒に寝ようか」
布団に入ったところで「おやすみ。大好きだよ」の台詞と共に暗転し、映像が終わる手筈だ。残すはあと1シーンだけ。
──東京で初めて迎えるクリスマス。まだ少し先のことだけど、みんなで楽しめるといいな。
布団を敷きながら思った瞬間、インターホンが鳴った。
「ありゃ、お客さんかな。一旦カメラ止めるね」
ケンさんがデジカメをテーブルに置き、俺は「誰だろう」と立ち上がった。今日この動画を撮ることはみんな知っているから、ブレイズの誰かが訪ねてきたというのはありえない。こんな遅い時間にセールスでもないだろうし、最近は通販で何かを頼んだ記憶もない。
記憶はないけど、モニタには配送業者らしい男の人が映っていた。制服に帽子に、手には段ボールの箱を抱えている。……何か頼んだっけ。
「はいはい」
ドアを開けると、業者の人が「お届け物です」と素っ気ない低い声で言った。サインをして受け取った箱はかなり大きく、しかも何故かひんやりしている。母ちゃんが実家から何か食料を送ってくれたのかと思ったが、伝票の差出人には何も書かれていない。
「あの、どなたから……」
「俺達だよ!」
「わっ……!」
瞬間──隣の獅琉の部屋のドアが開き、中から獅琉と潤歩、大雅が飛び出してきた。
「えっ、何……どういうこと?」
「確かに届けたぞ!」
「……竜介さんっ?」
宅配業者だと思っていた男の人が帽子を取って笑う。その笑顔は間違いなく竜介で、俺は目を回しながら動揺してしまった。
「何で? どういうことですかっ?」
「お邪魔しまーす!」
どたどたと四人が俺の部屋に入ってくる。
「ちょちょ、待ってください! 今、クリスマス用の動画を撮ってて……!」
箱を抱えたまま慌てて四人の後を追いリビングに入ると、ケンさんがデジカメを構えて立っていた。そして──
「亜利馬、誕生日おめでとう!」
「ハッピーバースデー!」
「……へ?」
茫然としながらも視線を時計に向ける。零時過ぎ──日付は、十二月三日。
俺の、誕生日。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説

男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる