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番外編、大雅の物語
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「お、……大雅。見てみろ、雪だ」
言われて窓の外に顔を向けると、明け方近い渋谷の空に白い粉雪が舞っていた。
「初雪だな」
「……綺麗」
「ああ」
こんな景色を一緒に見ること。それもまた彼の言う「分け合うこと」なのだろうか。
「竜介」
「うん?」
踏み出す勇気はまだないけれど、口実を作るのには慣れている。
「……もし明日もケーキ買ったら、また食べにくる?」
「そりゃ勿論行きたいが、俺ばかりいつも悪いからな。……明日は仕事が終わったら、どこかケーキの美味いレストランで食事でもしないか。今度は俺がご馳走するよ」
嬉しい癖に、顔に出すことができない。ほんの少し笑うだけでも違うと分かっているのに。嬉しければ嬉しいほど、笑えないばかりか顔が赤くなって恥ずかしくなる。大雅は窓の外の雪に気を取られたフリをして、「うん」と素っ気なく呟いた。
「まぁ、言い訳だな……」
竜介が照れたように笑って頭を掻く。言葉の意味するところは分からないがその笑い方が可愛くて、大雅は窓から視線を戻し、竜介の肩に軽くキスをした。
「というわけで、明日は早く終わった方が待ってるんだぞ」
「……うん」
待つのには慣れている。これからだって待つことを覚悟している。──いつか自分が勇気を手に入れられる、その時を。
「寒くないか」
「……温かいよ」
これからもきっと大雅は竜介を待ち続ける。素っ気なさの裏に精一杯の想いを託した、言い訳という名前のケーキを用意して。
終
言われて窓の外に顔を向けると、明け方近い渋谷の空に白い粉雪が舞っていた。
「初雪だな」
「……綺麗」
「ああ」
こんな景色を一緒に見ること。それもまた彼の言う「分け合うこと」なのだろうか。
「竜介」
「うん?」
踏み出す勇気はまだないけれど、口実を作るのには慣れている。
「……もし明日もケーキ買ったら、また食べにくる?」
「そりゃ勿論行きたいが、俺ばかりいつも悪いからな。……明日は仕事が終わったら、どこかケーキの美味いレストランで食事でもしないか。今度は俺がご馳走するよ」
嬉しい癖に、顔に出すことができない。ほんの少し笑うだけでも違うと分かっているのに。嬉しければ嬉しいほど、笑えないばかりか顔が赤くなって恥ずかしくなる。大雅は窓の外の雪に気を取られたフリをして、「うん」と素っ気なく呟いた。
「まぁ、言い訳だな……」
竜介が照れたように笑って頭を掻く。言葉の意味するところは分からないがその笑い方が可愛くて、大雅は窓から視線を戻し、竜介の肩に軽くキスをした。
「というわけで、明日は早く終わった方が待ってるんだぞ」
「……うん」
待つのには慣れている。これからだって待つことを覚悟している。──いつか自分が勇気を手に入れられる、その時を。
「寒くないか」
「……温かいよ」
これからもきっと大雅は竜介を待ち続ける。素っ気なさの裏に精一杯の想いを託した、言い訳という名前のケーキを用意して。
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