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ブレイズ、そこにいる5人
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鏡の前に座り──小さめのヘアアイロンで前髪の細かい部分を挟まれ、伸ばされて行く。アイロンの持つ熱で額からこめかみの辺りがほんのり温かくなり、心地好くて寝てしまいそうだ。
「ユージさん、前に一本だけAV出たって言ってましたよね。その時の話って、良かったら聞いてもいいですか?」
「うん、いいよ。出たって言ってもメインじゃないしね。素人モノのナンパ企画で、お金もらって車の中でフェラされて終わり。何人かのうちの一人だよ。その後ホテルで本番撮影してる子もいたけど、僕は勇気がなくて断っちゃったんだ」
ワックスの付いたユージさんの長い指が俺の髪の中へ埋まり、左側の短いところをくしゃくしゃと揉み込むように動く。頭皮マッサージをされている気分だ。危うく涎が出そうになった。
「ゆうちゃん。僕、その話聞いてないんだけど」
「だってもう十年前の話だよ。自分から話すようなことでもないしさ」
体を反対にして椅子に座っていた庵治さんが、背もたれに頬杖をついて「むう」と頬を膨らませる。
「探せばDVD見つかるかな。何てタイトル? ウチから出てるやつ?」
「教えない。おーちゃんに見せたらどうせ碌なことにならないもん」
「碌なことに使うから、お願い」
「や~だ」
俺は含み笑いをしながらそのやり取りを聞いていた。彼らの場合、意外にもユージさんの方が主導権を握っているみたいだ。
「でも、庵治さん怒ってはいないんですね。ユージさんがAV出たことあるって、今知ったんでしょ?」
「別に怒らないよ。出会う前のことに怒ったり嫉妬しても意味ないじゃん。過去のことを俺が怒る権利もないし」
「まあそうですけど……」
「少し前に有名な女優さんが結婚して子供産んだ時、『子供が可哀想』ってバッシングが凄かったんだよね。AVやってるような女は子供持つなとか、誰の子か分かんないとかさ。馬鹿じゃねえのって思うよね。大人のそういう差別があるから子供のイジメも無くならない」
赤い髪を掻いてむくれる庵治さんに、ユージさんが「まあまあ」と優しく声をかける。庵治さんのお母さんが元AV女優だという話は、俺もつい最近知ったばかりだ。
「嫌悪感持つのは仕方ないけど、傷付けていい理由にはならないよね」
「それよりさぁ、亜利馬くん。今日の動画は覚悟しといてね。ライブじゃない分、フルスロットルではっちゃけるから」
「ええ……もう、本当に勘弁してくださいよ。庵治さん何かと俺のこと脱がしにかかるんですもん……」
ニヒヒ、とチェシャ猫の笑い方をして、庵治さんが椅子から立ち上がった。そのままこちらに近付いてきて、ユージさんの頬にキスをする。
「ゆうちゃん、亜利馬くんを今日一番可愛くしてあげてね。そんで帰ったら俺の頭も洗ってね」
「頭くらい自分で洗いなよ」
「だって僕ゆうちゃんの指使いすっげえ好きなんだもん。シャンプーされるとイきそうになる」
「馬鹿なこと言ってないでさぁ……」
「あは。そんじゃ亜利馬くん、また後ほど!」
「ほ、本当によろしく頼みますよ!」
鼻歌交じりにインヘルちゃんのぬいぐるみを抱えて控室を出て行く庵治さん。その背中を見送ってから、俺とユージさんは同時に溜息をついた。
「ユージさん、前に一本だけAV出たって言ってましたよね。その時の話って、良かったら聞いてもいいですか?」
「うん、いいよ。出たって言ってもメインじゃないしね。素人モノのナンパ企画で、お金もらって車の中でフェラされて終わり。何人かのうちの一人だよ。その後ホテルで本番撮影してる子もいたけど、僕は勇気がなくて断っちゃったんだ」
ワックスの付いたユージさんの長い指が俺の髪の中へ埋まり、左側の短いところをくしゃくしゃと揉み込むように動く。頭皮マッサージをされている気分だ。危うく涎が出そうになった。
「ゆうちゃん。僕、その話聞いてないんだけど」
「だってもう十年前の話だよ。自分から話すようなことでもないしさ」
体を反対にして椅子に座っていた庵治さんが、背もたれに頬杖をついて「むう」と頬を膨らませる。
「探せばDVD見つかるかな。何てタイトル? ウチから出てるやつ?」
「教えない。おーちゃんに見せたらどうせ碌なことにならないもん」
「碌なことに使うから、お願い」
「や~だ」
俺は含み笑いをしながらそのやり取りを聞いていた。彼らの場合、意外にもユージさんの方が主導権を握っているみたいだ。
「でも、庵治さん怒ってはいないんですね。ユージさんがAV出たことあるって、今知ったんでしょ?」
「別に怒らないよ。出会う前のことに怒ったり嫉妬しても意味ないじゃん。過去のことを俺が怒る権利もないし」
「まあそうですけど……」
「少し前に有名な女優さんが結婚して子供産んだ時、『子供が可哀想』ってバッシングが凄かったんだよね。AVやってるような女は子供持つなとか、誰の子か分かんないとかさ。馬鹿じゃねえのって思うよね。大人のそういう差別があるから子供のイジメも無くならない」
赤い髪を掻いてむくれる庵治さんに、ユージさんが「まあまあ」と優しく声をかける。庵治さんのお母さんが元AV女優だという話は、俺もつい最近知ったばかりだ。
「嫌悪感持つのは仕方ないけど、傷付けていい理由にはならないよね」
「それよりさぁ、亜利馬くん。今日の動画は覚悟しといてね。ライブじゃない分、フルスロットルではっちゃけるから」
「ええ……もう、本当に勘弁してくださいよ。庵治さん何かと俺のこと脱がしにかかるんですもん……」
ニヒヒ、とチェシャ猫の笑い方をして、庵治さんが椅子から立ち上がった。そのままこちらに近付いてきて、ユージさんの頬にキスをする。
「ゆうちゃん、亜利馬くんを今日一番可愛くしてあげてね。そんで帰ったら俺の頭も洗ってね」
「頭くらい自分で洗いなよ」
「だって僕ゆうちゃんの指使いすっげえ好きなんだもん。シャンプーされるとイきそうになる」
「馬鹿なこと言ってないでさぁ……」
「あは。そんじゃ亜利馬くん、また後ほど!」
「ほ、本当によろしく頼みますよ!」
鼻歌交じりにインヘルちゃんのぬいぐるみを抱えて控室を出て行く庵治さん。その背中を見送ってから、俺とユージさんは同時に溜息をついた。
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