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ブレイズ、初めてのお泊り会
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独断と偏見で決めた俺の中の「優しさランキング」一位の獅琉に断られ、俺は次に同率一位の竜介の肩を揺さぶった。いびきをかいて寝ている竜介はなかなか起きてくれないが……何度か繰り返していたら、ようやくその目を開けてくれた。
「お、……どうした亜利馬」
「竜介さん。部屋のトイレが壊れてるみたいで……。廊下の方のトイレ、一緒に来てくれませんか?」
「構わないぞ。こういうのも先輩の役目だからな」
「さ、さすが兄貴っ……」
あくびをしながら身を起こした竜介が、「よっこいせ」と布団に手をついて立ち上がる──が。
「お、……?」
その腕がガクンと折れ、再び布団に尻餅をついてしまう竜介。
「どうしたんですか?」
「うーん、……立てん」
「ええっ」
「相当飲んだからな。悪いが、もうしばらく待ってくれないか」
聞きたくない。そんな先輩の弱気な台詞なんて、一言だって聞きたくない。
「うーん」
見た目に反して相当酔いが回っているらしく、竜介が布団の上で転がった。駄目だこの兄貴は。
大雅は絶対に起きないだろうし、潤歩には頼みたくない。こうなったらもう、一人で行くしかないのか──
「……暗闇で座って何やってんだ? まさか漏らしたんじゃねえだろうな」
「う、潤歩さん?」
葛藤していたら突然潤歩が起き上がり、眠そうに目を擦りながらそのまま立ち上がった。
「どこ行くんですか?」
「どこって、小便に決まってんだろうが……」
「お、俺も行きますっ」
「気持ち悪りいな、付いてくんなよ」
「いえ、俺も行こうと思ってたところなので……」
思いがけないチャンスに安堵し、慌てて潤歩の後を追う。玄関でスリッパを履いていると、暗闇の和室からのっそりと大雅が出てきた。
「俺も行く……」
「全く、トイレも一人で行けねえのかよお前らは。男として恥ずかしくねえのか」
「だって、怖いものは怖いですもん……」
「……俺は目が覚めちゃっただけ」
結局三人で廊下に出てすぐ近くの共用トイレへ行き、仲良く並んで用を足した。──確かに恥ずかしい。廊下は明るいし、これなら一人でも全然行けたはずだ。
「怖い怖いって思うから怖いんだ。怖がりの奴らは無駄にあれこれ考えるから、自分で自分の首を絞めることになる」
トイレを出て戻る途中は、ずっと潤歩の説教が続いた。
「潤歩さんは幽霊とか怖くないんですか」
「そんなモンはな、気にしなきゃ気にならねえんだよ。幽霊ってのは波長が合う奴の所に現れる。なら逆に気にしねえ奴の所には来ねえんだよ」
「……潤歩、詳しい」
「言っとくけど俺の爺さんは寺の坊主やってんだ。ガキの頃から爺さんの怪談聞いて育ったからな。幽霊は見たことなんかねえけど、ちっとも怖くないね」
部屋のドアを開け、スリッパを脱いで框に上がる。
「何だか潤歩さんがすっごく頼れる人に見えてきました」
「見直したかガキめ。とにかく幽霊だの妖怪だのなんてモンは──」
「潤歩。……あれ、何?」
玄関から襖を開けた先、明かりが消えたままの部屋の奥を大雅が指さした。
「あ? 暗くて見えねえよ」
「何か揺れてる。……こっちに背中向けてる」
「ちょ、っと……大雅、やめてよ」
言いながら、俺も「それ」から目が離せなかった。「それ」が背を向けているのもはっきり見えた。暗がりの中で立っているそれは、……確かに浴衣を着ていた。
獅琉と竜介は変わらず布団で眠っている。ならば、部屋の奥で左右に揺れているそれは一体誰なのか。
「っ……!」
咄嗟に大雅の背中に隠れた俺は、両腕を大雅の腰に回して強くしがみついた。腰が抜けかけているが、叫ばなかっただけ褒めてほしい。
霊感なんて全くないのに──初めて、見てしまった。
「……潤歩、どうにかしてよ。怖くないんでしょ」
大雅がいつもと変わらない口調で言う。
「潤歩?」
「ゅ、……」
「潤歩さん?」
「幽霊だあぁぁ──ッ!」
「お、……どうした亜利馬」
「竜介さん。部屋のトイレが壊れてるみたいで……。廊下の方のトイレ、一緒に来てくれませんか?」
「構わないぞ。こういうのも先輩の役目だからな」
「さ、さすが兄貴っ……」
あくびをしながら身を起こした竜介が、「よっこいせ」と布団に手をついて立ち上がる──が。
「お、……?」
その腕がガクンと折れ、再び布団に尻餅をついてしまう竜介。
「どうしたんですか?」
「うーん、……立てん」
「ええっ」
「相当飲んだからな。悪いが、もうしばらく待ってくれないか」
聞きたくない。そんな先輩の弱気な台詞なんて、一言だって聞きたくない。
「うーん」
見た目に反して相当酔いが回っているらしく、竜介が布団の上で転がった。駄目だこの兄貴は。
大雅は絶対に起きないだろうし、潤歩には頼みたくない。こうなったらもう、一人で行くしかないのか──
「……暗闇で座って何やってんだ? まさか漏らしたんじゃねえだろうな」
「う、潤歩さん?」
葛藤していたら突然潤歩が起き上がり、眠そうに目を擦りながらそのまま立ち上がった。
「どこ行くんですか?」
「どこって、小便に決まってんだろうが……」
「お、俺も行きますっ」
「気持ち悪りいな、付いてくんなよ」
「いえ、俺も行こうと思ってたところなので……」
思いがけないチャンスに安堵し、慌てて潤歩の後を追う。玄関でスリッパを履いていると、暗闇の和室からのっそりと大雅が出てきた。
「俺も行く……」
「全く、トイレも一人で行けねえのかよお前らは。男として恥ずかしくねえのか」
「だって、怖いものは怖いですもん……」
「……俺は目が覚めちゃっただけ」
結局三人で廊下に出てすぐ近くの共用トイレへ行き、仲良く並んで用を足した。──確かに恥ずかしい。廊下は明るいし、これなら一人でも全然行けたはずだ。
「怖い怖いって思うから怖いんだ。怖がりの奴らは無駄にあれこれ考えるから、自分で自分の首を絞めることになる」
トイレを出て戻る途中は、ずっと潤歩の説教が続いた。
「潤歩さんは幽霊とか怖くないんですか」
「そんなモンはな、気にしなきゃ気にならねえんだよ。幽霊ってのは波長が合う奴の所に現れる。なら逆に気にしねえ奴の所には来ねえんだよ」
「……潤歩、詳しい」
「言っとくけど俺の爺さんは寺の坊主やってんだ。ガキの頃から爺さんの怪談聞いて育ったからな。幽霊は見たことなんかねえけど、ちっとも怖くないね」
部屋のドアを開け、スリッパを脱いで框に上がる。
「何だか潤歩さんがすっごく頼れる人に見えてきました」
「見直したかガキめ。とにかく幽霊だの妖怪だのなんてモンは──」
「潤歩。……あれ、何?」
玄関から襖を開けた先、明かりが消えたままの部屋の奥を大雅が指さした。
「あ? 暗くて見えねえよ」
「何か揺れてる。……こっちに背中向けてる」
「ちょ、っと……大雅、やめてよ」
言いながら、俺も「それ」から目が離せなかった。「それ」が背を向けているのもはっきり見えた。暗がりの中で立っているそれは、……確かに浴衣を着ていた。
獅琉と竜介は変わらず布団で眠っている。ならば、部屋の奥で左右に揺れているそれは一体誰なのか。
「っ……!」
咄嗟に大雅の背中に隠れた俺は、両腕を大雅の腰に回して強くしがみついた。腰が抜けかけているが、叫ばなかっただけ褒めてほしい。
霊感なんて全くないのに──初めて、見てしまった。
「……潤歩、どうにかしてよ。怖くないんでしょ」
大雅がいつもと変わらない口調で言う。
「潤歩?」
「ゅ、……」
「潤歩さん?」
「幽霊だあぁぁ──ッ!」
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