65 / 111
亜利馬、己との闘い
5
しおりを挟む
一瞬ストンと意識が落ちただけで、五分もしないうちに体を揺すられた気がした。
「んぁ……もう時間ですか」
「うん、一時間くらいは経ったよ。そろそろ竜介くんも着くって」
「えっ? もう?」
慌てて身を起こし、辺りを確認する……ここは控室か。そうだ、ついさっき撮影が終わって、これから竜介との次の撮影があるんだっけ。
「顔洗ったら髪セットするね。もうちょっと頑張って、亜利馬くん」
「は、はい……」
ユージさんに言われてソファを降りた俺は、そのまま控室内の簡易的な洗面所で冷たい水を顔に浴びせた。
「朝ごはん少なかったでしょ。何かお菓子食べる?」
「あ、頂きます。いいんですか?」
「うん。亜利馬くんが好きそうなの買っておいたから、ヘアメしてる間に適当に食べてね」
俺が寝ている間も、こうして髪を弄られながらポップコーンを食べている間も、現場のスタジオでは監督や山野さんやスタッフの皆が大忙しで動き回っている。場合によってはベッドの角度も変えるし、テーブルや椅子の配置、撮影に関係ない小道具の位置も変える。
今日は竜介のスケジュールの都合もあったけど、スタジオだってレンタル料金が発生しているのだから、準備も撮影も早く終わらせるに越したことはないのだ。
「おお、亜利馬。待たせて悪いな」
「竜介さん。お疲れ様です!」
控室に竜介が入ってきて、俺とユージさんは揃って背後のドアに顔を向け、頭を下げた。
「竜介くんおはよう」
「おはよう雄二。今日も爽やかだな!」
俺のヘアメイクが丁度終わって、場所を竜介と交代する。竜介の髪が若干濡れているのは、前の現場でシャワーを浴びてきたからだ。
仕事量は俺より多いのに、与えられた時間は平等。竜介は移動車の中で軽食をとって仮眠して、またここで体力を使いまくって、夜頃にようやく帰宅する。竜介だけじゃなく皆、そんな日が定期的にやってきて体を壊さないのだろうか。
「よし。頑張るぞ!」
竜介が少しでも早く帰れるように、俺も気合を入れないと。
「やる気満々だね、亜利馬くん」
「あとはやる気に体力が付いてきてくれれば、良いんですけどね」
今回はドラマ仕立ての撮影だから、撮るシーンが凄く多い。俺が部屋に一人でいるところ、竜介がドアから入ってくるところ、それを出迎えて軽くイチャつくところ、俺がシャワーを浴びているところ、それを竜介が待っているところ……とにかく沢山だ。てきぱき動いて一つずつこなしていかないと。出来れば竜介のためにも、今日だけで撮影を終わらせたい。
……それに今回は、俺がずっとやりたかった「ドラマ」だ。「演技力なんて求められていないのだから、棒読みでもいい」と山野さんは言っていたけど。どうせなら絡み以外の演技だって上手くなりたい。
台本をもらってからこっそり練習だってしたんだ。設定は「竜介というご主人様にべた惚れのチョイM男子」だから、無表情の棒読みで「おかえり。大好き」なんて言っても説得力がない。……俺の役が大雅ならまだ分かるけど。
「亜利馬くん、竜介くん、入ります!」
「お、お願いします!」
サラリーマン風のスーツに着替えた竜介と、Tシャツにハーフパンツという部屋着スタイルの俺。家の中で竜介に「飼われている」俺は、いつでも部屋着という設定なのだ。
「頑張ろう、亜利馬」
「はいっ」
俺がリビングで雑誌を読んでいるシーンから始まり、ピンポンが鳴って竜介が帰ってくる。それを「お帰り!」と抱き付いて出迎え、軽いキスをする。
「いい子にしてたか」
「うん。待ってた!」
俺の顔が赤いのは役に没頭できているからではなく、初めて竜介とキスをして何か照れ臭かったからだ。
「んぁ……もう時間ですか」
「うん、一時間くらいは経ったよ。そろそろ竜介くんも着くって」
「えっ? もう?」
慌てて身を起こし、辺りを確認する……ここは控室か。そうだ、ついさっき撮影が終わって、これから竜介との次の撮影があるんだっけ。
「顔洗ったら髪セットするね。もうちょっと頑張って、亜利馬くん」
「は、はい……」
ユージさんに言われてソファを降りた俺は、そのまま控室内の簡易的な洗面所で冷たい水を顔に浴びせた。
「朝ごはん少なかったでしょ。何かお菓子食べる?」
「あ、頂きます。いいんですか?」
「うん。亜利馬くんが好きそうなの買っておいたから、ヘアメしてる間に適当に食べてね」
俺が寝ている間も、こうして髪を弄られながらポップコーンを食べている間も、現場のスタジオでは監督や山野さんやスタッフの皆が大忙しで動き回っている。場合によってはベッドの角度も変えるし、テーブルや椅子の配置、撮影に関係ない小道具の位置も変える。
今日は竜介のスケジュールの都合もあったけど、スタジオだってレンタル料金が発生しているのだから、準備も撮影も早く終わらせるに越したことはないのだ。
「おお、亜利馬。待たせて悪いな」
「竜介さん。お疲れ様です!」
控室に竜介が入ってきて、俺とユージさんは揃って背後のドアに顔を向け、頭を下げた。
「竜介くんおはよう」
「おはよう雄二。今日も爽やかだな!」
俺のヘアメイクが丁度終わって、場所を竜介と交代する。竜介の髪が若干濡れているのは、前の現場でシャワーを浴びてきたからだ。
仕事量は俺より多いのに、与えられた時間は平等。竜介は移動車の中で軽食をとって仮眠して、またここで体力を使いまくって、夜頃にようやく帰宅する。竜介だけじゃなく皆、そんな日が定期的にやってきて体を壊さないのだろうか。
「よし。頑張るぞ!」
竜介が少しでも早く帰れるように、俺も気合を入れないと。
「やる気満々だね、亜利馬くん」
「あとはやる気に体力が付いてきてくれれば、良いんですけどね」
今回はドラマ仕立ての撮影だから、撮るシーンが凄く多い。俺が部屋に一人でいるところ、竜介がドアから入ってくるところ、それを出迎えて軽くイチャつくところ、俺がシャワーを浴びているところ、それを竜介が待っているところ……とにかく沢山だ。てきぱき動いて一つずつこなしていかないと。出来れば竜介のためにも、今日だけで撮影を終わらせたい。
……それに今回は、俺がずっとやりたかった「ドラマ」だ。「演技力なんて求められていないのだから、棒読みでもいい」と山野さんは言っていたけど。どうせなら絡み以外の演技だって上手くなりたい。
台本をもらってからこっそり練習だってしたんだ。設定は「竜介というご主人様にべた惚れのチョイM男子」だから、無表情の棒読みで「おかえり。大好き」なんて言っても説得力がない。……俺の役が大雅ならまだ分かるけど。
「亜利馬くん、竜介くん、入ります!」
「お、お願いします!」
サラリーマン風のスーツに着替えた竜介と、Tシャツにハーフパンツという部屋着スタイルの俺。家の中で竜介に「飼われている」俺は、いつでも部屋着という設定なのだ。
「頑張ろう、亜利馬」
「はいっ」
俺がリビングで雑誌を読んでいるシーンから始まり、ピンポンが鳴って竜介が帰ってくる。それを「お帰り!」と抱き付いて出迎え、軽いキスをする。
「いい子にしてたか」
「うん。待ってた!」
俺の顔が赤いのは役に没頭できているからではなく、初めて竜介とキスをして何か照れ臭かったからだ。
0
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる