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亜利馬、ようやく撮影終了
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その夜、風呂から出ていつも通りソファで寝ようとしていたら、獅琉が寝室から顔を出して「一緒に寝よう」と誘ってくれた。
「今日ちょっとだけ冷えるから、ソファだと寒いよ」
「あ、ありがとうございます……」
大きなベッドの中、獅琉が俺の体を抱き枕みたいにして抱きしめる。
「亜利馬、顔付き変わったね。男らしくなった」
「そうですか? 自分じゃ全然……」
「俺とのセックス、どうだった?」
「えっ、……」
唐突に言われて、俺は言葉を詰まらせた。
「後悔させてないかなって思ってさ」
「獅琉さん……」
「俺も初めては撮影だったんだけど、その時は今日の亜利馬以上に緊張してたなぁ」
獅琉の匂いに包まれながら、俺は少しだけ目を丸くさせて問いかけた。
「獅琉さんも、俺の歳まで経験なかったんですか?」
「バックはね。どっちもいけるって言った以上、断れなかったしさ。相手役のモデルがベテランだったから何とか助かったけど、今日の俺は亜利馬のこと助けられたのかなって」
そんな感じ、撮影では微塵も出していなかったのに。意外なことを気にするんだな、と俺はつい笑ってしまった。
「助かりましたよ。もちろん潤歩さんにも助けられたし。変だけど、俺の初めての相手が二人で良かったなぁって、思います……」
獅琉が子供みたいな笑顔になって、その胸に俺の頭を強く抱きしめた。……あったかいし、めちゃくちゃいい匂いだ。
「大雅にも手伝ってもらったんです。竜介さんも良い人だし、ここのみんなって凄く優しいですよね」
「良かった。……でもね、この仕事って初めは楽しくても急にナーバスになったり、意味なく突然嫌になったりする時もあるから、そうなった時はちゃんと俺や皆に相談するんだよ。一人で抱え込んだら駄目だからね」
「……はい」
「いつ辞めるのも自由だけど、急に会えなくなるのは寂しいからさ。そういう子たくさん見てきたし」
「………」
確かに、定年までできる仕事じゃない。俺達の「賞味期限」はずっと短い。その短い間に華を開かせるモデルもいれば、蕾のまま去るモデルもいる。売れるためには潤歩だって自分を殺して演技もするし、獅琉も需要があるならとハードなプレイに挑戦している。
モデルはみんな大事にされるけど、やりたいことだけをする仕事じゃない。
「せっかく出会えたんだから、消したい過去じゃなくて、……いい思い出にして欲しい」
獅琉の体を強く抱きしめ、「大丈夫です」と呟く。
「こう見えて俺、学校とバイトの無断欠席だけはしたことないですから」
「う、うん。そういうアレじゃないんだけど……まぁいっか!」
くしゃくしゃと頭を撫でられて、俺は猫みたく獅琉の胸に擦り寄った。気持ち良い。ずっとこうしていたい。
「とにかくさ、何かあったらすぐ相談してよ。竜介も言ってたけど、俺達みんな亜利馬の先輩なんだから遠慮しないで」
「ありがとうございます。獅琉さん達も、俺が変なことしそうになったらすぐ言ってくださいね」
「うん。頑張ろうね亜利馬」
「はいっ!」
それから俺達は抱き合ったまま、お互いの温もりの中で朝までぐっすりと眠った。
その夜、風呂から出ていつも通りソファで寝ようとしていたら、獅琉が寝室から顔を出して「一緒に寝よう」と誘ってくれた。
「今日ちょっとだけ冷えるから、ソファだと寒いよ」
「あ、ありがとうございます……」
大きなベッドの中、獅琉が俺の体を抱き枕みたいにして抱きしめる。
「亜利馬、顔付き変わったね。男らしくなった」
「そうですか? 自分じゃ全然……」
「俺とのセックス、どうだった?」
「えっ、……」
唐突に言われて、俺は言葉を詰まらせた。
「後悔させてないかなって思ってさ」
「獅琉さん……」
「俺も初めては撮影だったんだけど、その時は今日の亜利馬以上に緊張してたなぁ」
獅琉の匂いに包まれながら、俺は少しだけ目を丸くさせて問いかけた。
「獅琉さんも、俺の歳まで経験なかったんですか?」
「バックはね。どっちもいけるって言った以上、断れなかったしさ。相手役のモデルがベテランだったから何とか助かったけど、今日の俺は亜利馬のこと助けられたのかなって」
そんな感じ、撮影では微塵も出していなかったのに。意外なことを気にするんだな、と俺はつい笑ってしまった。
「助かりましたよ。もちろん潤歩さんにも助けられたし。変だけど、俺の初めての相手が二人で良かったなぁって、思います……」
獅琉が子供みたいな笑顔になって、その胸に俺の頭を強く抱きしめた。……あったかいし、めちゃくちゃいい匂いだ。
「大雅にも手伝ってもらったんです。竜介さんも良い人だし、ここのみんなって凄く優しいですよね」
「良かった。……でもね、この仕事って初めは楽しくても急にナーバスになったり、意味なく突然嫌になったりする時もあるから、そうなった時はちゃんと俺や皆に相談するんだよ。一人で抱え込んだら駄目だからね」
「……はい」
「いつ辞めるのも自由だけど、急に会えなくなるのは寂しいからさ。そういう子たくさん見てきたし」
「………」
確かに、定年までできる仕事じゃない。俺達の「賞味期限」はずっと短い。その短い間に華を開かせるモデルもいれば、蕾のまま去るモデルもいる。売れるためには潤歩だって自分を殺して演技もするし、獅琉も需要があるならとハードなプレイに挑戦している。
モデルはみんな大事にされるけど、やりたいことだけをする仕事じゃない。
「せっかく出会えたんだから、消したい過去じゃなくて、……いい思い出にして欲しい」
獅琉の体を強く抱きしめ、「大丈夫です」と呟く。
「こう見えて俺、学校とバイトの無断欠席だけはしたことないですから」
「う、うん。そういうアレじゃないんだけど……まぁいっか!」
くしゃくしゃと頭を撫でられて、俺は猫みたく獅琉の胸に擦り寄った。気持ち良い。ずっとこうしていたい。
「とにかくさ、何かあったらすぐ相談してよ。竜介も言ってたけど、俺達みんな亜利馬の先輩なんだから遠慮しないで」
「ありがとうございます。獅琉さん達も、俺が変なことしそうになったらすぐ言ってくださいね」
「うん。頑張ろうね亜利馬」
「はいっ!」
それから俺達は抱き合ったまま、お互いの温もりの中で朝までぐっすりと眠った。
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