28 / 111
潤歩、彼氏モード発動
5
しおりを挟む
移動用ワゴン車の中で、再びカメラが向けられる。
「どう? 亜利馬くん、緊張溶けた?」
「だいぶ大丈夫です。潤歩さんが自然とリードしてくれたし」
「何だよ、俺の話?」
「いえ、してません。入って来なくても大丈夫です」
「何だお前、鼻血小僧のくせに」
他愛のない会話を撮られつつ公園に着いて、今度はベンチに座った状態からのスタートとなった。
そういう穴場を選んだのか、元々都会の人は公園なんて来ないのか。とにかくベンチから見渡せる所には俺達以外に誰もいない。山野さんが「今のうちに撮ってしまおう」と言って、到着後早々に撮影が開始された。
「亜利馬。どうだった初デートは」
いきなり潤歩に切り出されて驚いたが、俺はベンチにもたれながらそれに答えた。
「楽しかったですよ。綿あめも美味しかったし」
「ちょっと甘すぎたな」
「潤歩さんて、今までデートの時どういう所に行ってたんですか?」
「気分によるな。クラブとか行く時もあるし、映画とかも行ってたし」
でも、とほんの少しだけ間を置いて、潤歩が言った。
「一番特別な奴とは、こういう何もない公園で座ってるだけの方が楽しい」
「えっ」
「時間がゆっくり過ぎてくだろ。長い時間一緒にいられるような感じが好きだ」
「……何か、らしくないですね」
真顔で言うと、潤歩が顔を真っ赤にさせて俺の頭を叩いた。
「いてっ! な、何すんですか」
「ムードを作れ、ガキが!」
「あ、そ、……そうか」
恐らく今のシーンはカットだ。
俺は一つ大きく息をつき、「潤歩の後輩彼氏」という自分を頭に再度インプットさせた。
「でも潤歩さんって、アレですよね。ほんと、その……イケメンですよね」
「……やめろ、その棒読み」
言われて苦笑し、視線を潤歩から自分の足元へと移動させる。
「……でも本当に、始めはめちゃくちゃ怖い人だって思ってたけど、実は面倒見が良いっていうか。初めての一人での撮影の時も、潤歩さんが俺に助言してくれたから何となく落ち着けたし……。俺、まだ新人で全然どうなるか分からないけど。『ブレイズ』に選ばれた理由も全然分からないですけど、……潤歩さんのお陰で、頑張れると思います」
「ああ。頑張れよ亜利馬」
くしゃくしゃと頭を撫でられ、不覚にも心地好さにぼんやりしてしまう。
潤歩の手が俺の頭から離れ、そのまま肩へと移動し軽く抱き寄せられた。……至近距離で繋がる視線に、鼓動がほんの少し速まる。
潤歩の鋭い眼、それからピアスの光る唇が、ゆっくりと笑う形に細くなった。そういえば、これは……
「───」
これは俺にとって、初めてのキスだ。
恥ずかしくて強く目を閉じてしまったが、二秒、三秒──五秒経っても、潤歩が唇を離す気配はない。次第に不安になってきた。大丈夫だろうか? 誰かに見られていないだろうか。
「………」
それにしてもこの距離になって初めて気付いたけど、潤歩って人より体温が高い気がする。肩に置かれた手も、触れたままの唇も、何だか動物みたいな温かさだ。子供の頃に飼っていた犬が俺の腹の上でよく寝ていたけど、肩の手からはそれと同じ温かみを感じた。
そんなことを考えていたら、ようやく唇が離れて俺も目を開けることができた。
「顔赤いぜ、亜利馬」
「……そっちだって」
しばらくそのまま見つめ合い、やがて「オッケーです!」の声と共にカメラが止まった。
「どう? 亜利馬くん、緊張溶けた?」
「だいぶ大丈夫です。潤歩さんが自然とリードしてくれたし」
「何だよ、俺の話?」
「いえ、してません。入って来なくても大丈夫です」
「何だお前、鼻血小僧のくせに」
他愛のない会話を撮られつつ公園に着いて、今度はベンチに座った状態からのスタートとなった。
そういう穴場を選んだのか、元々都会の人は公園なんて来ないのか。とにかくベンチから見渡せる所には俺達以外に誰もいない。山野さんが「今のうちに撮ってしまおう」と言って、到着後早々に撮影が開始された。
「亜利馬。どうだった初デートは」
いきなり潤歩に切り出されて驚いたが、俺はベンチにもたれながらそれに答えた。
「楽しかったですよ。綿あめも美味しかったし」
「ちょっと甘すぎたな」
「潤歩さんて、今までデートの時どういう所に行ってたんですか?」
「気分によるな。クラブとか行く時もあるし、映画とかも行ってたし」
でも、とほんの少しだけ間を置いて、潤歩が言った。
「一番特別な奴とは、こういう何もない公園で座ってるだけの方が楽しい」
「えっ」
「時間がゆっくり過ぎてくだろ。長い時間一緒にいられるような感じが好きだ」
「……何か、らしくないですね」
真顔で言うと、潤歩が顔を真っ赤にさせて俺の頭を叩いた。
「いてっ! な、何すんですか」
「ムードを作れ、ガキが!」
「あ、そ、……そうか」
恐らく今のシーンはカットだ。
俺は一つ大きく息をつき、「潤歩の後輩彼氏」という自分を頭に再度インプットさせた。
「でも潤歩さんって、アレですよね。ほんと、その……イケメンですよね」
「……やめろ、その棒読み」
言われて苦笑し、視線を潤歩から自分の足元へと移動させる。
「……でも本当に、始めはめちゃくちゃ怖い人だって思ってたけど、実は面倒見が良いっていうか。初めての一人での撮影の時も、潤歩さんが俺に助言してくれたから何となく落ち着けたし……。俺、まだ新人で全然どうなるか分からないけど。『ブレイズ』に選ばれた理由も全然分からないですけど、……潤歩さんのお陰で、頑張れると思います」
「ああ。頑張れよ亜利馬」
くしゃくしゃと頭を撫でられ、不覚にも心地好さにぼんやりしてしまう。
潤歩の手が俺の頭から離れ、そのまま肩へと移動し軽く抱き寄せられた。……至近距離で繋がる視線に、鼓動がほんの少し速まる。
潤歩の鋭い眼、それからピアスの光る唇が、ゆっくりと笑う形に細くなった。そういえば、これは……
「───」
これは俺にとって、初めてのキスだ。
恥ずかしくて強く目を閉じてしまったが、二秒、三秒──五秒経っても、潤歩が唇を離す気配はない。次第に不安になってきた。大丈夫だろうか? 誰かに見られていないだろうか。
「………」
それにしてもこの距離になって初めて気付いたけど、潤歩って人より体温が高い気がする。肩に置かれた手も、触れたままの唇も、何だか動物みたいな温かさだ。子供の頃に飼っていた犬が俺の腹の上でよく寝ていたけど、肩の手からはそれと同じ温かみを感じた。
そんなことを考えていたら、ようやく唇が離れて俺も目を開けることができた。
「顔赤いぜ、亜利馬」
「……そっちだって」
しばらくそのまま見つめ合い、やがて「オッケーです!」の声と共にカメラが止まった。
0
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる