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亜利馬、初めての撮影でヤバいことになる
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「してみたくないわけじゃないけど、あんまり考えたことないですね……」
「興味はあるでしょ?」
「た、多少は」
「それとも、自分がするよりも、されてみたいってことかな?」
「っ……」
膝の上で握った拳の内側に大量の汗が滲む。体内をぐるぐると熱が駆け巡って、顔がどんどん熱くなって……
──やばい。鼻血が出る……!
「カット」
突然室内に二階堂さんの声が響き、撮影が一旦止まった。
「川中。質問内容は予定通りにやれ。彼には変化球は向かなそうだ」
「そ、そうみたいですね。顔真っ赤だ」
「………」
どうやらわざと予定にないことを質問して、俺を試していたということらしい。すんでの所で流血沙汰にならずホッとしたが、つくづく自分には「耐性」というものがないんだと思い知らされる。
「飲め、亜利馬」
山野さんがペットボトルに入った冷たい水をくれて、少しずつ熱を冷ますことができた。
「ありがとうございます……もう大丈夫です」
それからインタビューが再開されたが、今度は熱くならずに済んだ。決まっていることをなぞるだけなら、俺にもできるのだ。とはいえこれはまだ、トークだけだからというのもあるけれど。
「お疲れ、亜利馬。次の撮影はニ十分後だ、それまでにトイレ行っておけよ」
「山野さん。あの、もしその、勃たなかった場合って……?」
「撮影が長引くだけだが」
「そうですよね……」
素っ気なく返されて、俺はとぼとぼとトイレに向かった。
どうしよう。ちゃんとできるだろうか。
上京してから一度も抜いていないけど、あんなに大勢の前で下半身をさらして尚且つ自分で扱いて射精するなんて、めちゃくちゃハードルが高い気がする。万が一勃たなかったら本当にどうしよう。これがきっかけで不能になったらどうしよう。
どうしようどうしよう。心の中で繰り返しながらトイレに入ると、潤歩が用を足している真っ最中という場面に出くわしてしまった。
「お、……」
だけど今の俺にとっては、潤歩ですら神に等しい存在だ。大先輩。トップモデル。プロのAV男優。潤歩様。
「う、潤歩さぁん! アドバイスくださいっ、どうか、どうかこの俺に!」
「ちょ、てめぇ抱き付いてくんなっ! 小便ぶっかけるぞ!」
言われて潤歩から離れた俺は、両手をもじもじと合わせながら俯いた。
「ったく、このガキ……。突然現れて、何なんだ」
「すいません。テンパってて……」
「聴牌はチャンスだぞ。冷静になった奴だけが和了れる」
革パンのファスナーを上げて、潤歩が俺に向き直った。
「冷静に……」
「そうだ、冷静にだ。てめぇはまだ何も知らねえからギャーギャー騒いでっけど、オナニーくらいしょっちゅうやってんだろ。普段と同じことをするだけだ。見られてんのが気になるなら目つぶってればいいだろ。どうせ誰も話しかけてこねえしよ」
潤歩が手を洗ってから、煙草を振り出して一本咥えた。
「吸うか?」
「いえ」
「あっそ」
紫煙が天井の換気扇に吸い込まれてゆく。
「慣れればそのうち、オナニーくらいじゃ動じなくなる。誰もが初めに通る道だと思って、腹括れ」
「……でももし、勃たなかったら」
「そういう時のマニュアルもちゃんと決まってる。お前が思ってる以上にしっかり態勢整えてるから要らん心配すんな」
「………」
俺は潤歩を見上げて、素直に思ったことを言った。
「意外と優しい」
「……はぁっ? てめえが俺と同じグループじゃなきゃぶっ飛ばしてるっつうの! 甘えてんじゃねえぞクソガキがっ!」
……やっぱり怖い。
「興味はあるでしょ?」
「た、多少は」
「それとも、自分がするよりも、されてみたいってことかな?」
「っ……」
膝の上で握った拳の内側に大量の汗が滲む。体内をぐるぐると熱が駆け巡って、顔がどんどん熱くなって……
──やばい。鼻血が出る……!
「カット」
突然室内に二階堂さんの声が響き、撮影が一旦止まった。
「川中。質問内容は予定通りにやれ。彼には変化球は向かなそうだ」
「そ、そうみたいですね。顔真っ赤だ」
「………」
どうやらわざと予定にないことを質問して、俺を試していたということらしい。すんでの所で流血沙汰にならずホッとしたが、つくづく自分には「耐性」というものがないんだと思い知らされる。
「飲め、亜利馬」
山野さんがペットボトルに入った冷たい水をくれて、少しずつ熱を冷ますことができた。
「ありがとうございます……もう大丈夫です」
それからインタビューが再開されたが、今度は熱くならずに済んだ。決まっていることをなぞるだけなら、俺にもできるのだ。とはいえこれはまだ、トークだけだからというのもあるけれど。
「お疲れ、亜利馬。次の撮影はニ十分後だ、それまでにトイレ行っておけよ」
「山野さん。あの、もしその、勃たなかった場合って……?」
「撮影が長引くだけだが」
「そうですよね……」
素っ気なく返されて、俺はとぼとぼとトイレに向かった。
どうしよう。ちゃんとできるだろうか。
上京してから一度も抜いていないけど、あんなに大勢の前で下半身をさらして尚且つ自分で扱いて射精するなんて、めちゃくちゃハードルが高い気がする。万が一勃たなかったら本当にどうしよう。これがきっかけで不能になったらどうしよう。
どうしようどうしよう。心の中で繰り返しながらトイレに入ると、潤歩が用を足している真っ最中という場面に出くわしてしまった。
「お、……」
だけど今の俺にとっては、潤歩ですら神に等しい存在だ。大先輩。トップモデル。プロのAV男優。潤歩様。
「う、潤歩さぁん! アドバイスくださいっ、どうか、どうかこの俺に!」
「ちょ、てめぇ抱き付いてくんなっ! 小便ぶっかけるぞ!」
言われて潤歩から離れた俺は、両手をもじもじと合わせながら俯いた。
「ったく、このガキ……。突然現れて、何なんだ」
「すいません。テンパってて……」
「聴牌はチャンスだぞ。冷静になった奴だけが和了れる」
革パンのファスナーを上げて、潤歩が俺に向き直った。
「冷静に……」
「そうだ、冷静にだ。てめぇはまだ何も知らねえからギャーギャー騒いでっけど、オナニーくらいしょっちゅうやってんだろ。普段と同じことをするだけだ。見られてんのが気になるなら目つぶってればいいだろ。どうせ誰も話しかけてこねえしよ」
潤歩が手を洗ってから、煙草を振り出して一本咥えた。
「吸うか?」
「いえ」
「あっそ」
紫煙が天井の換気扇に吸い込まれてゆく。
「慣れればそのうち、オナニーくらいじゃ動じなくなる。誰もが初めに通る道だと思って、腹括れ」
「……でももし、勃たなかったら」
「そういう時のマニュアルもちゃんと決まってる。お前が思ってる以上にしっかり態勢整えてるから要らん心配すんな」
「………」
俺は潤歩を見上げて、素直に思ったことを言った。
「意外と優しい」
「……はぁっ? てめえが俺と同じグループじゃなきゃぶっ飛ばしてるっつうの! 甘えてんじゃねえぞクソガキがっ!」
……やっぱり怖い。
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