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#5 エロス&インテリジェンス
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「全然エロくない! こんな眼鏡、外したいくらいなんだぞ!」
「なに怒ってんだよ、急に」
とにかくこの場で突っ立って喋っていても仕方ないということで、天和が俺の手からマカロを抱き上げ、片手で俺の腕を掴み歩き出した。
「……なるほどな、ふざけたゲームのせいでお前の視力が悪くなったってことか。でも解決できるモノなんだろ」
「ああ。そのためにマカが今必死でゲーム攻略してくれてるってわけ。……でも口数少なくなってきてるから、魔力消費するのも段々しんどくなってきてるんだと思う」
歩きながら天和に一通りの説明をする俺。もちろん、この眼鏡に関することは一切話していない。
「………」
何だかよく分からないけど、全裸の天和に腕を引かれて校内を歩くなんて変な感じだ。
相変わらず逞しくて男らしい胸板や上腕、がっしりとした腰回りなどは、彰良先輩とはまた違うタイプの芸術感がある。格闘家見習いって感じの程よく鍛えられた肉体は天和が歩くたびにしなやかに動き、俺の腕を掴む手にも力が入っているのが分かる。
彰良先輩が彫刻や絵画などの「静の美」なら、天和は映像やライブで見たい「動の美」といったところだろうか。
……考えていたら段々と変な気持ちになってきた。さっき目にした彰良先輩の裸体や、これまで色々と天和にされてきたことを思い出してしまったからだ。
「ほたる」
天和に抱かれていたマカロが、スマホ画面から俺に視線を向ける。鼻をすんすん鳴らしているのは、恐らく俺の匂いが強くなったからだ。
「や、やばい……」
「どうした炎樽」
「た、天和。早くどっか隠れないと、……」
「飯食うんだろ、隠れるにしても体育倉庫とかの方がいいか」
俺の匂いを探知できない天和が、悠長に呟きながら体ごとこちらを振り返る。
「っ……!」
油断していたところに突然天和のそれらを含めた体が視界に飛び込んできて、俺の顔が一気に赤くなった。
と、同時に──
「いたぞっ、比良坂炎樽!」
「げっ!」
一体どこから嗅ぎつけてきたのか、それとも偶然この辺りを歩いていたのか──とにかく例の三年連中が俺を発見し、廊下の奥から猛然とこちらに走ってくるのが見えた。
もちろん全員全裸だ。全裸の集団が五、六人。俺の名前を叫びながら突進してくるその光景は想像以上に恐ろしいものがあった。
「う、うわっ、うわぁっ! どうしよう天和、見つかった!」
「そんな慌てることねえだろ。俺がいるんだしよ」
「そうだけどもう、あいつら見てるだけで怖いんだってば!」
何言ってんだお前、と天和には言われてしまったが。
「捕まえろ!」
「犯せ!」
全裸の原始人のような集団が迫りくる中、俺は天和を見上げて訴えた。
「と、とにかく誰もいない場所がいい! 天和!」
天和が俺の腕を握り直し、頷く。
「来い、炎樽!」
そうして俺達は走り出した。一年校舎を抜けて中庭に出て、園芸部が丹精した花壇の前を駆け抜け、二年校舎に入り、廊下を走るなと教師に言われ、それでも階段を駆け上がって三階へ行き、輝く汗を飛ばしながら……
まるで、町の悪者に絡まれていたところを若者に助け出されたお嬢様のような気分だ。俺以外の全員が素っ裸なのは置いておくとして、なかなかに劇的なシチュエーション。
こうして天和に助けてもらうのも何度目だろう。始めはセクハラ好きで遊び人で暴力的な不良のイメージしかなかったのに、今は秘密の共有をしているせいかこの学園で誰よりも頼もしく思える。
「ここなら誰も来ねえだろ。奴らもまいたみてえだし」
屋上は基本立ち入り禁止でさほど面白味もないため、漫画のように不良の溜まり場にはなっていない。隠れられるような壁もなく喫煙場所にも向いていないせいだ。
だだっ広いコンクリートと青空が広がるだけの、静かな空間。天和がマカロを地面に降ろすと、スマホを抱えるようにしてマカロがゲームを再開させた。保健室を出た時はMサイズのぬいぐるみのようだったマカロは、今やSサイズになっている。
「マカ、大丈夫か?」
「あと少しでボス手前。流石に攻略が難しくなってきてる……」
三人で円を作って座り、とにかく今はゲームクリアに集中する。
「ちょっと苦しい……」
「マカ!」
魔力を使い切ってしまったのか、マカロの小さな手からスマホが落ちた。慌ててその体を抱き上げ、少しでも落ち着くようにと背中をさすってやる。
「ありがとうな、マカ。後は自分で何とかするから。ゆっくり休んでくれ。ありがとう」
「ほたる、がんばって……」
マカロを膝に寝かせたまま、熱くなった端末を手に取る。残機は1。ノーコンティニューの初見でラスボスのシャックスを倒さなければならない。
「………」
もしもこれで負けてしまったらどうなるんだろう。ラストステージの始めからやり直しなのか、それともスタートまで飛ばされるのか。
マカロの頑張りを無駄にする訳にいかない。ここまできたら絶対に一発クリアだ。
……もたついてる暇はないと分かっているのに、プレッシャーのせいか手の震えが止まらない。
「俺にやらせてみろ、炎樽」
「えっ!」
天和が俺の手からスマホを奪い、画面に視線を落とした。
「だ、駄目だって。今度は天和の視力が奪われる!」
「クリアすれば問題ねえんだろ」
「でもお前、ゲームなんか興味ないって……!」
「お前を救うためなら話は別だ」
「なに怒ってんだよ、急に」
とにかくこの場で突っ立って喋っていても仕方ないということで、天和が俺の手からマカロを抱き上げ、片手で俺の腕を掴み歩き出した。
「……なるほどな、ふざけたゲームのせいでお前の視力が悪くなったってことか。でも解決できるモノなんだろ」
「ああ。そのためにマカが今必死でゲーム攻略してくれてるってわけ。……でも口数少なくなってきてるから、魔力消費するのも段々しんどくなってきてるんだと思う」
歩きながら天和に一通りの説明をする俺。もちろん、この眼鏡に関することは一切話していない。
「………」
何だかよく分からないけど、全裸の天和に腕を引かれて校内を歩くなんて変な感じだ。
相変わらず逞しくて男らしい胸板や上腕、がっしりとした腰回りなどは、彰良先輩とはまた違うタイプの芸術感がある。格闘家見習いって感じの程よく鍛えられた肉体は天和が歩くたびにしなやかに動き、俺の腕を掴む手にも力が入っているのが分かる。
彰良先輩が彫刻や絵画などの「静の美」なら、天和は映像やライブで見たい「動の美」といったところだろうか。
……考えていたら段々と変な気持ちになってきた。さっき目にした彰良先輩の裸体や、これまで色々と天和にされてきたことを思い出してしまったからだ。
「ほたる」
天和に抱かれていたマカロが、スマホ画面から俺に視線を向ける。鼻をすんすん鳴らしているのは、恐らく俺の匂いが強くなったからだ。
「や、やばい……」
「どうした炎樽」
「た、天和。早くどっか隠れないと、……」
「飯食うんだろ、隠れるにしても体育倉庫とかの方がいいか」
俺の匂いを探知できない天和が、悠長に呟きながら体ごとこちらを振り返る。
「っ……!」
油断していたところに突然天和のそれらを含めた体が視界に飛び込んできて、俺の顔が一気に赤くなった。
と、同時に──
「いたぞっ、比良坂炎樽!」
「げっ!」
一体どこから嗅ぎつけてきたのか、それとも偶然この辺りを歩いていたのか──とにかく例の三年連中が俺を発見し、廊下の奥から猛然とこちらに走ってくるのが見えた。
もちろん全員全裸だ。全裸の集団が五、六人。俺の名前を叫びながら突進してくるその光景は想像以上に恐ろしいものがあった。
「う、うわっ、うわぁっ! どうしよう天和、見つかった!」
「そんな慌てることねえだろ。俺がいるんだしよ」
「そうだけどもう、あいつら見てるだけで怖いんだってば!」
何言ってんだお前、と天和には言われてしまったが。
「捕まえろ!」
「犯せ!」
全裸の原始人のような集団が迫りくる中、俺は天和を見上げて訴えた。
「と、とにかく誰もいない場所がいい! 天和!」
天和が俺の腕を握り直し、頷く。
「来い、炎樽!」
そうして俺達は走り出した。一年校舎を抜けて中庭に出て、園芸部が丹精した花壇の前を駆け抜け、二年校舎に入り、廊下を走るなと教師に言われ、それでも階段を駆け上がって三階へ行き、輝く汗を飛ばしながら……
まるで、町の悪者に絡まれていたところを若者に助け出されたお嬢様のような気分だ。俺以外の全員が素っ裸なのは置いておくとして、なかなかに劇的なシチュエーション。
こうして天和に助けてもらうのも何度目だろう。始めはセクハラ好きで遊び人で暴力的な不良のイメージしかなかったのに、今は秘密の共有をしているせいかこの学園で誰よりも頼もしく思える。
「ここなら誰も来ねえだろ。奴らもまいたみてえだし」
屋上は基本立ち入り禁止でさほど面白味もないため、漫画のように不良の溜まり場にはなっていない。隠れられるような壁もなく喫煙場所にも向いていないせいだ。
だだっ広いコンクリートと青空が広がるだけの、静かな空間。天和がマカロを地面に降ろすと、スマホを抱えるようにしてマカロがゲームを再開させた。保健室を出た時はMサイズのぬいぐるみのようだったマカロは、今やSサイズになっている。
「マカ、大丈夫か?」
「あと少しでボス手前。流石に攻略が難しくなってきてる……」
三人で円を作って座り、とにかく今はゲームクリアに集中する。
「ちょっと苦しい……」
「マカ!」
魔力を使い切ってしまったのか、マカロの小さな手からスマホが落ちた。慌ててその体を抱き上げ、少しでも落ち着くようにと背中をさすってやる。
「ありがとうな、マカ。後は自分で何とかするから。ゆっくり休んでくれ。ありがとう」
「ほたる、がんばって……」
マカロを膝に寝かせたまま、熱くなった端末を手に取る。残機は1。ノーコンティニューの初見でラスボスのシャックスを倒さなければならない。
「………」
もしもこれで負けてしまったらどうなるんだろう。ラストステージの始めからやり直しなのか、それともスタートまで飛ばされるのか。
マカロの頑張りを無駄にする訳にいかない。ここまできたら絶対に一発クリアだ。
……もたついてる暇はないと分かっているのに、プレッシャーのせいか手の震えが止まらない。
「俺にやらせてみろ、炎樽」
「えっ!」
天和が俺の手からスマホを奪い、画面に視線を落とした。
「だ、駄目だって。今度は天和の視力が奪われる!」
「クリアすれば問題ねえんだろ」
「でもお前、ゲームなんか興味ないって……!」
「お前を救うためなら話は別だ」
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