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#1 DKとインキュバス

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「そんじゃ、あの続きは今は止めといた方がいいか。そのチビが死ぬかもしれねえしな」

 真顔で天和がそう言った時、ベッドの上で「うーん」とマカロが身じろぎした。

「マカ? 大丈夫か?」
「……ん、……ほたる……?」
「良かった、熱も引いてそうだ」
 起き上がったマカロが俺と天和の顔を交互に見て、大きな目をぱちくりさせている。

「おれ、どうなったの? ……ほたる、助かったの?」
「ああ、天和が助けてくれたんだ。マカも頑張ってくれただろ、ありがとうな」
 どうにも子供の姿だと、かける言葉も柔らかくなってしまう。マカロの場合は体が小さくなっただけでなく、それに比例して中身も幼くなるからだろう。

「良かった。ほたる、無事だったんだ」
「お前」
 天和がマカロの前に顔を突き出し、文句を言った。
「悪魔だか夢魔だか知らねえけど、もう少し役に立てねえのか。人間置いて気絶してんじゃねえよ」
「お、怒らないで……!」

 せっかく目覚めたのにまたもや目をぐるぐるにしてしまうマカロ。仕方なく俺は天和とマカロの間に入り、「まあまあ」と笑った。

「夢魔だからこそあの場は不利な状況だったんだろ。元凶は俺と天和だし……それに、マカも扉閉めるの頑張ったから天和も状況把握して対処してくれたんじゃん。いきなり踏み込まれてたら、いくら天和でも危なかったよ」
「たった四人に負ける気はしねえ」
「暴れん坊だもんな……」

 呟いて、俺はふと頭に浮かんだ疑問をマカロに聞いてみた。
「そういえば、どうして天和は俺の匂いが分からないんだ? 他の奴らは匂いに惹き付けられてるからこそ暴走してるのに、ステッカー剥がした時だって一番間近にいたのに、天和は全然いつも通りだった」
「うーん」
 ベッドを降りたマカロが天和の前へ移動し、尻尾をピンと立ててその顔をじっと見つめる。

「んー……と、たかともは、ほたるのフェロモンにやられてる訳じゃないからかも」
「何だフェロモンて」
「たかとも、どうしてほたるを狙うの?」

 ずばりマカロが核心に触れると、表情一つ変えずに天和が言ってのけた。

「こいつを俺の物にすると決めたからだ」
「な、何だよそれっ。俺はお前の物になんかっ!」
「もう決めたことだ」
「勝手に決めてんじゃねー!」

 憤る俺と真顔の天和に挟まれ、マカロが小さな手を口元にあてて考え込む。

「……それって、ほたるが好きっていうこと?」
「そう言った方が分かりやすいか。ああ、俺はこいつに惚れてる」
「へ、……?」
「なるほど、ほたるそのものが大好きだから、性欲よりも愛情が勝ってるってことだね。だからほたるの匂い嗅いでも暴走しないんだ。たかとも、すごい!」

 翼をはためかせて飛び上がるマカロと、何故か得意げな顔の天和。俺だけが意味不明状態で、一旦説明してもらおうと正座のまま身を乗り出して言った。

「だってお前、色んな恋人既にいるじゃん。俺もその一人に加えようってこと?」
「恋人なんかいねえけど」
「いるじゃん! 恋人、……じゃないにしてもその、セフレってやつが……大勢」
 ああ、と天和が鋭い目を少し見開く。
「別に俺から声かけてる訳じゃねえ。向こうから来るのを相手してるだけだ。お前は相手してくれねえし」
「あ、遊んで捨ててるんだろ。そんな奴の『好き』なんて、信用できる訳が……」
「捨てられてるのは俺だ。一回ヤれば俺はもう用済み扱いされてるし。泣きながら抱いてくれって言うくせに、済んだらさっさと本命の所へ帰る奴らばかりだぞ。どいつもこいつも人をヤリチンみてえに言うけど、風評被害もいいとこだ」
「………」

 知らなかった。てっきり天和が片っ端から後輩を喰い散らかしているのだと思っていたけど、まさか天和の方が翻弄されてたなんて。

「で、でもそれなら、普通に断ればいいじゃん」
「お前がちゃんと俺の相手をしてくれるなら断る……」
 子供みたいな言い方をされて、つい俺の心が動きかけた。構ってもらえないから他の奴で気を紛らわせているのだとしたら、俺が天和にきちんと向き合えば少しは天和の事情も変わってくるのだろうか。

「……でも俺は、事情があっても他の奴と平気でセックスできるような奴なんか……」
「もう二度としねえ。炎樽が俺の傍にいてくれるなら、他の奴らとは口も利かねえ」
「そ、そこまで言ってないけど」

 するとこのやりとりを見ていたマカロが、俺の耳元に口を寄せて囁いた。

「いい話だよ、ほたる。たかともが傍にいてくれたら、ほたるのこと狙う連中も多少は大人しくなるかもしれない」
「だ、だけど俺の意思は……」
「分かった! こうすればいいんだ!」

 マカロが俺と天和の手を取り、ぱたぱたと宙を飛びながら歌うように言った。
「たかともは、ほたるを守ることで誠意を示す。ほたるは、ちゃんとたかともに向き合って真面目に考えてあげる。それで両想いになれたらハッピーだし、俺も二人がエッチなことする度に種のお裾分けしてもらえるから、三人共ウィンウィンウィンだよ!」
「さらっと俺達がヤることを前提に話すなっ!」
「なかなか面白いことを言うぜ、気に入ったぞマカ」

 ニヒヒと笑いながら、二匹の悪魔が握手を交わす。

「ちょっと待ってって。天和が俺の傍にいるんじゃ、結局俺の身の危険は変わらないんじゃ……」
「匂いにやられてる訳じゃないから大丈夫だよ。たかともなら暴走することないし、後はほたるとの駆け引き次第だね」
「そうと決まれば、この部屋に炎樽の私物も揃えていかねえとな。久々に誰かと暮らすのも悪くねえ」
「たかとも、夕飯はおにぎりがいい!」
「それより美味いモン作ってやるよ。一人暮らし歴二年以上だからな、炊事は任せろ」
「やった!」

 俺を置いてけぼりにして、どんどん話を進めて行く二人。珍しく天和のテンションも上がっているし、恐らく俺がここで何を言っても聞き入れてはもらえないだろう。

 それにしても、天和が俺に惚れていたなんて。
「………」

 どうしてだろう? 意外だけど、悪い気はしない。

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