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#1 DKとインキュバス

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「………」
 異変はパンを買った後に起きた。
 自分のクラスへ戻るために歩いてきた廊下を戻っている最中、俺の股間にむずむずとしたものが走り出したのだ。

「ん、……何か、……」
「炎樽、大丈夫か?」
「な、何かステッカーのとこ、変な感じ、……する」
 頭の上で髪に隠れながら、マカロが「うーん」と唸る。

「ちょっと数が多すぎた。まさかここまで強いとは」
「は? な、なに? 何の話だよ?」
「奴らの性欲に負けて、ステッカーが剥がれるかも」
「はあぁぁっ?」
 思わず大声が出てしまい、余計な注目が俺に集まる。


 急いで廊下を走って校舎を抜け、中庭を通って二年の教室へ向かう──が。
「ほーたる」
「ぎゃっ! なに、な、……き、鬼堂天和っ……」
 よりによって一番の危険人物に捕まってしまった。馬鹿力にがっしりと腕を掴まれて、力を込めても振りほどくことができない。

「昨日はよくも頭突きしてくれたよなぁ。今日こそは可愛がってやるぜ、覚悟しろ」
「そ、そんなっ……。マ、マカ! こいつステッカーが効いてないっ……?」
「性欲は強そうだけど、何か他の奴らとは違う匂いがするなぁこいつ……。ステッカーの効果がこいつには発動してないとしたら、炎樽に執着するのは性欲だけが理由じゃないのかも」
「悠長に分析してんじゃねえっ!」

 俺の腕を引きながら、天和がローテンションの低音ボイスで言った。

「ブツブツ文句垂れてねえで、大人しく俺のモンになれ。比良坂炎樽」
「あっ、……!」
 その声が耳から体に浸透し、下半身で小さな爆発を起こした気がした。ステッカーが下着の中でピリリと剥がれる感覚がある。

 咄嗟に片手で股間を押さえた俺を見て、天和の顔が訝しげに歪んだ。
「あ、や……やだ……」
 息が弾み、頬が熱くなる。ステッカーが剥がれかけているのは、下着の中で俺のそれが芯を持ち始めたからだ。
「は、放せ……。放し、て……」
「………」
「頼むから放し、……って、うわっ?」
 突然天和が俺を担ぎ上げ、猛然と校舎とは反対方向へ走り出した。正門を出て道路を挟んだ向こう側──あるのは体育館とスポーツ部の部室、第二体育室に、……体育倉庫。

「お、降ろせっ! 降ろせよ!」
「うわ、揺れるぅ、目が回る……!」
 頭の上ではマカロも大慌てだ。落っこちないよう俺の髪を引っ張るものだから、痛いのと怖いのとでもう訳が分からない。

 昨日天和に頭突きを食らわせたあの体育倉庫。今日も体育館ではバスケやバレーを楽しむ生徒達がいるのに、誰も俺を担いだ天和が倉庫へ入って行ったのに気付いていない。
 マットや跳び箱などが収納されている倉庫と、遊びに使うボール類をしまう体育用具入れが別だからだ。こんなに生徒がいても、誰も倉庫になんか興味はない。


「わっ……!」
 マットの上に押し倒された拍子に、頭に乗っていたマカロが転がって跳び箱の裏へと消えた。
「ほーたる……」
「う、……」
 ステッカーの力が効かない天和は昨日と同じ獣の目で俺を見下ろし、笑っている。癖のある黒髪にそこだけは整った顔立ち、なのに悪魔的な歪んだ笑みと牙のような犬歯。

 この世が地獄ならきっと、こいつは獄卒の一人だろう。だから夢魔の魔法が効かないんだ。

「たか、とも……」
「はあ……炎樽。やっとお前を俺の物にできる」
「か、勝手に決めるなっ……!」
「こんな反応してんのに?」
 あ、と思った時には既に、天和の手が俺の股間を鷲掴みにしていた。強く圧迫するように揉まれて、そこから体中に強烈な刺激が走る。

「やっ、やだ……!」
「嬉しいぜ、炎樽。お前も俺にその気があるってことだもんなぁ」

 天和は別に、俺じゃなくてもそういう相手が大勢いる。後輩なら来るもの拒まず状態だし、本気にされないと知っていて、それでもいいから抱かれたいという願望を抱く奴だっているのだ。放課後は毎日違う生徒とデートしていて、一部の生徒の間では「天和先輩と経験があるかどうか」が重要なステータスになっている。

 究極の遊び人、究極の性欲の塊。むしろこいつこそが夢魔なんじゃないかと思えるほど、鬼堂天和は男好きで有名な奴だった。

「そんな緊張することねえよ、俺なら初貫通でも喘がしてやれる」
「や、ちょっと、ベルト……! 本当にやめて、脱がさないでっ……!」
「剥けてなくても笑わねえよ、安心しろ」
「マカぁっ!」

 跳び箱の裏にかろうじて見えるマカロの目は相変わらずぐるぐるだ。肝心な時に何の役にも立たないこの夢魔に、俺は一体何の期待をしていたんだろう。

「やっ、……!」
 今まで何千回とそうしてきたであろう超スピードで、天和の手が俺のベルトを抜き、ズボンを脱がし、最後の一枚である下着にかかる。

 ──もう駄目だ!

「……炎樽?」
「え、……?」
「何だこれ。チンコに何貼ってんだよ、お前」
「あ、ええと、それは……」
 緩く屹立した俺のそれに巻いてあるステッカーは既に半分剥がれかけている。天和は少し引いたような顔をして、まじまじとそれを見ていた。

「こういうのが好きなのか?」
「そういう訳じゃっ、……」

 骨張った男らしい指がステッカーの端を摘まみ、ぴりぴりと少しずつ剥がされて行く。その度に形容し難い刺激が走り、ますます芯を硬くさせてしまう……
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