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第14話 ご主人との大切な思い出

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 もう一口ビールを飲んでから、涼真さんが続けた。
「俺達のセックスはもう互いの性処理だけが目的になっている気がする。一回のプレイにどれだけ興奮するか……そればかりを優先していて、互いを求め合うとか、愛し合うとか……薄れている気がするんだ」
 刹や炎珠さんが言っていたように、十年以上の付き合いである二人と俺達とでは、セックスに対する考え方に差ができるのは当然だ。世間の父親母親が、いつまでも新婚気分のままでいられないのと同じ。だけど……
「……でも俺。まだたった一日ですけど、幸次郎さんを見ていて思ったことがあるんです」
「何を思ったんだ?」
 俺は昼間の海でのことを思い返した。

「幸次郎さんて、涼真さんが思っている以上に、涼真さんのことが好きなんだろうなって……」
「それは分からない、那由太」
「俺達がシュノーケルしてる時、二人は長いこと浅瀬にいたでしょ。ただ波打ち際で遊んでるだけかと思ったけれど……多分、涼真さんが沖に行くのを怖がってるって察した幸次郎さんが、黙って傍にいてあげたんじゃないかなって」
「だ、誰が怖がってるだと……」
 俺は思わず含み笑いをして、もはやサイダーの味しかしないビールを一気に飲み干した。

「涼真さんがそんな感じで強がるから、幸次郎さんは『察する』しかないんですよ。付き合いも長いし、これまでの経験からある程度はそれが上手く行ってるんだと思いますけど、やっぱり言葉にしないと伝わらないこともあるじゃないですか?」
「………」
「医者でも警察でも教師でもない、本当の幸次郎さんとセックスがしたいって、涼真さんの方から伝えてあげましょうよ。多分幸次郎さんは大好きな涼真さんのために、良かれと思ってそうしてると思いますから」
 涼真さんの目が赤くなっているのは、きっとアルコールのせいだけではない。

 俺はテーブルに身を乗り出し、涼真さんの手を強く握りしめた。
「俺達はペットですけど、ちゃんと言葉が話せます。大好きなご主人に本当の気持ちを伝えないなんて、勿体なすぎる」
 少しだけ潤んだ涼真さんの目は綺麗だった。その黒髪も、微かに震える唇も、勇ましく見えて本当は人並みに臆病な心も。
「俺には『あいつが好きだ』って言ってくれたじゃないですか。それ、幸次郎さんに直接言ったらめちゃくちゃ喜びますよ! この際だから全部言っちゃいましょう!」
「た、確かにあいつのことは好きだし、分かってはいるんだが……は、恥ずかしくて、言葉が……」
 これまで言わなかった分、それを全て伝えるとなると確かに大きな勇気が必要だろう。涼真さんのような性格なら尚更だ。

 ……だけど、勇気を振り絞るべきなのは涼真さんだけじゃない。

「涼真ぁ……」
「……幸次郎っ? き、聞いてたのかっ?」
 少し前から俺には見えていた。涼真さんの後ろで寝ていた幸次郎さんが薄っすらと目を開け、俺達の言葉を聞きながら天井を見つめていたのを。
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