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第11話 夏祭りは危険がいっぱい?
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そして翌日、午後七時半──
「うおぉ、綿あめー!」
大三元町の夏祭り。もっと小規模なものかと思っていたけれど、意外や意外、駅から遠く離れた神社までの道の左右にずらりと夜店が並んでいる。
炎珠さん手作りの甚平を着て、早速綿あめを買ってもらいすっかり上機嫌な俺。左右をご主人達に挟まれながら、キョロキョロと辺りを見回し美味しそうな屋台を探してしまう。
「那由太、屋台ばっかり見てはぐれないようにね」
「痴漢がいたらすぐに言え」
二人のご主人も今夜はカッコいい甚平姿だ。炎珠さんは紺色、刹は黒。二人とも物凄く似合っている。
「炎珠、那由太にチョコバナナ買ってくれ。ホワイトチョコのやつ」
「あいよ!」
今日は一眼レフではなくスマホでの撮影だ。もちろん人が多くて立ち止まることはできないから、歩きながらの撮影となる。
俺はホワイトチョコバナナを咥えるよう刹に指示され、仕方なく綿あめとは別の手に持ったバナナを口に頬張った。
「次は何食べたい、那由太?」
「そ、そんな立て続けに食べられませんよ。俺は良いですから、炎珠さん達も好きな物買って下さいね」
賑やかな明かりに人々の話し声、笑い声。食べ物の他にも金魚すくいに射的やヨーヨー、当たりそうにないくじ引き、それからキャラクターや動物のお面。
刹が俺に茶トラ猫のお面を買ってきて、また何度も写真を撮られた。
お腹がいっぱいになるほど食べて、思い切り笑って、刹が炎珠さんをからかって、またそれに笑って。
神社横の大きな公園広場には盆踊りの櫓も出ていて、浴衣姿のお姉さんやおばさん達が汗だくで麦茶を飲む中、元気いっぱいな子供達が蛍光に光る腕輪や棒を手に駆け回っていた。
「みんな楽しそう。俺も子供の頃思い出すなあ……」
「俺達も楽しめるけど、やっぱりこういうお祭りは子供達が一番楽しんでるんだろうね。同じ学校の好きな子とばったりお祭りで鉢合わせして、照れ臭かったりしてさぁ」
「いいなぁ、想像するだけでわくわくするなぁ」
「かき氷無料だよー、皆持ってってー! 氷がなくなり次第終わっちゃうからお早めにー!」
町内会で出しているらしいかき氷のスペース内で、うちわを片手に陽気なおじさんが叫んでいる。その辺りにいた子供達がワッとおじさんの元へ駆け寄って行くのを見て、刹が「いけねえ」と子供達と共にそちらへ走り出した。
「あ、あれ……。刹ってそんなにかき氷好きなんですか?」
思わず訊ねた俺の横で、炎珠さんが苦笑する。
「多分、那由太に食べさせたいんじゃないかな。舌にシロップの色がついて『べー』ってしてる写真が撮りたいんだと思うよ」
「ああ……なるほど」
氷がなくなり次第、という割に、その氷はまだまだなくなる気配はない。そのうち通りや神社方面から公園になだれ込んで来た人達が集まり始め、俺は人の流れの邪魔にならないよう炎珠さんと二人で広場の端へ移動することにした。
「あっ」
繋いでいた炎珠さんの手が、人の波に押されて離れて行く。
「那由太、……」
一瞬だけ炎珠さんの焦った顔が見えたけれど、すぐに見えなくなってしまった。
「うおぉ、綿あめー!」
大三元町の夏祭り。もっと小規模なものかと思っていたけれど、意外や意外、駅から遠く離れた神社までの道の左右にずらりと夜店が並んでいる。
炎珠さん手作りの甚平を着て、早速綿あめを買ってもらいすっかり上機嫌な俺。左右をご主人達に挟まれながら、キョロキョロと辺りを見回し美味しそうな屋台を探してしまう。
「那由太、屋台ばっかり見てはぐれないようにね」
「痴漢がいたらすぐに言え」
二人のご主人も今夜はカッコいい甚平姿だ。炎珠さんは紺色、刹は黒。二人とも物凄く似合っている。
「炎珠、那由太にチョコバナナ買ってくれ。ホワイトチョコのやつ」
「あいよ!」
今日は一眼レフではなくスマホでの撮影だ。もちろん人が多くて立ち止まることはできないから、歩きながらの撮影となる。
俺はホワイトチョコバナナを咥えるよう刹に指示され、仕方なく綿あめとは別の手に持ったバナナを口に頬張った。
「次は何食べたい、那由太?」
「そ、そんな立て続けに食べられませんよ。俺は良いですから、炎珠さん達も好きな物買って下さいね」
賑やかな明かりに人々の話し声、笑い声。食べ物の他にも金魚すくいに射的やヨーヨー、当たりそうにないくじ引き、それからキャラクターや動物のお面。
刹が俺に茶トラ猫のお面を買ってきて、また何度も写真を撮られた。
お腹がいっぱいになるほど食べて、思い切り笑って、刹が炎珠さんをからかって、またそれに笑って。
神社横の大きな公園広場には盆踊りの櫓も出ていて、浴衣姿のお姉さんやおばさん達が汗だくで麦茶を飲む中、元気いっぱいな子供達が蛍光に光る腕輪や棒を手に駆け回っていた。
「みんな楽しそう。俺も子供の頃思い出すなあ……」
「俺達も楽しめるけど、やっぱりこういうお祭りは子供達が一番楽しんでるんだろうね。同じ学校の好きな子とばったりお祭りで鉢合わせして、照れ臭かったりしてさぁ」
「いいなぁ、想像するだけでわくわくするなぁ」
「かき氷無料だよー、皆持ってってー! 氷がなくなり次第終わっちゃうからお早めにー!」
町内会で出しているらしいかき氷のスペース内で、うちわを片手に陽気なおじさんが叫んでいる。その辺りにいた子供達がワッとおじさんの元へ駆け寄って行くのを見て、刹が「いけねえ」と子供達と共にそちらへ走り出した。
「あ、あれ……。刹ってそんなにかき氷好きなんですか?」
思わず訊ねた俺の横で、炎珠さんが苦笑する。
「多分、那由太に食べさせたいんじゃないかな。舌にシロップの色がついて『べー』ってしてる写真が撮りたいんだと思うよ」
「ああ……なるほど」
氷がなくなり次第、という割に、その氷はまだまだなくなる気配はない。そのうち通りや神社方面から公園になだれ込んで来た人達が集まり始め、俺は人の流れの邪魔にならないよう炎珠さんと二人で広場の端へ移動することにした。
「あっ」
繋いでいた炎珠さんの手が、人の波に押されて離れて行く。
「那由太、……」
一瞬だけ炎珠さんの焦った顔が見えたけれど、すぐに見えなくなってしまった。
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