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第5話 お客さんが来る!

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「華深は、幸嶋さんのこと好きなんだね」
「もちろん! 栄治さん以上に俺のこと愛してくれる人なんて他にいないもん。あの人は文字通りボロボロのゴミだった俺を救って迎えてくれたんだ。一生かかっても返しきれない恩があるから、せめて栄治さんが俺を求めてくれる間はずっと傍にいるって決めてんの」

 俺と似たような状態で「お迎え」された華深の目は、主人への揺るぎない愛と信頼で満ち溢れている。
 俺だって一千万の借金というどうにもならない状況を、あの二人にぶち破ってもらったのだ。

 もしもあのまま一人でいたら、実家の土地を全て奪われて親を泣かせていた。或いは風俗で働いて取り返しのつかない所まで行っていたかもしれない。

 救われたんだ、俺は。──炎珠さんと刹に。

「那由太も早く二人のこと好きになれるといいね。あの二人なら信じて良いと思うよ、きっと那由太のこと大事にしてくれる」
「………」

 ──二人を好きになれるといい。
 華深には何も言わなかったけれど、俺は心の中で小さく頷いていた。


 *


「今日はありがとう、幸嶋さん。那由太も華深と仲良くなれたみたいだし」
「俺達も会えて良かったです。華深もありがとうな」
「こちらこそな。華深の息抜きにもなった、感謝する」
 炎珠さんと刹と交互に握手をする幸嶋さん。その横に立った華深は誇らしげに笑っている。

「へへ。炎珠さんも刹っちゃんも、今度は家にも来てね!」
「うん、行くよ!」
「那由太もね」
 華深が俺の手を取り、秘密めかしたウィンクを送ってきた。

「……うん!」
 俺は力強く華深の手を握り返し、ペット同士芽生えた小さな友情に感謝した。

 そうして二人を見送った後で、炎珠さんが俺の頭を撫でて言った。
「良かったね那由太、友達できて!」
「は、はい……」
 その屈託のない眩しい笑顔には、一点の曇りも嘘もない。心から喜んでいるような、そして心底安心したような、懐の深い優しい笑顔だ。

 炎珠さんのそれは世間一般的に見て、決して二十歳の男に対する態度じゃない。だけど俺をペット扱いしているにしろ子供扱いしているにしろ、これが炎珠さんなりの優しさ、そして愛情なのだろう。

「そんじゃ、後片付けして風呂入ってビール飲もうぜ」
 刹がその場で伸びをして、「片付けは面倒臭せぇけど」と溜息をついた。
「にゃん太のPdMCデビュー記念だし、風呂上がったらアイス買って来てやるよ」
「……ありがとう」

 炎珠さんみたいに滅多に笑わない刹だけど、彼は彼でちゃんと優しさを持っている。ぶっきらぼうでも目付きが怖くても、見た目と中身は比例しないという良い例だ。それは刹だけでなく、幸嶋さんにも言えることだった。

「刹、俺のアイスはキャラメルWバニラでいいよ!」
「金」
「えぇっ、俺のは奢ってくれないの?」
「当たり前だ、バーカ」
 華深が言っていたように、いつか俺も──。
「いじわる刹」
「そんじゃ半額出してやる」
「せこっ!」

 この二人に「合意」を出す日は、そう遠くないのかもしれない。



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