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武虎の異変

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 が──。
「………」
 いつもは一番最初でなくても、元気に飛び出してくるのに。
 武虎が、出てこない。
 まさかと思って教室に駆け寄ると、丁度蒼汰が出てきて俺と目が合った。
「あ、……」
 蒼汰の目が見開かれる。俺は既に泣きそうになっていた。
「た、武虎は……?」
「来てねえよ。先週まで休んでたから、今日も休みかと思って。今、お前に電話しようと思ってたところだ」
「ど、どうしよう。蒼汰。どうしよう。今日は行くって、時間通りに家出たのに」
「落ち着け。親父さんは家にいるのか?」
「八時頃まで帰ってこない。鍵も閉めてきたし、武虎は鍵持ってないし」
 足に力が入らず、その場にへたり込みそうになる。蒼汰が俺の腕を掴んで支え、片方の手に握っていたスマホでどこかへかけ始めた。
「トイ・グラウンドの桜井と申しますが。小学一年の男児、そちらで保護してませんか」
 どうやら最寄りの交番か何かにかけているらしい。俺も慌てて取り出したスマホで父さんに電話をかけ、武虎がいなくなったことを知らせた。
 通話口の向こうで、父さんも慌てている。すぐに帰ると言ってくれたが、どう頑張っても会社からここまで一時間以上はかかる距離だ。
「そうですか、分かりました。……翼、今日の武虎の服装、覚えてるか?」
「い、いつもの青いキャップと、上着は黒で、下は長いジーンズ、黄色い鞄」
 蒼汰が冷静に、相手の警官にそれを伝える。
「探しに行かなきゃ。公園とか学校とか、河川敷とか」
「いや、お前は家で待ってた方がいい。もしかしたら帰ってくるかもしれないだろ」
「そ、そっか。でも、……」
「六時過ぎても帰ってこなかったら連絡してくれ」
 動転しているせいで頭が全く働かない。
 俺は蒼汰に指示されるまま来た道を走って戻り、それでも途中、児童公園にあるブランコやジャングルジムに目を凝らした。そうしなければ見えないほどに暗いのだ。遊具の輪郭は闇に溶け、武虎の姿も見当たらない。
「武虎……」
 家の鍵は閉まったままで、帰ってきた痕跡はない。俺はふらつく足取りでリビングへ向かい、電話帳に記入していた武虎の友人宅へと片っ端から電話をかけた。手がかりはない。みんな放課後は武虎に会っていないと言う。次に、学校。運よく担任の先生がまだ残っていて、これから他の先生達と探しに行くと言ってくれた。
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