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武虎の異変

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「何で。動物園の時はあんなに楽しそうだったのに」
「蒼汰先生のことは大好き」
 武虎が、真っ赤になった顔で呟いた。
「でも、蒼汰先生に会いたくない」
「………」
「会いたくないの……」
 何が武虎にそう言わせるのか全く分からず、俺の方が動揺してしまう。
「な、何で。好きなのに会いたくないなんて、理由があるはずだろ」
「分かんない。けど、会いたくない」
 何を訊いても首を振り、ただ「会いたくない」としか言わない武虎。訳が分からず、俺は途方に暮れてしまった。
「じゃあ、英語教室辞めるか?」
「……辞めたくない」
「飯島先生の授業の曜日に変える?」
「金曜日がいい」
 これじゃあお手上げだ。ついに俺は冷たい声で言ってしまった。
「一体、どうしたいって言うんだ」
「……分かんない……」
「言わなきゃ、俺だって分かんないだろ」
 みるみる泣き顔になる武虎に、溜息をつく。
「蒼汰先生のこと、大好きだったじゃないか。武虎も自分で言ってただろ。先生はかっこよくて、面白くて優しいし──」
「つばさのバカ!」
 突然叫ばれ、混乱よりも先に怒りがきた。
「っ、……!」
 咄嗟にあげかけた手を何とか堪え、代わりに、「勝手にしろ」と吐き捨てて部屋を出る。
 力任せに閉めてしまったドアの向こうで、武虎が声を上げて泣き出した。申し訳なさに耳を塞ぎたくなるほどの大きな声だった。
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