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sunny day

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 そうして充分に休憩を取ってから、俺達はいよいよ猛獣が待つ園の奥へと向かって行った。

 流石に人気があるためか、中々の人だかりだ。
「ライオン、寝てるぞ」
「ほんとだ。ネコみたいで可愛い」
「見えない! つばさ、全然見えない!」
   仕方なく武虎を抱き上げる。
「見えたか?」
「見えた見えた。タテガミかっこいい……」
「ほ、他に何が見える」
「ええと、小さいライオンがお母さんのところにいる。それで、二匹で遊んでる」
 小さいライオン。俺も見たい。
 それにしても腕が攣りそうだ。前までは楽々で抱っこできていたのに、一体いつの間にこんな重くなったのか。
「つばさ、下ろしたら見えなくなっちゃう。もっともっと高く」
「む、無茶言うなっ」
 限界を感じて武虎を下ろそうとした時、正面から伸びてきた逞しい腕が俺から武虎を颯爽と取り上げた。
「わ、……!」
「どうだ、この方が高いだろ」
「すげえ!」
 蒼汰が両腕をぐんと上げ、そのまま自分の肩に武虎を担ぎ上げる。
「蒼汰、大丈夫なのか?」
「ああ、武虎くらいなら全然。よく見えるだろ、どうだ武虎」
「すげえ、先生、高い!」
 お陰で俺も仔ライオンを見ることができた。それからヒョウ、黒ヒョウ。ゴリラ、ツキノワグマ、オオカミ。憧れの大型動物はやはり逞しくかっこよく、美しかった。
   時間も忘れて動物に見入っていると、突然、
「トラーッ!」
 武虎が悲鳴にも似た歓声をあげ、蒼汰の上で片手を振り回した。
「トラいた、あっち、先生、早く!」
「わ、分かったから上で暴れるな。危ない、落ちるぞ」
 蒼汰が武虎を担ぎ直し、慎重な足取りでそちらへ向かう。俺もひやひやしながらその後に付いて行った。
 運良く、なのか。それとも武虎の情熱が功を成したのか。とにかく俺達は周りの人々の間を進むうちに、トラの檻の最前列まで来ることができたのだ。
 ようやく武虎を下ろした蒼汰が、心底からの安堵の息をつく。
「大丈夫?」
「大丈夫。かなり運動不足解消になった……」
「ロンメルー!」
 手摺りを掴んで、武虎が叫んだ。好きな歌手のライブに来たファンみたいだ。
「ロンメルじゃない。名前は……メスはミルで、オスの方はタイガだって」
「た、タイガー! おれ知ってる!   タイガーってトラじゃん!」
 興奮し過ぎて失神するのではと思うほど、武虎のテンションは上がり切っていた。肝心の二頭のトラは木陰でじっとしていて、こちらを見向きもしてくれないのに。
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