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ぜんぶ初めての夜

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「金曜の夜は母親の常連が家に来るから、俺は五百円玉だけ持たされて、ファミレスで何時間も時間潰してよ。つい早く帰っちゃった時なんかは、押入れで寝たっけな。母親との思い出は殆どねえけど、これだけは覚えてるんだ。あの頃の俺は何よりも金曜日が嫌いだったわ」
「……蒼汰」
「でも今は金曜が一番好きだぜ。武虎にも会えるし、翼とも会える」
 ずるい奴だ。そんな話をされたら、湯船の中で腰に回された腕を振り払うことができなくなるじゃないか。
「翼、いい匂いがするな」
 うなじに蒼汰の息がかかる。
「泡の匂いだろ……」
「こっち向けよ」
 視界が涙で潤んでいるのは、恥ずかしさと、余裕がないのと、緊張と期待のせいだ。
 振り向くまでもなく蒼汰の手が俺の顎を捉え、ぐるりと後ろを向かされた。
「あ……」
 前髪の先から滴る雫。湯気に濡れた瞳。熱い息遣い、……鼓動。
 動揺する俺を見て可笑しそうに唇を弛めながら、蒼汰がゆっくりと距離を縮めてきた。
「蒼、……」
 触れた唇は温かかった。差し込まれた舌は更に熱く、濡れていた。頭の芯まで蕩かすような蒼汰の舌と唇は、俺の体をも熱くさせてゆく。
「ん、う……。んあ、蒼汰、……」
 声が漏れてしまうのは、蒼汰の手が後ろから俺を弄るせいだ。狭いバスタブの中では逃げ場なんてどこにもない。
 それでも蒼汰はまるで俺を逃がさまいとするかのように、腹と胸をしっかりと押さえ込んでいる。泡で見えないお湯の中、その手はどこか卑猥な動きでますます俺を熱くさせた。
「乳首、固くなってる」
「さ、触るから、ぁ……」
 唾液の糸を引いて離れた唇。蒼汰は俺の首筋から肩へと舌を這わせながら、執拗に胸元と下腹部の辺りを撫で回している。恥ずかしいのに心地好く、初めての経験なのに気持ちが昂ぶって止まらない。
「ん、く、……あぁっ」
 うなじを舐め上げられた瞬間、自分でも驚くほど体がビクついた。蒼汰の舌と息は燃えるように熱いのに、どうしてこんなに震えてしまうのだろう。
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