31 / 59
ぜんぶ初めての夜
1
しおりを挟む
蒼汰に言わせれば、「こんな日に空室があること自体が奇跡」なのだそうだ。俺はもちろん初めてだから、そんな常識知る訳がない。
「な、何かすごい。豪華な部屋なんだな。……わ、でかいベッド。こんなの初めてだ」
ベッドは大きく、壁の装飾も煌びやかで、テレビにDVDにゲームまである。冷蔵庫にはジュースや酒が入っているし、有線も聴き放題だ。
「喜んでるところ悪いけど、これを豪華とか人前であんまり言うなよ」
「え、充分豪華だと思うけど。スイートルームって言うんだっけ、お城みたいだし」
「……まあいいか。風呂沸かすけど、翼くん一緒に入るか?」
「い、いいよ。一人で……」
「アツアツの泡風呂にして遊ぼうぜ。楽しいぞ」
興味をそそられて風呂場について行くと、浴槽近くに見慣れない装置が並んでいた。照明の色を変えたり、ジェットバスになったりするらしい。それだけでわくわくしてきて、俺は浴槽に湯を溜める蒼汰の背後で落ち着きなく動き回った。
いい匂いのする入浴剤、泡風呂の素、シャンプーにボディソープもちゃんとある。目に映るもの全てが面白くて、まるでちょっとした旅行をしている気分になった。
「お、泡立ってきた」
「すごい。俺本当に泡風呂なんて初めて」
「入るともっとすごいぞ」
蒼汰がシャツを脱ぎ、脱衣所に放る。俺もぎこちなく服を脱ぎ、ベルトを外してジーンズを下ろした。蒼汰の前で裸になるのは恥ずかしいが、やはり男同士ということが根っこにあるからか、そこまでの抵抗はない。それに、どうせ湯船に入ってしまえば泡で何も見えなくなるのだ。
一応は前を隠し、蒼汰に背を向けて泡風呂の中へと身を沈める。
泡の弾ける音と、フルーツのような爽やかで甘い匂い。全身を包み込むお湯の心地好さ、ゆったりとした広いバスタブ。俺は心の底から溜息をつき、至福のひと時に頬を弛ませた。
「気持ちいいか? 翼、もう少し詰めてくれ」
俺のすぐ後ろで、蒼汰が体をうんと伸ばす。左右の浴槽縁に両腕と両脚を投げ出し、風呂の中で遠慮なく寛いでいる恰好だ。俺の腰の辺りにそれが当たっていてもまるで気にしていない。いかにも「慣れている」感じだった。
「泡風呂の素、一袋残ってるから持って帰れば。武虎が喜ぶんじゃねえの」
「名案だけど、ラブホテルの備品を子供に使わせるのってどうなんだろ。……道徳的に」
「俺はガキの頃、母親が持ち帰ったラブホの備品を躊躇なく使ってたけどな」
「え」
「俺の母親、風俗嬢だったからよ。ピンサロから始まってハコヘル、デリヘル、そんで最終的にはソープか。ちなみに父親は誰か分からねえ」
唐突に言われ、返答に困る。俺は泡の中に口元を埋めて膝を抱えた。
「な、何かすごい。豪華な部屋なんだな。……わ、でかいベッド。こんなの初めてだ」
ベッドは大きく、壁の装飾も煌びやかで、テレビにDVDにゲームまである。冷蔵庫にはジュースや酒が入っているし、有線も聴き放題だ。
「喜んでるところ悪いけど、これを豪華とか人前であんまり言うなよ」
「え、充分豪華だと思うけど。スイートルームって言うんだっけ、お城みたいだし」
「……まあいいか。風呂沸かすけど、翼くん一緒に入るか?」
「い、いいよ。一人で……」
「アツアツの泡風呂にして遊ぼうぜ。楽しいぞ」
興味をそそられて風呂場について行くと、浴槽近くに見慣れない装置が並んでいた。照明の色を変えたり、ジェットバスになったりするらしい。それだけでわくわくしてきて、俺は浴槽に湯を溜める蒼汰の背後で落ち着きなく動き回った。
いい匂いのする入浴剤、泡風呂の素、シャンプーにボディソープもちゃんとある。目に映るもの全てが面白くて、まるでちょっとした旅行をしている気分になった。
「お、泡立ってきた」
「すごい。俺本当に泡風呂なんて初めて」
「入るともっとすごいぞ」
蒼汰がシャツを脱ぎ、脱衣所に放る。俺もぎこちなく服を脱ぎ、ベルトを外してジーンズを下ろした。蒼汰の前で裸になるのは恥ずかしいが、やはり男同士ということが根っこにあるからか、そこまでの抵抗はない。それに、どうせ湯船に入ってしまえば泡で何も見えなくなるのだ。
一応は前を隠し、蒼汰に背を向けて泡風呂の中へと身を沈める。
泡の弾ける音と、フルーツのような爽やかで甘い匂い。全身を包み込むお湯の心地好さ、ゆったりとした広いバスタブ。俺は心の底から溜息をつき、至福のひと時に頬を弛ませた。
「気持ちいいか? 翼、もう少し詰めてくれ」
俺のすぐ後ろで、蒼汰が体をうんと伸ばす。左右の浴槽縁に両腕と両脚を投げ出し、風呂の中で遠慮なく寛いでいる恰好だ。俺の腰の辺りにそれが当たっていてもまるで気にしていない。いかにも「慣れている」感じだった。
「泡風呂の素、一袋残ってるから持って帰れば。武虎が喜ぶんじゃねえの」
「名案だけど、ラブホテルの備品を子供に使わせるのってどうなんだろ。……道徳的に」
「俺はガキの頃、母親が持ち帰ったラブホの備品を躊躇なく使ってたけどな」
「え」
「俺の母親、風俗嬢だったからよ。ピンサロから始まってハコヘル、デリヘル、そんで最終的にはソープか。ちなみに父親は誰か分からねえ」
唐突に言われ、返答に困る。俺は泡の中に口元を埋めて膝を抱えた。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる