上 下
27 / 59
invitation

4

しおりを挟む
 正直言って、蒼汰は格好良かった。
 ハロウィンについて語る楽しそうな笑顔も、友達同士みたいに子供とじゃれ合っているのも、低い声で発せられる流暢な英語も。
 密かに生徒全員分のハロウィンカードを作っていたことも、それとなく引っ込み思案な子の隣に行って笑わせてやっているところも、絵が下手だと子供達にからかわれて照れ臭そうにしているところも。
「先生、先生。まだ帰りたくないよ」
「私も、ハロウィンの歌また歌いたい」
「蒼汰先生、もっと遊んで」
 小さなモンスター達が蒼汰に群がっているのを見て、俺は苦笑した。体によじ登られるのを阻止したり女の子に腕を引っ張られて大袈裟に痛がったりする蒼汰は、あの夜、俺の体に触れていた蒼汰とは別人のようだった。
 俺だって楽しいのだ、子供達はもっと楽しいだろう。蒼汰が慕われている理由がよく分かった。
   ……そして、俺自身が蒼汰に惹かれ始めていることも。
「つばさ、楽しいね!」
「良かったな、武虎」
 最後にもう一度歌を歌ってから、午後六時、いつもより遅い時間にパーティーはお開きとなった。写真も沢山撮ったし、大量に作った俺のクッキーも全て捌けた。
「それじゃあ、また来週。暗いから気を付けて帰るんだぞ」
「蒼汰先生、バイバイ!」
「楽しかった、先生バイバイ! つばさもバイバイ!」
   迎えに来た保護者の人達が、それぞれの我が子と手を繋いで教室を出て行く。蒼汰は若い母親からの熱っぽい視線を受けながら教室の出口で一人一人と握手をし、最後の生徒を見送った後で大きく溜息をついた。
「はあ、疲れた。けど問題なく終わって良かった。協力ありがとうな翼、お疲れ様」
「お疲れ。武虎も良かったな、楽しかっただろ」
「楽しかった! 蒼汰先生の話と、歌とゲームと、つばさがいてくれたのが楽しかった。あと、先生のゾンビかっこよかった!」
「武虎も翼も、最後まで残ってくれてありがとうな。何かお礼しないとな」
 その言葉に俺は、武虎のミイラを褒めてくれた蒼汰の言葉を思い出した。
「お礼したいのは俺の方だよ。本当に助かった、ありがとう」
「先生、おれもありがとう!」
「いいって」
「あのさ、良かったらでいいんだけど……」
 もしかしたら迷惑かもしれないと思いながらも、俺は意を決して蒼汰に訊いてみることにした。
「良かったら、うちで夕飯一緒にどうかな」
「え?」
「蒼汰先生、うちに来るの? やった!」
 飛び跳ねる武虎の横で、俺は恥ずかしさに赤面する。感謝の気持ちを表したいのは事実だけど、これではまるで蒼汰を「誘っている」みたいだ。
「お邪魔しちゃっていいのかな」
 案の定、蒼汰がどこか意味ありげな笑みを俺に向ける。
「戸締りもしたし、飾りの片付けは明日ゆっくりやればいいか」
「やったぁ! 蒼汰先生、早く! 早く!」
   そうして武虎が右手に俺の手を、左手に蒼汰の手をしっかりと握りしめる。俺は陽の落ちた十月最後の金曜日の空を、どこか落ち着かない気持ちで見上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...