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日、月、暇なし

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「ごちそうさまでした」
「ん。今日ちょっと寒いからトレーナー着て、長ズボン穿いた方がいいかも」
「長いズボン今年初めてだ」
 新しいジーンズを出すと、武虎が椅子に座ったまま両脚を持ち上げた。
「穿かして、つばさ」
「何だよ、今日はずいぶん甘ったれだな」
 普段は黙って朝食を食べたり一人で着替えたりするはずが、今朝は何故か俺の気を引こうとしているらしい。訝しく思いながらもジーンズを穿かせてやり、ついでにトレーナーも着せてやった。
「行ってきます! つばさ、留守番よろしくな」
「任せろ」
 家を出た武虎が角を折れて見えなくなるまで、俺は玄関の前で手を振り続けた。

 八時、これからしばらくは一人きりだが、まだまだやることは山程残っている。食器を洗った後で洗濯機を回し、一階のリビングと台所、六畳の和室、それから二階の父さんの部屋と武虎の部屋、俺の部屋。それら全てに掃除機をかけなければならない。
 武虎の部屋は布団が崩れていることを別にすれば、すっきりと綺麗に片付いていた。隅には僅かばかりのオモチャがあって、ベッドの横には網に入ったサッカーボールが下がっている。
   小さな本棚にはきちんと漫画や図鑑が揃っているし、武虎のお気に入りのベンガルトラ「ロンメル」も椅子の上で行儀よく座っている。
「大きくなったら、ベッドの下にエロ本とか隠すようになるのかな」
 独り言ちて窓を開けると、冷たい風が入ってきた。確実に冬は近付いて来ているのだ。そろそろ冬物の寝具や上着を納戸から出しておいた方がいいかもしれない。
「よう、早いな翼くん」
「え?」
 声がした方へ顔を落とした俺は、一瞬、我が目を疑った。どういう訳か、家の前の道端に桜井蒼汰が立っていたのだ。咥え煙草で片手に携帯を持ち、眠そうな顔をしている。
「……な、何でそんなとこにいるんだよっ?」
「朝の散歩。翼の家、住所録で見たらこの辺かなって思って」
「こっ、このストーカー!」
 動揺する姿を見られたくない。赤くなった顔を見られたくない。咄嗟に窓を閉めて逃げようと思ったが、俺は一つ深呼吸をしてそれを堪えた。
「翼くん、今何してんの?」
「……掃除。そっちは?」
「だから散歩」
「今日、仕事は?」
「あるよ、三時半からな。でもその前に教室行ってハロウィンの飾り付けだ」
 そうなんだ、頑張れ、と小さく呟いたが、蒼汰の耳には届いていなかったらしい。俺の顔をじろじろ見上げるその目を見れば、何か良からぬことを考えているのは明白だ。
「翼くん、手伝ってよ。今度はちゃんとしたバイト代出してやるから」
「む、無理だよ。俺だってまだやることあるし」
「ここで待ってるから掃除終わったら来いよ。来なかったら俺、ショックで口が滑るかもしれねえぞ」
「………」
 何て性格の悪い奴。
 俺は窓を閉め、手にしていた掃除機を乱暴な手付きで元の場所へと戻した。
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