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先生、または桜井蒼汰

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 ハンカチでそれを丁寧に拭われ、下着の中にしまわれ、ジーンズのファスナーを元に戻されてから、ようやく俺は桜井蒼汰の膝から降りた。
 呼吸はまだ乱れているし、体中が燃えるように熱い。それでもようやく終わったという安堵から、夜風の心地好さは素直に感じることができた。
「言わねえよ、武虎には」
「………」
「ていうか、俺だって決して優位な立場じゃねえし」
「……そっか。俺が逆に、飯島先生にこのこと言ったらクビだもんな」
「言う気か、お前」
「言わないけど……」
「じゃあ俺も言わない」
 お互いに命綱を握り合っている状態だ。秘密の保有者。共犯者。俺は上目に彼を見て、それから、ぎこちなく呟いた。
「……ていうか、金くれ」
「そうだったな」
 蒼汰が財布を取り出し、中を開けながら言う。
「片手で扱いてイかせただけで二万か。高くついたな、素直に風俗でも行っときゃ良かった」
 それなら始めからそうしておけ。言いたかったが、そんな気力もない。
「まあでも、『生徒の兄貴』っていう付加価値があるから二万でも安い方か」
「……あんた、これまでも生徒の母親とか兄弟に手を出してたのか?」
   そんな訳ねえだろ、と蒼汰が噴き出す。
「たまに生徒の母親から誘われるけど、食事も番号交換も一切ナシ。何が噂になるか分かんねえから気を付けろって、飯島先生に言われてるしな」
「さり気なくモテてる自慢してる」
「してねえって。俺が好きなのは翼くんみたいな若い男だ」
「………」
「露骨に引いてんなよ、傷付くなあ」
「別に引いてないけど……。俺はその、……ゲイじゃないし」
「ふうん……」
 手コキでイッた癖に、という顔をされて、俺は思い切り蒼汰の肩を押した。
「痛てえな」
 考えたこともなかった。男とこんな行為をするなんて。いや、男だけじゃない……女とだって、俺には無縁のことだと思っていた。
「別にいいけどよ。その辺は気にしてねえ」
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