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第21話 カウントダウン
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九月下旬──。
夏の暑さも残しながら、夕方からは肌寒さを感じる秋の到来。俺の好きな季節。
頼寿とのナイトクラブ「SIESTA」も、いよいよ来週オープンというところまできている。内装も殆ど終わって、色々な酒やドリンクを仕入れて、ボーイの制服やストリッパー、ショーダンサーの衣装も揃えて、今月の頭から何度もステージの練習を見て。
俺も頼寿も大忙しの毎日だ。
そんなわけで俺は、今日も朝からずっとフロアのステージ前に座っている。
「どうでしたか、店長」
今しがた派手なストリップを終えた三人組のイケメンが、息を乱しながら俺に問いかけた。
「良かったよ! さすが鍛えた体でのストリップって迫力ある! 問題なし、本番もよろしく!」
グループダンサーは自分達で考えたダンスを完璧に仕上げてくれるが、
「玉ちゃん店長~。相方のロウが自分勝手すぎるんですけど」
「自分勝手とはなんだ。イェンこそスキル不足が目立ってるだろう」
「なんだと!」
俺と頼寿のようにステージ上で絡みを魅せるSMカップル、中国は上海出身のイェンとロウ。二人共めちゃくちゃスタイルが良くてキリッとしたイケメンなのに、どうにも喧嘩が多い。
「まあまあ、喧嘩しないで。イェンもロウも俺から見たら完璧にセクシーだし上手いよ」
「ロウ」
と、そこへ頼寿がやってきて言った。
「お前のプレイは最高に華やかで洗練されているが、それだけにイェンの無邪気なエロさを殺しちまうんだ。もう少しトーンを上げて、絡み中はイェンを転がすようにしてくれ」
イェンが手を叩いて頼寿に笑いかける。
「さすが社長だよ。分かってる!」
「いや、お前もロウの大人っぽさに合うよう、プレイ中の表情の研究をしろ。お前は感じている時に照れ隠しなのか笑う癖がある。それを直せ」
「む、難しいよ~……」
「特訓だな、イェン」
そうしてイェンの肩を抱いたロウが、頼寿に頭を下げてからそのまま控え室へと入って行った。この二人は喧嘩するほど仲が良いタイプなので、そこまで悩む必要はないだろう。
取り敢えず誰もいなくなったステージ前で、俺は頼寿に向かい合う。
「俺じゃ全然気付かないことばっかだ。当たり前だけど、頼寿がダンサーのアドバイスした方がいいよ」
「これもお前を鍛えるためだからな。他人のプレイを見るのも、改善の指示を出すのも」
俺で大丈夫かなぁ、と思う。……いや、やるんだ。俺は店長なんだから。皆に頼られる存在にならなきゃならないんだ。
と、その時──。
「社長!」
フロアの入口ドアから駆け込んできたダンサーのミチルが、そのままの勢いで頼寿の背中に抱きついた。
「くっつくな、ミチル」
「社長、今日もいい男。今日は相方が休みだから、俺一人での練習手伝ってくれる約束。忘れてないよな?」
「その約束は俺とじゃなく、玉雪とだろ」
「えー。玉ちゃん店長だと、ちょっと背が足りないんだけどなぁ」
ミチルは元々フリーで活躍していたプロのダンサーで、プレイのスキルもスタイルも顔も完璧の二十二歳だった。背も高くて今風の青年。ステージでは一応タチ役なのだが……
「社長じゃないとやる気出ないなぁ~」
「じゃあクビだな」
「うそ、うそ! 玉ちゃん店長と頑張らせて頂きます!」
どうもこのミチルは、頼寿のことが心底気に入っているらしい。俺と頼寿がパートナーなのを知っていて、わざと頼寿にベタベタするのだ。
「それじゃ店長、今日はよろしくね!」
「う、うん……」
従業員を贔屓するのは絶対禁止。
だけど俺は、ミチルのことが少し苦手だった。
夏の暑さも残しながら、夕方からは肌寒さを感じる秋の到来。俺の好きな季節。
頼寿とのナイトクラブ「SIESTA」も、いよいよ来週オープンというところまできている。内装も殆ど終わって、色々な酒やドリンクを仕入れて、ボーイの制服やストリッパー、ショーダンサーの衣装も揃えて、今月の頭から何度もステージの練習を見て。
俺も頼寿も大忙しの毎日だ。
そんなわけで俺は、今日も朝からずっとフロアのステージ前に座っている。
「どうでしたか、店長」
今しがた派手なストリップを終えた三人組のイケメンが、息を乱しながら俺に問いかけた。
「良かったよ! さすが鍛えた体でのストリップって迫力ある! 問題なし、本番もよろしく!」
グループダンサーは自分達で考えたダンスを完璧に仕上げてくれるが、
「玉ちゃん店長~。相方のロウが自分勝手すぎるんですけど」
「自分勝手とはなんだ。イェンこそスキル不足が目立ってるだろう」
「なんだと!」
俺と頼寿のようにステージ上で絡みを魅せるSMカップル、中国は上海出身のイェンとロウ。二人共めちゃくちゃスタイルが良くてキリッとしたイケメンなのに、どうにも喧嘩が多い。
「まあまあ、喧嘩しないで。イェンもロウも俺から見たら完璧にセクシーだし上手いよ」
「ロウ」
と、そこへ頼寿がやってきて言った。
「お前のプレイは最高に華やかで洗練されているが、それだけにイェンの無邪気なエロさを殺しちまうんだ。もう少しトーンを上げて、絡み中はイェンを転がすようにしてくれ」
イェンが手を叩いて頼寿に笑いかける。
「さすが社長だよ。分かってる!」
「いや、お前もロウの大人っぽさに合うよう、プレイ中の表情の研究をしろ。お前は感じている時に照れ隠しなのか笑う癖がある。それを直せ」
「む、難しいよ~……」
「特訓だな、イェン」
そうしてイェンの肩を抱いたロウが、頼寿に頭を下げてからそのまま控え室へと入って行った。この二人は喧嘩するほど仲が良いタイプなので、そこまで悩む必要はないだろう。
取り敢えず誰もいなくなったステージ前で、俺は頼寿に向かい合う。
「俺じゃ全然気付かないことばっかだ。当たり前だけど、頼寿がダンサーのアドバイスした方がいいよ」
「これもお前を鍛えるためだからな。他人のプレイを見るのも、改善の指示を出すのも」
俺で大丈夫かなぁ、と思う。……いや、やるんだ。俺は店長なんだから。皆に頼られる存在にならなきゃならないんだ。
と、その時──。
「社長!」
フロアの入口ドアから駆け込んできたダンサーのミチルが、そのままの勢いで頼寿の背中に抱きついた。
「くっつくな、ミチル」
「社長、今日もいい男。今日は相方が休みだから、俺一人での練習手伝ってくれる約束。忘れてないよな?」
「その約束は俺とじゃなく、玉雪とだろ」
「えー。玉ちゃん店長だと、ちょっと背が足りないんだけどなぁ」
ミチルは元々フリーで活躍していたプロのダンサーで、プレイのスキルもスタイルも顔も完璧の二十二歳だった。背も高くて今風の青年。ステージでは一応タチ役なのだが……
「社長じゃないとやる気出ないなぁ~」
「じゃあクビだな」
「うそ、うそ! 玉ちゃん店長と頑張らせて頂きます!」
どうもこのミチルは、頼寿のことが心底気に入っているらしい。俺と頼寿がパートナーなのを知っていて、わざと頼寿にベタベタするのだ。
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