【BL】Real Kiss

狗嵜ネムリ

文字の大きさ
上 下
118 / 157
第17話 ワンナイトイリュージョン

7

しおりを挟む
 散々からかわれた後、午前零時。

 タクシーを降りた俺と頼寿は、夏の夜空の下を無言で並んで歩いていた。
 特に話すことがないのと眠かったせいで黙っていたが、頼寿は無言でもどこか機嫌が良さそうだ。
 タクシーをマンションの前でなく地元の駅で降りて歩くと言い出したのも頼寿だった。無駄なことを嫌う頼寿らしからぬ提案だったから驚いたけど、こうして夜風を感じながら歩くのもたまには悪くない。

「タマ」
 数分の沈黙を破って、頼寿が俺の名前を呼んだ。
「なに?」
「将来の夢ってあるか、お前」

 ……何だ急に。思春期か。

「別に、何になりたいとかはないけど。出来ることもないし……頭も悪くて先見の明も才能もないし」
「そうか」

 今日は酔っていないはずなのに、どうしたというのだろう。不安というよりは切なさすら感じる頼寿の変化に、俺は恐る恐る訊ねてみた。

「頼寿は、やりたいことあるのか……?」
「オヤジになるまでこの仕事はできねえだろ。ロッソのように店を持ってるなら別だが、自分の体だけで稼ぐには年齢的に限界がある」
「まあ確かに……」
「引退した後に何か仕事をするか、それとも引退するまでに将来困らねえほど稼ぐか、だな」

 簡単に言うけど、どちらも難しい。俺には何も分からないからアドバイスすらできないし、そんな十年以上も先のことなんて考えられない。

「でも、今って結構困らないくらい稼いでるんじゃないの? 俺の報酬と併せれば更にさ」
「それは旦那に雇われているからだ」
「あ……そうか」
「今までずっと何かに雇われたり依頼を受けたりしていたが、将来的には俺が若い奴を雇う側にならねえとな」
「ふーん……」

 ──大人って色々考えなきゃならないんだなぁ。
 そんな心の声が顔に出ていたのか、頼寿が呆れ顔で俺を見て言った。

「お前のためだぞ」
「え?」
「お前が将来、食うのに困らないようにするためだ」

 このぶっきらぼうな言い方は少し照れている証拠だ。さっきまで機嫌が良さそうだったし、見た目には分からないけれど頼寿もロッソ君達のイベントで相当テンションが上がったらしい。

 一夜限りのサルベージ・イリュージョンは、どうやら頼寿にもちょっとした魔法をかけたみたいだ。

「まあ、ゆっくりやりたいこと考えたらいいんじゃない? 頼寿だってまだ若いんだし、これから新しいことも思い付くかもしれないしさ!」
「……お気楽で羨ましいぜ」
 俺はニニッと笑って、頼寿の手を強く握った。

 この手を握っていられるなら、将来どんな仕事だってたぶん頑張れる。

「ま、未来のことより今は来週末のプールステージだな。流れは頭に叩き込んであるのか?」
「あああそれ忘れてた……! めちゃくちゃ緊張する……!」

 ──たぶん頑張れる。たぶん。


 つづく!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

上司と俺のSM関係

雫@更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...