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第17話 ワンナイトイリュージョン
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散々からかわれた後、午前零時。
タクシーを降りた俺と頼寿は、夏の夜空の下を無言で並んで歩いていた。
特に話すことがないのと眠かったせいで黙っていたが、頼寿は無言でもどこか機嫌が良さそうだ。
タクシーをマンションの前でなく地元の駅で降りて歩くと言い出したのも頼寿だった。無駄なことを嫌う頼寿らしからぬ提案だったから驚いたけど、こうして夜風を感じながら歩くのもたまには悪くない。
「タマ」
数分の沈黙を破って、頼寿が俺の名前を呼んだ。
「なに?」
「将来の夢ってあるか、お前」
……何だ急に。思春期か。
「別に、何になりたいとかはないけど。出来ることもないし……頭も悪くて先見の明も才能もないし」
「そうか」
今日は酔っていないはずなのに、どうしたというのだろう。不安というよりは切なさすら感じる頼寿の変化に、俺は恐る恐る訊ねてみた。
「頼寿は、やりたいことあるのか……?」
「オヤジになるまでこの仕事はできねえだろ。ロッソのように店を持ってるなら別だが、自分の体だけで稼ぐには年齢的に限界がある」
「まあ確かに……」
「引退した後に何か仕事をするか、それとも引退するまでに将来困らねえほど稼ぐか、だな」
簡単に言うけど、どちらも難しい。俺には何も分からないからアドバイスすらできないし、そんな十年以上も先のことなんて考えられない。
「でも、今って結構困らないくらい稼いでるんじゃないの? 俺の報酬と併せれば更にさ」
「それは旦那に雇われているからだ」
「あ……そうか」
「今までずっと何かに雇われたり依頼を受けたりしていたが、将来的には俺が若い奴を雇う側にならねえとな」
「ふーん……」
──大人って色々考えなきゃならないんだなぁ。
そんな心の声が顔に出ていたのか、頼寿が呆れ顔で俺を見て言った。
「お前のためだぞ」
「え?」
「お前が将来、食うのに困らないようにするためだ」
このぶっきらぼうな言い方は少し照れている証拠だ。さっきまで機嫌が良さそうだったし、見た目には分からないけれど頼寿もロッソ君達のイベントで相当テンションが上がったらしい。
一夜限りのサルベージ・イリュージョンは、どうやら頼寿にもちょっとした魔法をかけたみたいだ。
「まあ、ゆっくりやりたいこと考えたらいいんじゃない? 頼寿だってまだ若いんだし、これから新しいことも思い付くかもしれないしさ!」
「……お気楽で羨ましいぜ」
俺はニニッと笑って、頼寿の手を強く握った。
この手を握っていられるなら、将来どんな仕事だってたぶん頑張れる。
「ま、未来のことより今は来週末のプールステージだな。流れは頭に叩き込んであるのか?」
「あああそれ忘れてた……! めちゃくちゃ緊張する……!」
──たぶん頑張れる。たぶん。
つづく!
タクシーを降りた俺と頼寿は、夏の夜空の下を無言で並んで歩いていた。
特に話すことがないのと眠かったせいで黙っていたが、頼寿は無言でもどこか機嫌が良さそうだ。
タクシーをマンションの前でなく地元の駅で降りて歩くと言い出したのも頼寿だった。無駄なことを嫌う頼寿らしからぬ提案だったから驚いたけど、こうして夜風を感じながら歩くのもたまには悪くない。
「タマ」
数分の沈黙を破って、頼寿が俺の名前を呼んだ。
「なに?」
「将来の夢ってあるか、お前」
……何だ急に。思春期か。
「別に、何になりたいとかはないけど。出来ることもないし……頭も悪くて先見の明も才能もないし」
「そうか」
今日は酔っていないはずなのに、どうしたというのだろう。不安というよりは切なさすら感じる頼寿の変化に、俺は恐る恐る訊ねてみた。
「頼寿は、やりたいことあるのか……?」
「オヤジになるまでこの仕事はできねえだろ。ロッソのように店を持ってるなら別だが、自分の体だけで稼ぐには年齢的に限界がある」
「まあ確かに……」
「引退した後に何か仕事をするか、それとも引退するまでに将来困らねえほど稼ぐか、だな」
簡単に言うけど、どちらも難しい。俺には何も分からないからアドバイスすらできないし、そんな十年以上も先のことなんて考えられない。
「でも、今って結構困らないくらい稼いでるんじゃないの? 俺の報酬と併せれば更にさ」
「それは旦那に雇われているからだ」
「あ……そうか」
「今までずっと何かに雇われたり依頼を受けたりしていたが、将来的には俺が若い奴を雇う側にならねえとな」
「ふーん……」
──大人って色々考えなきゃならないんだなぁ。
そんな心の声が顔に出ていたのか、頼寿が呆れ顔で俺を見て言った。
「お前のためだぞ」
「え?」
「お前が将来、食うのに困らないようにするためだ」
このぶっきらぼうな言い方は少し照れている証拠だ。さっきまで機嫌が良さそうだったし、見た目には分からないけれど頼寿もロッソ君達のイベントで相当テンションが上がったらしい。
一夜限りのサルベージ・イリュージョンは、どうやら頼寿にもちょっとした魔法をかけたみたいだ。
「まあ、ゆっくりやりたいこと考えたらいいんじゃない? 頼寿だってまだ若いんだし、これから新しいことも思い付くかもしれないしさ!」
「……お気楽で羨ましいぜ」
俺はニニッと笑って、頼寿の手を強く握った。
この手を握っていられるなら、将来どんな仕事だってたぶん頑張れる。
「ま、未来のことより今は来週末のプールステージだな。流れは頭に叩き込んであるのか?」
「あああそれ忘れてた……! めちゃくちゃ緊張する……!」
──たぶん頑張れる。たぶん。
つづく!
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