愛玩犬は恋を知る

狗嵜ネムリ

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愛玩犬は恋を知る・3

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 下ろされたファスナーの隙間から、彰久の指が侵入してくる。中では逃げ道なんてどこにもなくて、あっさりと下着の前開き部分からそれを引っ張り出されてしまった。
「開き直れよ、伊吹。これから遊び人になるんだろ」
「だ、だからって──俺にだって、遊ぶ相手を選ぶ権利がっ……」
「ねえよ、そんなモンは」
「ひ、酷っ……あぁっ!」
 彰久の手の中に収まったそれが、ゆっくりと……卑猥な動きで揉みしだかれる。その耐え難い刺激に腰が痙攣し、背筋がゾクゾクと粟立った。
「触っ、るなぁ……!」
「触られたくねえなら自分でするか? 一度出しとかないとキツいだろ、これじゃ……」
「ふっ、う──あぁっ。や、だ……触ったら、やだっ……あぁっ」
「いい声で鳴くなぁ、お前」
 手のひらで捏ねる動きが、今は前後に擦る動きに変わっている。先走りの体液が彰久の服に飛び散るのを見てますます恥ずかしくなり、俺は涙を零しながら彰久に懇願した。
「あ、彰久──」
 俺の口から出たそれは、自分でも耳を疑うような「懇願」だった。
「も、もうイかせ、て……彰久、イかせ……」
 それを聞いた彰久の口元が卑猥な形に歪む。俺は肩を上下させて荒い呼吸を続けながら、彰久の手が俺のジーンズのベルトとボタンを外してゆくのを見つめていた。
「なんだ、随分早いと思ったら……さっきからずっと我慢してたのか?」
 腰周りが緩くなったジーンズと中の下着とを同時に下ろされ、彰久の上に膝立ちになったまま尻が露出する。彰久が俺の背中から尻までをゆっくりとした手付きで撫でながら、俺の耳に唇を寄せて囁いた。
「躾けのなってねえワンコだな。自分がイくことしか考えてねえのか、伊吹くんは」
「う、……や、違っ……」
 頬だけでなく、頭の中までがカッと熱くなる。恥ずかしくて逃げ出したいのに、身体が言うことを聞いてくれない。
「否定することねえよ、これから俺が死ぬほど躾けてやる。……伊吹がどこで感じるか、まだ開発されてねえトコがあるか、時間かけてじっくり調べねえとな」
「あ、……あ……」
 彰久の囁きが鼓膜から全身を這いずり回り、どうしようもないほど俺を掻き立てる。直接声を注がれる耳とこめかみの辺りがゾクゾクして、腰が疼いて堪らない。
 その間にも彰久の手が俺の腰や尻に触れ、更なる欲情を湧き上がらせていく。
「舌出せ、伊吹。犬みてえに舐めろ」
 後頭部に彰久の手が添えられ、引き寄せられる。俺は半ば自棄になって目を閉じ、唇の隙間から差し込まれた彰久の舌を受け入れた。
「ん、……ん」
 互いの唇の間で絡み合う舌が熱い。その熱はあっという間に俺の体内へと拡散し、煮え滾り、出口を求めて身体中を駆け巡る。
 俺は彰久の首に両腕を回し、夢中で舌を絡ませた。彰久も俺の後頭部を支えながら、俺の口腔内を荒々しくかき回している。蕩けてしまいそうな彰久のキスは、昨夜和真からされたものとは全く違う意味での激しさを持っていた。
「んあ、……あ」
 熱く濡れた舌はそのまま、彰久の右手が俺の剥き出しのそれに触れた。先端をくすぐるように捏ねられ、思わず媚びた声を漏らしてしまう。
「ん、駄目、……そこ、触るなっ……」
「なんで? こんなに感じてんのに」
「ふあっ、あ……! 捏ねるなって……」
 触れているのは指先で、触れられているのは先端だ。そんな僅かな接触であるはずなのに、その一点から身体中に電流が行き渡って止まらない。俺は自身の性欲の強さに呆れると同時に、人間の身体の不思議にある種の感動を覚えた。
「気持ち良くて堪んねえって顔だぞ」
「ん。うん……結構、ヤバい……」
「もっといいことしてやろうか」
「う、ん……」
 彰久が俺の腰を支え、上に持ち上げた。促されるまま彰久の上を降りてソファに座り、両脚を大きく開かされる。彰久が俺の前に膝を付き、自身の唇を舌で濡らし、そのまま……ゆっくりと、顔を落としてくる。
「あっ、あぁっ!」
 触れられて敏感になっていた部分に彰久の舌が触れ、そのまま一気に根元まで咥え込まれた。指で弄られていた時とは比べ物にならない、強烈な快感だった。
「あっ、──ん、や、ぁっ彰久っ……!」
 彰久の舌と唾液とが俺のそれに激しく絡み付き、啜り上げ、嬲っている。腰が抜けてしまいそうなほど気持ち良い。俺は大股を開いたままぐったりとソファに身を投げ出し、腰だけを不規則に痙攣させながら、潤んだ視界に映る彰久の顔を見つめていた。
 こんなに整った顔の男が、何の変哲もない俺なんかを抱こうと思うものなんだろうか。女が好きになる男と、男が好きになる男はタイプが違うと聞いたことがあるが、それを差し引いても彰久が俺に対して性的欲求を感じるなんて信じられなかった。
 単なる暇潰しだろうか。それとも、タダでヤれるなら相手を選ばない男なのだろうか。
「うっ、あぁっ……あ、……! 気持ち、いっ……そこ、ヤバ……ぃ」
 それなら、それで構わない。俺だって相手を選べるような立場じゃないし、和真から受けた傷を一時的にでも和らげられるならこの際誰でもいい。彰久が今日初めて会った男でも、素性の知れない男でも、初めから俺をこうするつもりで近付いて来たのだとしても、構わない。
「あ、彰久っ……それ以上……は、ぁっ……」
 彰久の口の中で、咥えられたそれが何度も舌で撫でられる。取り分け俺の弱い先端部分を執拗に攻められ、今にも達してしまいそうなほど内股が痙攣していた。
「イきそ……もう、無理っ……!」
 かぶりを振って彰久の頭を押し退けると、意外にもあっさりと彰久が俺を解放した。
「あ……」
 絶頂寸前で愛撫を止められた俺のそれが、室内の明かりに照らされている。唾液と体液とで濡れ光っているそれは、あともうほんの少しの刺激で果ててしまいそうだ。少なからずがっかりしながら、俺はそそくさと両膝を合わせた。
「………」
「わっ、……」
 閉じた膝に彰久の手が触れ、再び大きく開かされる。同時に腰をグッと持ち上げられ、殆ど背中で身体を支える恰好となった。
「挿れるぜ、伊吹」
「……う、ん」
 器用に片手でベルトを外した彰久が、取り出した自身を軽く扱きながら俺の入口にあてがった。同時にいつ用意したのか、それ用のローションボトルの蓋を開け、密着した部分に傾ける。
「そんなのまで準備してたのかよ……」
「紳士だからな、俺は」
 ぬるついた液体が独特の卑猥な音をたてる。押し広げられる感触が、じわじわと痛みに変わる。それは、どこか懐かしい痛みだった。
「あ……」
 侵入してきた彰久が、俺の中を優しく擦っている。気遣いも何もない和真とは全く違うやり方だ。彰久はこちらが焦れったくなるほど緩やかな動きで、だけど確実に俺の中へと入ってきている。何だか酷く安心できて、俺は肩の力を抜き、全てを彰久に委ねることにした。
「痛てえか」
「へいき……」
 彰久が口元だけで笑い、更に俺の中へと入ってきた。淡い痛みは、もはや俺の中で心地好い刺激に変わっている。俺は大きく開いた口から荒い息を吐き出し、うっとりとした目で彰久の鋭い瞳を見つめた。
「思ったより狭いな。前の男とはそこまでしてねえのか」
「そ、んなことは……ないけど」
「じゃあ、ただそいつに問題があっただけか」
 和真のことを馬鹿にされるのは少し癪だが、それは彰久が「和真以上の男であること」を豪語しているということでもある。
 和真以外の男と経験がない俺は、セックスにおける技術の良し悪しというものが分からない。彰久は、俺を未知なる世界へ連れて行ってくれるのだろうか? それを思うと、正直少し楽しみでもあった。
「んぁっ、……痛ってぇ……」
 開いた脚の間に体重をかけられて、彰久が奥まで入ってきた。形容し難い独特の異物感。息苦しいのに、痛いのに、……嫌じゃない。
「俺とお前とじゃ、身体のサイズがどこも違うからな。痛いのは仕方ねえけど一瞬だ、もう慣れただろ」
「あっ、……! あ、あっ、……」
 喉奥から溢れ出てくる声は、彰久の腰の動きとリンクしている。奥を突かれるたび、手前に引き抜かれるたび、俺は吐息混じりの喘ぎ声を弾けさせながら悦びに身を震わせた。
 心地好い充実感。身体の奥底から湧き上がってくる安堵。そして脳まで突き抜けて行くような快感。俺はもはや和真と彰久を比べることも忘れ、ただひたすらに彰久とのセックスに没頭した。
「彰久っ、ぁ……彰久っ! あっ、あ……気持ち、いっ……!」
「いい顔してるぜ、伊吹……。涎垂らしたそのエロい顔、気に入った」
「彰久──あっ、もっと、ゆ、っくり……」
「……お前の男は、随分と勿体ねえことをしたんだな」
 その言葉に、俺は頭の芯が痺れるほどの悦びを覚えた。嘘でも嬉しかった。背筋がゾクゾクして震えが止まらず、屹立したまま揺れているそれが更に熱を持って硬くなる。
「彰久っ……、イかしてっ……」
「まだ挿れたばかりじゃねえか」
「だ、だって俺……さっきからずっと……!」
「仕方ねえ奴だな。それじゃ鳴いて懇願してみせろ、伊吹」
「ああっ、あ……! そ、んな……早くすんな、って……!」
 もしかしたら俺はずっと、待っていたのかもしれない。
 全てを任せてしまえる相手を。俺の全てを奪い尽くし、新たに全てを与え直してくれる男を。
「も、いいからっ……さっさとイかせろってば……!」
「それじゃただ吠えてるだけだ。可愛く鳴いて強請ねだれよ、伊吹くん」
 ずっとずっと、待っていたのかもしれない──。
「彰久、……お願い、イかせて……。じんじんするっ……我慢、できないっ、……」
「っ、……」
 彰久が俺のそれを握り、上下に激しく擦り始める。前と中を同時に愛撫され、俺は気が狂いそうになるほど喘ぎ乱れながら、彰久の整った顔を熱っぽく見つめた。
「やっ、あ……あぁっ! あ、イくっ……! もう、む、り……!」
 身体中の痺れが一点に集中し、じわじわとせり上がってくる。俺は彰久の腰に両脚を、彰久の首に両腕を巻き付かせ、扱かれているその部分が痙攣するのを感じながら一気に白濁した欲望を放出させた。
「ああぁっ、あ……! あ──」
 彰久が全身で俺に寄りかかり、耳元に荒い息を吐く。中でそれが痙攣していることから、彰久も達したのだと分かった。俺達は繋がったまましばらくの間抱き合い、射精直後の心地好い虚脱感に浸った。
「はぁ、あ……」
 やがて彰久が俺の中から自身のそれを抜き、無言で濡れた部分を拭い始めた。見れば、俺が放った体液が彰久のシャツにべったりと付着している。何か言おうと思ったが言葉が出ず、俺はソファに伏せて彰久の横顔をぼんやりと見つめた。
 こうして見ていても、いい男だと思う。今まで誰とも付き合ったことがないなんて、とてもじゃないが信じられなかった。
「大丈夫か?」
 彰久が呆けた俺を見て笑う。
「た、立てない……腰、砕けてて……」
「情けねえな。着替えてくるから待ってろよ」
「分かった……。色々迷惑かけて、ごめん……」
 訳の分からない謝罪を口にすると、彰久が更に笑って立ち上がった。脱いだジーンズを床に放り、新しい下着を穿いて、汗に濡れた黒髪をタオルで拭いている。その動きを目で追っているうちに意識が蕩け出し、俺はソファに横たわったままゆっくりと目蓋を閉じた。
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