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第9話 ビフォア・バースデイ
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「………」
初めは、何が出てきたのか分からなかった。
「はぁ、……はぁ……」
それは丸くて、優しい薄水色で、まるで宝石のように美しい……
「お、おれの、赤ちゃん……」
声も発さず表情も分からない、だけど愛しくて堪らない──俺とヘルムートの遺伝子が詰まった、丈夫で大きなタマゴだった。
厚い殻に覆われた中身の赤ん坊がどんな生き物なのかは分からない。だけどタマゴの中心部が仄かに発光しているせいで、何やら小さな物がうごめくシルエットだけは透けて見える。
「うわぁ……ボク、産まれたてのタマゴって初めて……」
ぬるま湯に浸したタオルでタマゴの表面を拭くナハトの頭を撫で、俺は鼻水をすすりながら礼を言った。
「あ、ありがとうな……。ナハト、お前がいてくれて本当に良かった……」
「千代晴ちん、あと一秒で顔面崩壊って感じだよ。パパなんだからしっかりしなさいな」
「お、おう……そうだな。俺がしっかりしねえと……」
「ヘルちゃん、お疲れ様。お水飲む? 食べたい物は?」
ベッドの上で大きな溜息をついたヘルムートが、「お水飲みます」と上体を起こした。
「お、おいおい。そんなすぐ起き上がって平気なのか。もう少し寝てろ」
「大丈夫です、タマゴ出してすっきりしました」
とはいえまだ動き回るほどの体力はないらしく、ヘルムートにできたのは体を起こしたところまでだった。
「物も食えるのか? 食欲は?」
「お腹ペコペコです!」
「待ってろ、今日はチョコマーブルのチーズスフレを買ってきたんだ。ナハトの分もあるからな、お祝いしよう」
寝室を出て冷蔵庫から出した箱を手に、再びベッドへと戻る。もう電気を点けて良いと言うので部屋を明るくし、ケーキの箱をナハトに渡した俺は受け取ったタマゴをそっと両手で包み込んだ。
「抱くには小さすぎるし、片手で持つには大きすぎるな。この中に赤ん坊が……」
「産卵から孵化までもう一段階あるから、まだまだ油断できないね。でも大丈夫! 千代晴ちんがお仕事の時は、ボクが付きっきりでタマゴのお世話をするよ!」
「何と言っていいか……ナハト、本当にありがとう。だいたいどのくらいで孵化するか分かるのか?」
「予想してたより大きいから、少し時間かかるかもね。中の赤ちゃんがどんな形か分かれば、もう少し明確に孵化するまでの日数が分かるんだけど……」
どちらにしろ無事に産まれてくれて良かった。これだけ頑丈で硬い殻に守られていれば、きっと中の赤ん坊も丈夫な子が入っているだろう。
「ヘル、お前と俺の子だ。孵化するまで頑張ろうな」
「へへ……。早く会いたいです。タマゴなら中の赤ちゃんどんな姿してるか、少しは分かると思いましたが……全然分からないですね……」
中が光っているお陰で子供がもぞもぞと動いているのは分かるが、形がはっきりしていないから今の段階で予想するなら何だかアメーバのようだ。
「とにかくおめでとう、ヘルちゃん。そして千代晴パパ! 瑠偉くんもいられたら良かったのに、残念だなぁ」
「瑠偉にはまだ宇宙人だと言ってないからな。タマゴを産んだ場面を見せても混乱させちまうだけだ」
確かに、とナハトがケーキのフォークを咥えて笑った。
「は、ふ……とても疲れましたから、ケーキとっても甘くて美味しいです……」
「ヘルムート。もしこれからも毎日ケーキ食いたかったら……俺、ケーキ作れるように勉強するからさ。素人から始めてどのくらいの腕前になるか分からねえけど、お前のために毎日ケーキ焼いてやる」
「千代晴がケーキ作ってくれたら、おれ、毎日しあわせです!」
「良いパパになれるね、千代晴ちん」
ナハトの言葉に照れて頭をかくと、ヘルムートが「おれも良いパパになります」と拳を握った。
まだ不思議な気分だ──どんな形の子供であれ、俺が父親になったなど。
初めは、何が出てきたのか分からなかった。
「はぁ、……はぁ……」
それは丸くて、優しい薄水色で、まるで宝石のように美しい……
「お、おれの、赤ちゃん……」
声も発さず表情も分からない、だけど愛しくて堪らない──俺とヘルムートの遺伝子が詰まった、丈夫で大きなタマゴだった。
厚い殻に覆われた中身の赤ん坊がどんな生き物なのかは分からない。だけどタマゴの中心部が仄かに発光しているせいで、何やら小さな物がうごめくシルエットだけは透けて見える。
「うわぁ……ボク、産まれたてのタマゴって初めて……」
ぬるま湯に浸したタオルでタマゴの表面を拭くナハトの頭を撫で、俺は鼻水をすすりながら礼を言った。
「あ、ありがとうな……。ナハト、お前がいてくれて本当に良かった……」
「千代晴ちん、あと一秒で顔面崩壊って感じだよ。パパなんだからしっかりしなさいな」
「お、おう……そうだな。俺がしっかりしねえと……」
「ヘルちゃん、お疲れ様。お水飲む? 食べたい物は?」
ベッドの上で大きな溜息をついたヘルムートが、「お水飲みます」と上体を起こした。
「お、おいおい。そんなすぐ起き上がって平気なのか。もう少し寝てろ」
「大丈夫です、タマゴ出してすっきりしました」
とはいえまだ動き回るほどの体力はないらしく、ヘルムートにできたのは体を起こしたところまでだった。
「物も食えるのか? 食欲は?」
「お腹ペコペコです!」
「待ってろ、今日はチョコマーブルのチーズスフレを買ってきたんだ。ナハトの分もあるからな、お祝いしよう」
寝室を出て冷蔵庫から出した箱を手に、再びベッドへと戻る。もう電気を点けて良いと言うので部屋を明るくし、ケーキの箱をナハトに渡した俺は受け取ったタマゴをそっと両手で包み込んだ。
「抱くには小さすぎるし、片手で持つには大きすぎるな。この中に赤ん坊が……」
「産卵から孵化までもう一段階あるから、まだまだ油断できないね。でも大丈夫! 千代晴ちんがお仕事の時は、ボクが付きっきりでタマゴのお世話をするよ!」
「何と言っていいか……ナハト、本当にありがとう。だいたいどのくらいで孵化するか分かるのか?」
「予想してたより大きいから、少し時間かかるかもね。中の赤ちゃんがどんな形か分かれば、もう少し明確に孵化するまでの日数が分かるんだけど……」
どちらにしろ無事に産まれてくれて良かった。これだけ頑丈で硬い殻に守られていれば、きっと中の赤ん坊も丈夫な子が入っているだろう。
「ヘル、お前と俺の子だ。孵化するまで頑張ろうな」
「へへ……。早く会いたいです。タマゴなら中の赤ちゃんどんな姿してるか、少しは分かると思いましたが……全然分からないですね……」
中が光っているお陰で子供がもぞもぞと動いているのは分かるが、形がはっきりしていないから今の段階で予想するなら何だかアメーバのようだ。
「とにかくおめでとう、ヘルちゃん。そして千代晴パパ! 瑠偉くんもいられたら良かったのに、残念だなぁ」
「瑠偉にはまだ宇宙人だと言ってないからな。タマゴを産んだ場面を見せても混乱させちまうだけだ」
確かに、とナハトがケーキのフォークを咥えて笑った。
「は、ふ……とても疲れましたから、ケーキとっても甘くて美味しいです……」
「ヘルムート。もしこれからも毎日ケーキ食いたかったら……俺、ケーキ作れるように勉強するからさ。素人から始めてどのくらいの腕前になるか分からねえけど、お前のために毎日ケーキ焼いてやる」
「千代晴がケーキ作ってくれたら、おれ、毎日しあわせです!」
「良いパパになれるね、千代晴ちん」
ナハトの言葉に照れて頭をかくと、ヘルムートが「おれも良いパパになります」と拳を握った。
まだ不思議な気分だ──どんな形の子供であれ、俺が父親になったなど。
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