上 下
53 / 74
第8話 夏の思い出、作ります!

2

しおりを挟む
 そうして、午後八時。
 月と星が輝く、美しい夜空の下──

「うわああぁ! 広いお風呂です!」
「にゃはは、これがプールっていうんだよ。水だから泳いだら気持ちいいよ~」
 別荘庭の馬鹿デカい円形プールは、ライトアップされてきらきらと輝いている。

「お、泳いでもいいですか? 入ってもいいですか?」
「いいよ~!」
「うわあぁぁ!」
 水着を穿いたヘルムートがプールサイドから思い切りジャンプし、頭からざぶんとダイブする。水飛沫がライトに光り、たちまちプールの底へ沈んだヘルムートの姿が見えなくなった。

「喜んでもらえて良かった~。クラゲちゃん、たまには水に入らないとね」
 ナハトが頭の後ろで手を組み笑う横で、真剣な顔の瑠偉が足のつま先を伸ばしチョンチョンと水面に触れている。
「ほ、本当に入っても大丈夫ですか? 夜のプールって、何だかモンスターが潜んでそうで怖いというか……」
「想像するならモンスターよりも、サメとかの方が怖いけどなぁ」

 夕飯を兼ねた水遊びだ。プールサイドのテーブルにはジャンクフードを中心としたホットスナックやドリンクがずらりと並んでいる。
 俺はホットドックに思い切りかぶり付いて、満天の星空を仰いだ──最高の夜だ。

「あの……全然上がって来ませんけど、ヘルムート君は大丈夫でしょうか?」
 しばらくして瑠偉が不安そうに膝を付き、プールの中を覗き込んだ。言われてみればかれこれ三分は潜ったままだ。
「確かにね。ちょっと様子見てみようか~」
「ぼ、僕も入ります!」

 ナハトに借りた水中メガネを装着し、各々プールの中へと飛び込む。プール内の明かりを頼りにヘルムートを探すと、俺の真横を何かが猛スピードで通り過ぎて行った。
「っ……!」
 慌てて目で追いかける。水中メガネも無しにプールの中を泳ぎ回るヘルムートは本当に嬉しそうに笑っていた。

 まるで空を飛ぶように、自由自在にプールの底を泳いでいるヘルムート。再び俺の横を通り過ぎ、瑠偉の股下をくぐり、ナハトの頭にタッチして更に勢いを加速させる──そうしてライトアップされた気泡の中を上昇して行くヘルムートが、水面から勢いよく飛び上がった。

「───」

 月光に輝く白い体。濡れた金色の髪に水色のメッシュ。イルカのように頭から飛び出し、そのまま背中を反らして再び頭からプールの中へと消えて行く。水飛沫。揺れる水面。夜空に夏の星座。

 俺はその瞬間、息をするのも忘れてヘルムートに見入っていた。

「──ぷはっ。プール気持ちいいです!」
「すっごいです! ヘルムート君、水泳選手になれるんじゃないですかっ?」
「へへ、おれ小さい頃はずっと海で暮らしてましたから……」
「なるほど、母なる海は偉大だね~……」
 ナハトと瑠偉に挟まれたヘルムートが俺の視線に気付き、にっこりと笑う。

「………」
 無視できない胸の高鳴りに動揺しながら、俺もヘルムートに微笑み返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに撫でられたい~イケメンDomと初めてのPLAY~

金色葵
BL
創作BL Dom/Subユニバース 自分がSubなことを受けれられない受け入れたくない受けが、イケメンDomに出会い甘やかされてメロメロになる話 短編 約13,000字予定 人物設定が「好きになったイケメンは、とてつもなくハイスペックでとんでもなくドジっ子でした」と同じですが、全く違う時間軸なのでこちらだけで読めます。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...