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第5話 となりのナハトくん
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「はあ、すっきりした! ありがとう千代晴ちん」
「てめぇ、ちゃんと手洗っただろうな」
「当たり前でしょ! 洗ってなかったら千代晴ちんに間接フェラさせちゃうよ」
さてと、とナハトがリビングに入って行き、ソファに腰を下ろす。
「おい、鍵がないってどうすんだ。ここに泊まる気か?」
「だってボク繊細だから野宿とかできないタイプだし、明日になれば鍵返してもらえるからさ。一晩お喋りくらいしてくれてもいいでしょ?」
言いながらナハトがソファの上でゴロ寝スタイルになり、「あーかいぃ」とパーカに手を入れて腹をかいた。
「だからってここに居座られても困るんだけど。ネカフェ行くとかすればいいだろ」
「イヤーン、面倒くさ~い!」
ヘルムートが不安げな顔で、小さくカットしたハンバーグを口に入れる。
「千代晴ちんてば、ボクがいたら恋人とイチャつけないから怒ってんの?」
「そんなんじゃねえよ。常識的に考えて……」
「常識なんてどうでもいいじゃん。困ってるかよわい男の子を一晩泊めれば、千代晴ちんの優しさポイントも上がるよ」
いちいち腹の立つ言い方をするナハトに、俺はあぐらをかいた膝を小刻みに指で叩きながら口を尖らせた。
「仕方ねえから泊めてやるけど、お前、変なヤクとかやってねえだろうな」
「千代晴」
「ん」
ヘルムートが俺の腕に触れ、ナハトに視線を向けながら呟く。
「このひと、地球人じゃないです。おれと同じ宇宙人です」
「はぁっ?」
「ナハト、聞いたことある名前だと思いました。色んな星で暮らしながら仕事してる便利屋さんです」
「便利屋……」
視線をナハトに向けると、「にゃは」というふざけた笑い声が返ってきた。
「さすがクーヘンの第三王子だね! その通りボクは宇宙の便利屋さん、ナハトだよ。依頼を受ければ船の修理から復讐代行まで何でもやるよ!」
宇宙人の便利屋。コイツが、ヘルムートと同じ宇宙人……。
「ボクはもうだいぶ前から地球で暮らしてるんだ。普通に地球人としての仕事もあるし、地球人の友達もいっぱいいるし。ていうか別にボクが珍しい訳じゃなくて、今の地球はボクみたいな異星人がいっぱい住んでるよ。地球の皆様が気付いてないってだけ」
「……便利屋が俺達に何の用だ」
「よくぞ聞いてくれたね! ボクの依頼人からのサプライズ、サプライズ!」
依頼人?
まさか、ヘルムートに結婚を申し込んでいるとかいう奴か。
ナハトがポケットから透明の四角い箱を取り出した。手のひらサイズのそれは大きめのダイスのようで、クリスタル特有の美しい輝きを放っている。
「あ、ビジョンですかっ?」
それを見たヘルムートが声をあげて身を乗り出した。
「ビジョン?」
「遠くのひとと顔見てお喋りできるクリスタルです! 映像付きで伝言残したりもできます!」
「ビデオ通話みたいなものか」
「その通り。クーヘンより愛を込めて、今回ボクに依頼してきたのは、……」
ナハトの手のひらで「ビジョン」が柔らかく発光する。それと同時に光の集合体が空中にスクリーンを創り出し、俺とヘルムートの前に綺麗な海の中の映像が広がった。
「クーヘンの海です……!」
綺麗な青緑色の透き通った海。炭酸水のような気泡があちこちに上り、魚や海藻がのんびりと優雅に踊っている。
これが、ヘルムートの星。プラネット・クーヘンのソーダの海……。
そんな美しい海の中、遠くの方から何かの影がこちらに近付いてきた。その巨体をゆったりとしならせて泳いでいる──不思議な水色をした、一頭のシロナガスクジラだ。
「お、……お……」
「デカいクジラだなぁ。クジラもこんな海で泳げたら気持ちいいだろうな」
「お父さんっ……!」
「ええぇ──ッ!」
「てめぇ、ちゃんと手洗っただろうな」
「当たり前でしょ! 洗ってなかったら千代晴ちんに間接フェラさせちゃうよ」
さてと、とナハトがリビングに入って行き、ソファに腰を下ろす。
「おい、鍵がないってどうすんだ。ここに泊まる気か?」
「だってボク繊細だから野宿とかできないタイプだし、明日になれば鍵返してもらえるからさ。一晩お喋りくらいしてくれてもいいでしょ?」
言いながらナハトがソファの上でゴロ寝スタイルになり、「あーかいぃ」とパーカに手を入れて腹をかいた。
「だからってここに居座られても困るんだけど。ネカフェ行くとかすればいいだろ」
「イヤーン、面倒くさ~い!」
ヘルムートが不安げな顔で、小さくカットしたハンバーグを口に入れる。
「千代晴ちんてば、ボクがいたら恋人とイチャつけないから怒ってんの?」
「そんなんじゃねえよ。常識的に考えて……」
「常識なんてどうでもいいじゃん。困ってるかよわい男の子を一晩泊めれば、千代晴ちんの優しさポイントも上がるよ」
いちいち腹の立つ言い方をするナハトに、俺はあぐらをかいた膝を小刻みに指で叩きながら口を尖らせた。
「仕方ねえから泊めてやるけど、お前、変なヤクとかやってねえだろうな」
「千代晴」
「ん」
ヘルムートが俺の腕に触れ、ナハトに視線を向けながら呟く。
「このひと、地球人じゃないです。おれと同じ宇宙人です」
「はぁっ?」
「ナハト、聞いたことある名前だと思いました。色んな星で暮らしながら仕事してる便利屋さんです」
「便利屋……」
視線をナハトに向けると、「にゃは」というふざけた笑い声が返ってきた。
「さすがクーヘンの第三王子だね! その通りボクは宇宙の便利屋さん、ナハトだよ。依頼を受ければ船の修理から復讐代行まで何でもやるよ!」
宇宙人の便利屋。コイツが、ヘルムートと同じ宇宙人……。
「ボクはもうだいぶ前から地球で暮らしてるんだ。普通に地球人としての仕事もあるし、地球人の友達もいっぱいいるし。ていうか別にボクが珍しい訳じゃなくて、今の地球はボクみたいな異星人がいっぱい住んでるよ。地球の皆様が気付いてないってだけ」
「……便利屋が俺達に何の用だ」
「よくぞ聞いてくれたね! ボクの依頼人からのサプライズ、サプライズ!」
依頼人?
まさか、ヘルムートに結婚を申し込んでいるとかいう奴か。
ナハトがポケットから透明の四角い箱を取り出した。手のひらサイズのそれは大きめのダイスのようで、クリスタル特有の美しい輝きを放っている。
「あ、ビジョンですかっ?」
それを見たヘルムートが声をあげて身を乗り出した。
「ビジョン?」
「遠くのひとと顔見てお喋りできるクリスタルです! 映像付きで伝言残したりもできます!」
「ビデオ通話みたいなものか」
「その通り。クーヘンより愛を込めて、今回ボクに依頼してきたのは、……」
ナハトの手のひらで「ビジョン」が柔らかく発光する。それと同時に光の集合体が空中にスクリーンを創り出し、俺とヘルムートの前に綺麗な海の中の映像が広がった。
「クーヘンの海です……!」
綺麗な青緑色の透き通った海。炭酸水のような気泡があちこちに上り、魚や海藻がのんびりと優雅に踊っている。
これが、ヘルムートの星。プラネット・クーヘンのソーダの海……。
そんな美しい海の中、遠くの方から何かの影がこちらに近付いてきた。その巨体をゆったりとしならせて泳いでいる──不思議な水色をした、一頭のシロナガスクジラだ。
「お、……お……」
「デカいクジラだなぁ。クジラもこんな海で泳げたら気持ちいいだろうな」
「お父さんっ……!」
「ええぇ──ッ!」
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