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第2話 お仕事をします!
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それから二時間ほど経ち、暇だったこともあり問題なく休憩時間を迎えることができた。
「衛さん。飯食ってきますんで、店の方頼みますよ」
「ああ、任せろ。ゆっくりして来い、ヘルムートと仲良くな」
キッチンの扉を閉めようとしたその時、衛さんが「あっ」と声をあげた。
「どうしたんですか?」
「ヘルムートに廃棄前のケーキを一つ持たせてやってくれ。捨てるよりは食ってもらった方がありがたい」
「すいません、了解です」
廃棄前のケーキは店内の業務用冷蔵庫の中だ。完全な廃棄とまではいかないが、店頭には出せないもの。スタッフが休憩中に食べたり、身内などの知り合いに格安で譲ったりしている。
「ヘルムート、衛さんがケーキくれるってさ。好きなの選んで持ってっていいぞ」
「ほ、本当ですかっ?」
「ああ。この冷蔵庫の中に入ってるやつな。一応言っておくが、下の段にあるデカいホールケーキは駄目だ。これは廃棄予備軍じゃなくて特注品のケーキだからな」
「分かりました。上の段の小さいケーキ、一つ選びます。運ぶのにケーキの箱、一つもらっていいですか?」
「ああ。先に外で待ってるから早く来い」
スカーフタイを外してコックコートを脱ぎ、エプロンを外す。それをスタッフルームのハンガーにかけておき、スマホを開きながら外へ出る。
今日も相変わらずの暑さだ。冷たい蕎麦でも食べたいが、蕎麦屋にケーキは持ち込めない。持ち込み可能な店といったら、……結局昨日行ったファミレスだ。
「お待たせです、千代晴!」
「ん。それじゃ行くか。昨日のファミレスでいいか?」
「今日もソーセージ食べます!」
道中、何のケーキを選んだのかと訊けば、ヘルムートが満面の笑顔で「小さい方の、丸いのです!」と返してきた。よほどミニホールのショートケーキが気に入っているらしい。
が──
「へ、ヘルムート……。お前、それ……」
「わ。HappyBirthdayのケーキです。イチゴの代わりに、可愛いお人形乗ってました!」
ファミレスに入り、席について早速箱から取り出した──その小さくて丸いショートケーキ。
「ちょ、待て待てヘルムート」
「いただきます!」
「待てってば!」
それは店頭に出しているミニホールショートではない。特別に注文を受けた、イチゴ嫌いな子供のために白桃とオレンジを使ったミニホールショートケーキだ。
小さいから見間違えたりうっかり潰したりしないよう、冷蔵庫の上の段の端っこにぽつんと置いておいたんだった。──まさかよりによって、それを選んでくるなんて。
「待てって言っただ──ああぁぁッ!」
グサ。
フォークが刺さった瞬間、俺はこの世の終わりの音を聞いた気がした。
「衛さん。飯食ってきますんで、店の方頼みますよ」
「ああ、任せろ。ゆっくりして来い、ヘルムートと仲良くな」
キッチンの扉を閉めようとしたその時、衛さんが「あっ」と声をあげた。
「どうしたんですか?」
「ヘルムートに廃棄前のケーキを一つ持たせてやってくれ。捨てるよりは食ってもらった方がありがたい」
「すいません、了解です」
廃棄前のケーキは店内の業務用冷蔵庫の中だ。完全な廃棄とまではいかないが、店頭には出せないもの。スタッフが休憩中に食べたり、身内などの知り合いに格安で譲ったりしている。
「ヘルムート、衛さんがケーキくれるってさ。好きなの選んで持ってっていいぞ」
「ほ、本当ですかっ?」
「ああ。この冷蔵庫の中に入ってるやつな。一応言っておくが、下の段にあるデカいホールケーキは駄目だ。これは廃棄予備軍じゃなくて特注品のケーキだからな」
「分かりました。上の段の小さいケーキ、一つ選びます。運ぶのにケーキの箱、一つもらっていいですか?」
「ああ。先に外で待ってるから早く来い」
スカーフタイを外してコックコートを脱ぎ、エプロンを外す。それをスタッフルームのハンガーにかけておき、スマホを開きながら外へ出る。
今日も相変わらずの暑さだ。冷たい蕎麦でも食べたいが、蕎麦屋にケーキは持ち込めない。持ち込み可能な店といったら、……結局昨日行ったファミレスだ。
「お待たせです、千代晴!」
「ん。それじゃ行くか。昨日のファミレスでいいか?」
「今日もソーセージ食べます!」
道中、何のケーキを選んだのかと訊けば、ヘルムートが満面の笑顔で「小さい方の、丸いのです!」と返してきた。よほどミニホールのショートケーキが気に入っているらしい。
が──
「へ、ヘルムート……。お前、それ……」
「わ。HappyBirthdayのケーキです。イチゴの代わりに、可愛いお人形乗ってました!」
ファミレスに入り、席について早速箱から取り出した──その小さくて丸いショートケーキ。
「ちょ、待て待てヘルムート」
「いただきます!」
「待てってば!」
それは店頭に出しているミニホールショートではない。特別に注文を受けた、イチゴ嫌いな子供のために白桃とオレンジを使ったミニホールショートケーキだ。
小さいから見間違えたりうっかり潰したりしないよう、冷蔵庫の上の段の端っこにぽつんと置いておいたんだった。──まさかよりによって、それを選んでくるなんて。
「待てって言っただ──ああぁぁッ!」
グサ。
フォークが刺さった瞬間、俺はこの世の終わりの音を聞いた気がした。
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