7 / 74
題1話 宇宙人の王子様
7
しおりを挟む
キッチンから出てきた衛さんが、清潔なタオルで手を拭きながら俺とヘルムートの顔を交互に見る。
「交番に行ったんじゃなかったのか?」
「衛さん、えっとあの、実は──」
「衛さん! おれ、ヘルムートといいます! 千代晴のおうちでお世話なってます。衛さんのケーキ屋さん、お手伝いしに来ました!」
「はぁ……?」
呆然とする衛さんに今度こそ事情を説明しながら、俺は自分でも「ぶっとんだ話だ」と思わず笑いそうになってしまった。宇宙人の王子様が政略結婚から逃げてきて、懐かれました──なんて、今どき小・中学生でもこんな酷い妄想はしないだろう。
だけど全て本当の話だ。疑うよりも嘲笑いながら、それでも認めるしかない事実だ。
「うーん……。にわかには信じ難い話だが……」
案の定、衛さんも苦笑いしている。
「連れて来るのはどうかと思ったんですけど、家に残しておくのも不安だし、どうしたモンかなと思って」
「ヘルムート君……」
「はいっ!」
大きな青い目がばっちり見開かれ、衛さんをじっと見つめている。
「………」
衛さんはパティシエという肩書きがなければただの女好きのおじさんだが、ヘルムートの愛らしさとこの大きな目には何か惹かれるものがあるようだ。視線を合わせたまま、年甲斐もなく頬を染めている。
「衛さん。おれ、衛さんのイチゴの丸いケーキ食べました。すごく甘くて、しあわせで、ふわふわな気持ちなりました……。プラネット・クーヘンに衛さん来たら、きっと星中のお姉さん達、衛さんのこと大好きになります」
「な、何だって。そんなにか?」
「はい。クーヘンの人達、おれも……みんな甘いの、特にケーキやお菓子大好きです。ケーキ作れる人、とても大事にされます。衛さんカッコいい。お姉さん達みんな、衛さんのこと夢中になります」
カッカッと顔中から湯気をたたせている衛さん。何やら頭の中では良からぬ妄想を広げているらしい。ヘルムート、意外にヤリ手だコイツ。
「……よし、ヘルムート。大した給料は払ってやれないが、なるべく君の地球での生活を援助しよう。千代晴のことを頼んだぞ、コイツはきっと良い旦那になる」
「はい! ありがとうございます、衛さん!」
「……単純なおじさんだな……」
つづく!
「交番に行ったんじゃなかったのか?」
「衛さん、えっとあの、実は──」
「衛さん! おれ、ヘルムートといいます! 千代晴のおうちでお世話なってます。衛さんのケーキ屋さん、お手伝いしに来ました!」
「はぁ……?」
呆然とする衛さんに今度こそ事情を説明しながら、俺は自分でも「ぶっとんだ話だ」と思わず笑いそうになってしまった。宇宙人の王子様が政略結婚から逃げてきて、懐かれました──なんて、今どき小・中学生でもこんな酷い妄想はしないだろう。
だけど全て本当の話だ。疑うよりも嘲笑いながら、それでも認めるしかない事実だ。
「うーん……。にわかには信じ難い話だが……」
案の定、衛さんも苦笑いしている。
「連れて来るのはどうかと思ったんですけど、家に残しておくのも不安だし、どうしたモンかなと思って」
「ヘルムート君……」
「はいっ!」
大きな青い目がばっちり見開かれ、衛さんをじっと見つめている。
「………」
衛さんはパティシエという肩書きがなければただの女好きのおじさんだが、ヘルムートの愛らしさとこの大きな目には何か惹かれるものがあるようだ。視線を合わせたまま、年甲斐もなく頬を染めている。
「衛さん。おれ、衛さんのイチゴの丸いケーキ食べました。すごく甘くて、しあわせで、ふわふわな気持ちなりました……。プラネット・クーヘンに衛さん来たら、きっと星中のお姉さん達、衛さんのこと大好きになります」
「な、何だって。そんなにか?」
「はい。クーヘンの人達、おれも……みんな甘いの、特にケーキやお菓子大好きです。ケーキ作れる人、とても大事にされます。衛さんカッコいい。お姉さん達みんな、衛さんのこと夢中になります」
カッカッと顔中から湯気をたたせている衛さん。何やら頭の中では良からぬ妄想を広げているらしい。ヘルムート、意外にヤリ手だコイツ。
「……よし、ヘルムート。大した給料は払ってやれないが、なるべく君の地球での生活を援助しよう。千代晴のことを頼んだぞ、コイツはきっと良い旦那になる」
「はい! ありがとうございます、衛さん!」
「……単純なおじさんだな……」
つづく!
2
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる