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題1話 宇宙人の王子様
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去年は雨が多くてげんなりしたが、今年のように連日猛暑日なのも結局げんなりしてしまう。夏というものは働く者にとってどんな天気でも厄介なのだと思い知り、掃除もそこそこに涼しい店内へ避難した。
「何か面白いことねえかなぁ……」
呟きさえもセミの声にかき消されて行く。
と──
「っ……」
何の前触れもなく起こった突然のめまいに額を押さえ、俺はケーキボックスなどが置かれている作業台の上に片手をついた。熱中症かと思って焦ったが違うらしい。目の前の景色がぐらりと揺れたのは一瞬のことで、気付けばめまいも収まっている。
「何だ今の、……?」
店内冷蔵庫に入れていたボトルのスポーツドリンクを取り出し、外からは見えない壁の裏側で一口飲む。
──やっぱり夏は好きじゃない。訳の分からない体調不良にいちいち焦る。
ボトルを戻してカウンター前に戻ると、ようやく本日一人目の客──らしき少年が、ケーキのウィンドウ越しにしゃがんでいるのが見えた。
「いらっしゃいませ……?」
テディベアのドクロがデザインされた黒いTシャツに、膝までのハーフパンツとビーチサンダル。
金色の綺麗な髪、所々に青いメッシュ。きゅっと結んだ薄い唇。この暑いなか日に焼けた様子はなく肌は真っ白で、一見するとパンクファッションが好きなただのガキに見える。
派手な頭の少年は大きな青い瞳をぎょろぎょろさせ、酷く真剣な顔でケーキを見ていた。
冷やかしだろうか、それともただの変人か?
「むう……」
いや、ただ熱心にケーキを選んでいるだけらしい。
「ご注文お決まりでしたら、どうぞ」
上から身を乗り出して声をかけると、少年がウィンドウの前にしゃがんだまま俺を見上げて瞬きをした。
「………」
思わず、その清涼感に溢れた美しさに息を飲む──ほんの一瞬、うだるような暑さもセミの声も、どこかへ弾け飛んで行った気がした。
「おれ、イチゴのがいいです」
「そ、それでしたら……」
何ていう目ヂカラだ。真っ青で大きな、まるで地球のような美しい目──真正面から見つめられると、心ごと全部吸い込まれてしまいそうになる。
「それでしたらノーマルショート、スペシャルショート……それからお一人用のミニホールショートがありますが……」
「丸いの! 丸くてイチゴが乗ってる、丸いの、欲しいです!」
「ミニホールショートですね、少々お待ち下さい」
その目がキラキラと輝き出したのを見て、つい噴き出してしまった。高校生くらいかと思ったが、もしかしたらデカいだけの小学生なのかもしれない……それほど彼の目は純粋な光に満ちていた。
「はい、五百円です」
カウンターから差し出した小さなケーキの箱を取って、少年が丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます、お兄さん!」
「あ、いやいや。お会計、五百円です」
「ごひゃくえん……? おれケーキ欲しいです」
──困った。
「金、持ってないのか?」
「かね。……ケーキ食べたいです」
思わずヤンキー時代の血が滾り口走ってはいけないことを言いそうになってしまったが、……グッと堪えて横の出入口から店の外へ出る。渡したケーキの箱を取り返すためだ。
「支払えないなら、それ持ってかれると困るんだが」
「お兄さん……。おれ、ケーキもらわない方がいいですか? ……ごめんなさい」
変な喋り方。立てば俺の胸元に頭がくるほどの身長なのに、こちらに向かって箱を差し出すさまは、まるで小さな子供のようにビクビクしている。
「困ったな、外国人か……? 交番は遠いし、衛さんもいねえし……どうしたもんか」
「……丸いの、イチゴのケーキ……」
「う」
やばい、泣かせてしまいそうだ。
「何か面白いことねえかなぁ……」
呟きさえもセミの声にかき消されて行く。
と──
「っ……」
何の前触れもなく起こった突然のめまいに額を押さえ、俺はケーキボックスなどが置かれている作業台の上に片手をついた。熱中症かと思って焦ったが違うらしい。目の前の景色がぐらりと揺れたのは一瞬のことで、気付けばめまいも収まっている。
「何だ今の、……?」
店内冷蔵庫に入れていたボトルのスポーツドリンクを取り出し、外からは見えない壁の裏側で一口飲む。
──やっぱり夏は好きじゃない。訳の分からない体調不良にいちいち焦る。
ボトルを戻してカウンター前に戻ると、ようやく本日一人目の客──らしき少年が、ケーキのウィンドウ越しにしゃがんでいるのが見えた。
「いらっしゃいませ……?」
テディベアのドクロがデザインされた黒いTシャツに、膝までのハーフパンツとビーチサンダル。
金色の綺麗な髪、所々に青いメッシュ。きゅっと結んだ薄い唇。この暑いなか日に焼けた様子はなく肌は真っ白で、一見するとパンクファッションが好きなただのガキに見える。
派手な頭の少年は大きな青い瞳をぎょろぎょろさせ、酷く真剣な顔でケーキを見ていた。
冷やかしだろうか、それともただの変人か?
「むう……」
いや、ただ熱心にケーキを選んでいるだけらしい。
「ご注文お決まりでしたら、どうぞ」
上から身を乗り出して声をかけると、少年がウィンドウの前にしゃがんだまま俺を見上げて瞬きをした。
「………」
思わず、その清涼感に溢れた美しさに息を飲む──ほんの一瞬、うだるような暑さもセミの声も、どこかへ弾け飛んで行った気がした。
「おれ、イチゴのがいいです」
「そ、それでしたら……」
何ていう目ヂカラだ。真っ青で大きな、まるで地球のような美しい目──真正面から見つめられると、心ごと全部吸い込まれてしまいそうになる。
「それでしたらノーマルショート、スペシャルショート……それからお一人用のミニホールショートがありますが……」
「丸いの! 丸くてイチゴが乗ってる、丸いの、欲しいです!」
「ミニホールショートですね、少々お待ち下さい」
その目がキラキラと輝き出したのを見て、つい噴き出してしまった。高校生くらいかと思ったが、もしかしたらデカいだけの小学生なのかもしれない……それほど彼の目は純粋な光に満ちていた。
「はい、五百円です」
カウンターから差し出した小さなケーキの箱を取って、少年が丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます、お兄さん!」
「あ、いやいや。お会計、五百円です」
「ごひゃくえん……? おれケーキ欲しいです」
──困った。
「金、持ってないのか?」
「かね。……ケーキ食べたいです」
思わずヤンキー時代の血が滾り口走ってはいけないことを言いそうになってしまったが、……グッと堪えて横の出入口から店の外へ出る。渡したケーキの箱を取り返すためだ。
「支払えないなら、それ持ってかれると困るんだが」
「お兄さん……。おれ、ケーキもらわない方がいいですか? ……ごめんなさい」
変な喋り方。立てば俺の胸元に頭がくるほどの身長なのに、こちらに向かって箱を差し出すさまは、まるで小さな子供のようにビクビクしている。
「困ったな、外国人か……? 交番は遠いし、衛さんもいねえし……どうしたもんか」
「……丸いの、イチゴのケーキ……」
「う」
やばい、泣かせてしまいそうだ。
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