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第15話 色情霊との闘い!
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──まただ、この感じ。
深夜二時、体に妙な感覚があって意識が覚醒した。ここのところ毎晩続いているそれは、幽霊には慣れているはずの俺の腕に必ず鳥肌を立たせる。
深い怨念を持つ悪霊じゃない。イタズラ好きの動物や子供の霊でもない。
──やめてくれよ。
それは毎晩、俺の体を……取り分け下半身を重点的に攻めてくる「色情霊」というヤツだった。
*
「先生……」
「どうした黎人。最近顔色が優れねえが、眠れてないのか? 具合悪いのか?」
翌朝、熱いコーヒーを飲みながら俺は大きな溜息をついた。
先生には知られたくない類の霊だから今日まで黙っていたけれど、この際仕方ない。一人で解決策を考えるのも限界だ。
「実は最近毎晩、霊に変なことされるんです」
「何だ、変なことって」
先生がカップを置いて目をぎらつかせる。
「その……毎晩、霊が俺の体を触ってくるんです。……エロい意味で」
「………」
言った途端、先生の目からスッと輝きが消えた。怒るか、羨ましがるか、予想していた反応はそのどちらかだけど……先生は意外にも完全な無表情で、冷静に俺に訊いてきた。
「どんな奴だ」
「それが分からないんです。触られる感触があるだけで、男か女かも……」
「ぬう……」
眉間に皺を寄せた先生が、じっと俺を見つめている。必死に霊視しようとしているらしいが、俺にも見えない姿が霊感ゼロの先生に見えるとは思えない。
「幽霊は慣れてますけど、こういうの初めてなんですよ。気味悪いし、何より……触られるのがすっごく嫌です」
「………」
数秒の沈黙の後、先生が突然握った拳をテーブルに叩き付けた。
「わっ、どうしたんですか先生っ?」
「……クソッ、俺は自分の男も守れねえで……そんな得体の知れねえ奴に毎晩黎人が犯されてるのを、気付きもしねえで……!」
「いやあの、犯されてはないです。例えるなら痴漢レベルですよ」
「痴漢だろうと、犯罪は犯罪だ!」
いつになく熱くなっている先生は、羨ましがるのではなく怒っている。それに少しだけホッとして、俺はテーブルに身を乗り出し先生の手を握りしめた。
「誰に何をされようと、俺の心は先生だけの物ですよ」
「いや、お前の体も俺だけの物だ」
「なので俺も、ちょっと気合入れますね。除霊できる力はないですけど、色々試してみますから先生も協力お願いします」
当然だ、と先生が俺の手を握り返す。
「忙しいし先生はただでさえ疲れてるのに、余計な心配かけてごめんなさい……」
「余計じゃねえ。最大の優先事項だ」
「あ、愛されてる……!」
涙で目がうるうるしてしまうが、先生のためにも今はとにかく除霊だ。本格的な能力はなくても、知識としては幾つか有効そうな方法を知っている。
「盛り塩ってのはどうだ? やっぱり基本だろ」
寝室に移動した俺達は、取り敢えず何かやれることはないかと相談し合った。
「盛り塩は、実は霊を跳ねのけるモノじゃないんですよ」
怖い話で魔除けとして出てくるため勘違いされがちだが、本来盛り塩は「商売繁盛」などの願掛けに使うものだ。
大昔の中国、皇帝と一夜を過ごすため宮女達がこぞって自室の前に塩を置いていたのが始まりとされている。皇帝が乗った車を引く羊が立ち止まり、塩を舐めるためだ。「今夜も羊が止まった部屋の女の子と遊ぶどー」という気まぐれな皇帝のルーレットを止めるため、宮女達は必死で塩を盛っていたということである。
そんな訳で盛り塩は「福の神を招き入れる」という意味で使われるようになったのだ。たまたま入った店の前に盛り塩があったからといって、幽霊が出る店だと思ってはいけない。
「ううむ、それなら御札か?」
「御札も色々種類がありますからね。下手に貼ると部屋の中に閉じ込めちゃって逆効果になりますし、……」
そこまで言った時、ふいに背中が寒くなった。
「………」
──俺を追い出す相談?
「わ、……やばい。話しかけてきた」
「どうした黎人。幽霊か? この部屋に今いるのか?」
──残念だけどそんなことさせないよ。
「っ……」
冷たいものが首筋に触れている。ベッドの前に立ったまま体が硬直してしまい、俺は下腹部に力を込めて全神経を「そいつ」に集中させた。
「何が目的だ」
くすくすと耳元で笑う声。正体は男だと分かったが、こんな昼間から接触してこれるほどの力を持っていたとは……さては隠していたな。
「おい、黎人──」
「俺はお前の物にはならない。消えろ!」
「そうだ、消えろコラ、ぶっ殺すぞ!」
ふっ、と首筋に冷たい息がかかった。
──こないだは邪魔されたからね。今回はじっくりお前の体を乗っ取ろうと思って、時間をかけて交わることに決めたんだ。
「え……?」
──毎晩少しずつお前の中に入ってたんだよ。生命の象徴である性器から入り込んでたから、痴漢と間違えたのかな?
こいつまさか、アレか。
前に先生とセックスしようとして、一時的に俺の体を乗っ取った「美青年」の幽霊か。
「て、ていうか何っ? チンコから俺の中に入ってるって? 尿道からっ? うわあぁマジでやめろよ気持ち悪いなぁ!」
「な、何だ黎人、その話詳しく説明しろ、チンコがどうしたっていうんだ!」
思わず自分の股間を押さえてしまった。擽られたり揉まれたりしているだけだとしか思っていなかったのに、まさかこんな小さな穴から俺の体内に入っていたなんて。
想像するとぞわぞわして、むずむずして、身体中が痒くなってくる。
「せ、先生……! 毎晩俺のチンコから全裸の美青年が入ってきてたんです!」
「ぬう……悪いが何を言っているのかさっぱり分からん」
気持ち悪くて思わず先生に抱きついてしまった。先生は困惑しながらも俺を抱きしめ、見えない霊を威嚇するため辺りを睨みつけている。
──俺だってそこから入りたいわけじゃないから。夜城先生のために我慢してるだけだし。
こんな奴に先生とセックスされるなんて絶対に嫌だ。前にフェラしたのだって未だに許してないのに、性格が悪過ぎる。
「先生。俺、負けませんから!」
「おう! 俺もだ!」
例えどんな霊だろうと、俺と先生は絶対に負けない。とことんまで闘って、完全勝利を掴み取ってやる。
──あーあ、早く夜にならないかな。
その為には、先生に例の美青年のことを1から説明しなければならない。
気が進まないけど、……俺達二人のためだ、仕方ない。
「で、全裸の美青年ってのはどういうことだ、黎人」
「………」
気が進まないけど。
つづく!
深夜二時、体に妙な感覚があって意識が覚醒した。ここのところ毎晩続いているそれは、幽霊には慣れているはずの俺の腕に必ず鳥肌を立たせる。
深い怨念を持つ悪霊じゃない。イタズラ好きの動物や子供の霊でもない。
──やめてくれよ。
それは毎晩、俺の体を……取り分け下半身を重点的に攻めてくる「色情霊」というヤツだった。
*
「先生……」
「どうした黎人。最近顔色が優れねえが、眠れてないのか? 具合悪いのか?」
翌朝、熱いコーヒーを飲みながら俺は大きな溜息をついた。
先生には知られたくない類の霊だから今日まで黙っていたけれど、この際仕方ない。一人で解決策を考えるのも限界だ。
「実は最近毎晩、霊に変なことされるんです」
「何だ、変なことって」
先生がカップを置いて目をぎらつかせる。
「その……毎晩、霊が俺の体を触ってくるんです。……エロい意味で」
「………」
言った途端、先生の目からスッと輝きが消えた。怒るか、羨ましがるか、予想していた反応はそのどちらかだけど……先生は意外にも完全な無表情で、冷静に俺に訊いてきた。
「どんな奴だ」
「それが分からないんです。触られる感触があるだけで、男か女かも……」
「ぬう……」
眉間に皺を寄せた先生が、じっと俺を見つめている。必死に霊視しようとしているらしいが、俺にも見えない姿が霊感ゼロの先生に見えるとは思えない。
「幽霊は慣れてますけど、こういうの初めてなんですよ。気味悪いし、何より……触られるのがすっごく嫌です」
「………」
数秒の沈黙の後、先生が突然握った拳をテーブルに叩き付けた。
「わっ、どうしたんですか先生っ?」
「……クソッ、俺は自分の男も守れねえで……そんな得体の知れねえ奴に毎晩黎人が犯されてるのを、気付きもしねえで……!」
「いやあの、犯されてはないです。例えるなら痴漢レベルですよ」
「痴漢だろうと、犯罪は犯罪だ!」
いつになく熱くなっている先生は、羨ましがるのではなく怒っている。それに少しだけホッとして、俺はテーブルに身を乗り出し先生の手を握りしめた。
「誰に何をされようと、俺の心は先生だけの物ですよ」
「いや、お前の体も俺だけの物だ」
「なので俺も、ちょっと気合入れますね。除霊できる力はないですけど、色々試してみますから先生も協力お願いします」
当然だ、と先生が俺の手を握り返す。
「忙しいし先生はただでさえ疲れてるのに、余計な心配かけてごめんなさい……」
「余計じゃねえ。最大の優先事項だ」
「あ、愛されてる……!」
涙で目がうるうるしてしまうが、先生のためにも今はとにかく除霊だ。本格的な能力はなくても、知識としては幾つか有効そうな方法を知っている。
「盛り塩ってのはどうだ? やっぱり基本だろ」
寝室に移動した俺達は、取り敢えず何かやれることはないかと相談し合った。
「盛り塩は、実は霊を跳ねのけるモノじゃないんですよ」
怖い話で魔除けとして出てくるため勘違いされがちだが、本来盛り塩は「商売繁盛」などの願掛けに使うものだ。
大昔の中国、皇帝と一夜を過ごすため宮女達がこぞって自室の前に塩を置いていたのが始まりとされている。皇帝が乗った車を引く羊が立ち止まり、塩を舐めるためだ。「今夜も羊が止まった部屋の女の子と遊ぶどー」という気まぐれな皇帝のルーレットを止めるため、宮女達は必死で塩を盛っていたということである。
そんな訳で盛り塩は「福の神を招き入れる」という意味で使われるようになったのだ。たまたま入った店の前に盛り塩があったからといって、幽霊が出る店だと思ってはいけない。
「ううむ、それなら御札か?」
「御札も色々種類がありますからね。下手に貼ると部屋の中に閉じ込めちゃって逆効果になりますし、……」
そこまで言った時、ふいに背中が寒くなった。
「………」
──俺を追い出す相談?
「わ、……やばい。話しかけてきた」
「どうした黎人。幽霊か? この部屋に今いるのか?」
──残念だけどそんなことさせないよ。
「っ……」
冷たいものが首筋に触れている。ベッドの前に立ったまま体が硬直してしまい、俺は下腹部に力を込めて全神経を「そいつ」に集中させた。
「何が目的だ」
くすくすと耳元で笑う声。正体は男だと分かったが、こんな昼間から接触してこれるほどの力を持っていたとは……さては隠していたな。
「おい、黎人──」
「俺はお前の物にはならない。消えろ!」
「そうだ、消えろコラ、ぶっ殺すぞ!」
ふっ、と首筋に冷たい息がかかった。
──こないだは邪魔されたからね。今回はじっくりお前の体を乗っ取ろうと思って、時間をかけて交わることに決めたんだ。
「え……?」
──毎晩少しずつお前の中に入ってたんだよ。生命の象徴である性器から入り込んでたから、痴漢と間違えたのかな?
こいつまさか、アレか。
前に先生とセックスしようとして、一時的に俺の体を乗っ取った「美青年」の幽霊か。
「て、ていうか何っ? チンコから俺の中に入ってるって? 尿道からっ? うわあぁマジでやめろよ気持ち悪いなぁ!」
「な、何だ黎人、その話詳しく説明しろ、チンコがどうしたっていうんだ!」
思わず自分の股間を押さえてしまった。擽られたり揉まれたりしているだけだとしか思っていなかったのに、まさかこんな小さな穴から俺の体内に入っていたなんて。
想像するとぞわぞわして、むずむずして、身体中が痒くなってくる。
「せ、先生……! 毎晩俺のチンコから全裸の美青年が入ってきてたんです!」
「ぬう……悪いが何を言っているのかさっぱり分からん」
気持ち悪くて思わず先生に抱きついてしまった。先生は困惑しながらも俺を抱きしめ、見えない霊を威嚇するため辺りを睨みつけている。
──俺だってそこから入りたいわけじゃないから。夜城先生のために我慢してるだけだし。
こんな奴に先生とセックスされるなんて絶対に嫌だ。前にフェラしたのだって未だに許してないのに、性格が悪過ぎる。
「先生。俺、負けませんから!」
「おう! 俺もだ!」
例えどんな霊だろうと、俺と先生は絶対に負けない。とことんまで闘って、完全勝利を掴み取ってやる。
──あーあ、早く夜にならないかな。
その為には、先生に例の美青年のことを1から説明しなければならない。
気が進まないけど、……俺達二人のためだ、仕方ない。
「で、全裸の美青年ってのはどういうことだ、黎人」
「………」
気が進まないけど。
つづく!
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