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第7話 ふしぎなタルパ!

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「自分のクローンがいればどんなに良いか、考えないか」
「俺は別に要らないですけど、先生は考えるんですか?」
「作業を分担したり、アイデアを貰ったりな。自分と同じ脳ミソだから、限りなく自分が求めるモノに似たアイデアが出るはずだ」
「え、でもそんなの俺に相談して下さいよ。それにアイデアなら、体験者さんがたまにメールとかでくれるじゃないですか」
「違うんだ、黎人」

 先生の言い分はこうだ。
 自分と同じ人間ならば感性も自分と同じな訳だから、気を使わなくても自分の思い通りに動いてくれる。また互いを誰よりも理解し合っている訳だから、その時に一番欲しい答えをくれる。

 他人の場合はそうも行かない。例え俺でも、先生が百パーセント満足する行動を常に取り続けることはできないのだ。心がけることはできても、恐らく全てを先生に合わせていたら俺の精神が持たない。それは先生が変人だからという意味ではなく、人間という生き物は感情や思考力が発達している分、愛している存在であっても「個」が別の人間に一から十まで合わせる、言いなりになるということはできないのだ。

「でもクローンにアイデア貰うとしても、中身は先生なのだから同じ部分で悩んだり詰まったりしちゃうんじゃないですか?」
「ううむ……」
「でも同じ感性の人間がもう一人、っていうのは何となく憧れますよね。双子ちゃんみたいな存在なのかな?」
「ああ、俺がもう一人欲しい……」
 執筆に行き詰まると、先生は大抵こういう方向へ現実逃避する。
 パソコンを前に頭を抱える先生を見て、俺は俺で「先生がもう一人いたら身が持たないな」と考えていた。お世話的にも、セックス的にも。

「取り敢えず先生は、自分にひらめきをくれる『声』が欲しいんですよね。……それって、タルパに近い存在なのかな」
「タルパ? 人工精霊か」
「それとはちょっと違います。人工精霊は宿らせる『モノ』が必要ですけど、タルパは完全に『無』から作るんですよ」

 タルパとは簡単に言えば、自分の想像・妄想から作り出す架空の人物やキャラクターのことだ。
 名前、容姿から性格、癖、考え方、人生、全てを自分で作ることができる。その架空の存在と架空の会話をして、その時「自分の欲しい言葉」を貰ったりするのだが……訓練すれば「オート化」といって、まるで実在する人物と行なうようなスムーズな会話をしたり、視覚化できたり、触れたりもできる。

 親友、恋人、兄弟、家族、設定も自由自在。もちろん他人からは見えないしただの妄想癖で片付けられてしまうが、俺のネット上での知り合いは「天使のような美少女」のタルパを作り、もう十年近く毎日イチャイチャと幸せに過ごしているそうだ。

「なるほど、訓練は必要だが夢が膨らむな」
「でも、危険もあるんですよ。オート化の末に人格を持ったタルパが暴走した場合なんかは、制御できませんからね。そうなったら幻覚幻聴で毎日地獄ですよ」

 しかもオート化してしまったタルパは、例え生み出した本人であっても自在に消去することはできない。最悪の場合は自分の人格をタルパに乗っ取られてしまうこともあって、決して良いことばかりではない──むしろリスクを考えればかなり危険な遊びなのだ。

「成功して、楽しく共存する人もいますけどね。多くの場合は危険ですよ」
「ちなみに成功した場合、何でもできるのか。例えば黎人と瓜二つのタルパを作って、お前と3Pとか」
「いや。個人のタルパは第三者には見えないので、そんなこと考えても無駄ですよ」
「……なんだ、そんなに良いモンでもねえな」
「判別するとこ、そこですかっ?」
 全くもう、と呆れながら、俺は取り込んでおいた洗濯物をたたみ始めた。


 *


「ふう、一人でゆっくりお風呂入るのもいいな……」
「そうか? せっかく合法的に全裸になれる場所で一人なんて寂しいだろ」
「あれっ、先生入って来ちゃったんですか。まだ今日の仕事終わってないんじゃ……」
 湯船に浸かる俺を見下ろす全裸の先生。風呂は仕事が終わってから入ると言っていたのに。

「終わったさ、二人でやれば楽勝だ」
「あれっ?」
 俺の目がおかしくなってしまったのだろうか。
 先生が、二人いる。

 顔も体も声も瓜二つ、どっちがホンモノでもニセモノでもない、二人とも正真正銘の夜城先生に見える。

「ど、どういうこと……?」
「どうもこうもねえさ。俺が本物の黒河夜城。そんで、隣のコイツがお前が生み出したタルパだ」
「えっ! 俺そんなの作った覚えないですけど……!」
「霊感が強いとタルパも一瞬で出来るんだな」
 そんな馬鹿な!
 ありえない現実に一瞬言葉を失ったが、こうして目の前に先生が二人いるのを見てしまっている。何度目を瞬かせても二人だ。右が本物、左がタルパ。シャッフルしたらもうどっちがどっちか分からない。

「ど、どうしましょう。既にオート化もしてるし、一度具現化したら消すことはできないって……」
 即ちこれから一生、二人の先生と暮らさなければならないということになる。
 洗濯も二倍、食事も二倍、マッサージも三時のおやつも全部二倍──。

「いいじゃねえか、これから毎晩3Pだろ?」

 ──地獄の日々の幕開けだ!

「……やっ、ちょっと先生、狭いんだからお風呂の中入って来ないで下さいっ……」
「じゃあ体洗ってやるから一旦出ろ」
 先生がこの状況を楽しんでいるらしいのは顔を見れば分かる……二人ともおんなじ意地悪な笑い方なのだ。
 嫌な予感満載だけど先生の要望なので仕方なく浴槽から出ると、すぐに両サイドを固められた。

「せ、せんせ……」
 ニヤニヤと笑いながら、先生達がそれぞれ手のひらにボディソープの液体を落とす。体洗ってやるって、そういうことか……。
「……ふ、……」
 肩から胸板、そして背中を優しく撫でられ、心地好さについ息が漏れた。左右から伸びる四本の手が俺の体を撫で回している。触れられる感触まで本物と同じで、気持ち良さも同じ──というか倍だ。

「あっ!」
「黎人がして欲しそうなことは俺達熟知してるからな」
 同じ台詞を同じ声、同じタイミングで囁かれ、体の芯が微かに震えた。タルパのことは不安だけど、今だけ……ちょっと贅沢だなと思ってしまう。

「あっ、うぅ……。そこは……」
 恥ずかしい形になったペニスに先生の指が絡み付き、泡でぬるぬると優しく擦られる。もう一人の先生は俺の股下に手を入れ、同じく泡でぬるぬると玉を撫でている。気持ち良くてキュンとなって、俺は二人の先生の間でどうすることもできずに腰を震わせていた。
「ん、あ……せんせ、……あぁっ」
「相変わらずケツと玉は柔らかいが、チンポはガチガチだな」
「ひっ、う──! や、先生っ……!」
「両方攻めるのは良いが、せっかく俺が二人いるなら触るだけというのは勿体なくないか?」
 先生が先生に言って、先生が「そうだな」と頷いた。

 もうどっちが本当の先生なのか分からない。とにかく二人の先生が俺の前と後ろに膝をつき、前の先生が俺の片脚を持ち上げてバスタブの縁に乗せた。大きく脚を開いた状態だ。何をされるのかは、もう分かっている。

「滑らないように、しっかり支えてるからな」
 言いつつ、前の先生が俺のペニスをゆっくりと口に含んでいった。
「はあぁ……」
 極上の快感に体が震える。セックスとはまた違う最高の心地好さ。含まれたペニスの先端を先生の熱い舌にちろちろされて、啄まれて、とろけそうな甘い刺激に涙が零れた。

「気持ちい、です……。最高ぉ……」
「は。黎人のぷるぷるのチンポも最高だぜ」
「や、あぁ……!」
 天井を仰ぎ、先生の黒髪に指を絡ませる。すると後ろで屈んでいた先生が、俺の尻に顔を埋めながら両手で激しく尻を揉み始めた。
「あ、……そっちも……」
「ケツはプリプリだな」
「だ、だめっ……両方、だめ……!」
 尻の穴を舐めていた先生の舌が、ぬるりと中へ入ってくる。あまりの刺激に体が跳ねて、俺はバスタブの縁に乗せていた脚を戻してしまった。
 だけどそのせいで腰を突き出す恰好になり、後ろの先生に余計に尻を押し付けてしまう。

「はぁ、エッロいぜ黎人……」
「やや、ちょっと待っ……! りょうほ、だめ……どっちかにして……!」
「舌でも締め付けられるのが分かるぜ、黎人」
「チンポもはち切れそうだぜ、黎人」
 全く同じ二つの声が浴室にステレオで響く。
「あっ、あぁん……! せんせ、そんなの……すぐイッちゃいます……!」

 激しい息遣いに迸る声。やらしく濡れた音。ペニスもアヌスもとろとろにされて、こんなに贅沢な気持ち良さって……他にあるだろうか。
「イッちゃ、あぁ……せんせ、イくっ……!」

 タルパって凄い。
 俺の妄想の副産物、ヤバ過ぎる。


 *


「……黎人。黎人」
「ん、あ……?」
 心地好い快楽の海からハッと顔を上げると、目の前には服を着た先生がいた。困ったような呆れたような、怒っているような顔をしている。
 そうか、俺は先生達の前後攻めについ失神しちゃって……

「全く、風呂に入りながら寝る奴があるか。俺じゃあるまいし」
「ふえ……?」
 先生が俺の腕を掴み、すっかりお湯がぬるくなったバスタブの中からザブンと上がらされる。タオルで体を拭かれて、肩を貸してもらいながら寝室へと移動する。

「せんせ……? 一人……?」
「寝ぼけてんのか」
「ゆ、夢……?」
 なんだ、と少しがっかりしたのに気付いた先生が、「どんな夢見てたんだ」と苦笑した。

 勿論、さっきまでの極上の夢の話は先生には秘密だ。

 例え夢であっても俺がそんなに良い思いをしたと知ったら、先生は絶対原稿そっちのけでタルパを作ることに命を燃やし始めるだろうから。


 第7話・終
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