東京ナイトイーグル

狗嵜ネムリ

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 その夜、俺はいつも通り遊隆が寝ているベッドの横に敷いた布団の上に横たわった。今日は心身ともに疲れたはずなのに、いくら目を閉じても一向に眠くならない。ただ暗い天井を見つめて、雀夜に言われた言葉を頭の中で反芻していた。
 ──お前、遊隆に惚れかかってる。
「………」
 実際、そうなのかもしれない。
 毎日の生活に疲れ、高校も通えなくなり、堕ちる所まで堕ちようとしていた俺を救い出してくれた遊隆。俺に仕事を紹介してくれたどころか、こうして寝る場所まで与えてくれた遊隆。見た目も中身も男らしくて優しくて、一緒にいると安心する。
 何より、俺の初めての男なのだ。
 惚れるなって言う方が無理だ。
 認めるしかなかった。気持ちは遊隆に惚れかかっているどころか、完全に好きだと言えるところまできていた。
「ん……」
 ベッドの上で遊隆が寝返りをうつ。俺は体を起こして膝立ちになり、真横にあるベッドを覗き込んだ。
 静かに寝息をたてている遊隆は、家では一切俺に触れてこない。仕事とプライベートをはっきりと分けているんだろう。初めは「しっかりした奴なんだな」くらいにしか思ってなかったけれど、今はそれがすごく切ない。
 遊隆は俺のこと、どう思ってるんだろう。
「はぁ」
 考えても仕方ないのに気持ちばかりが膨らんできて、俺は遊隆が寝ているベッドに上半身を伏せた。遊隆の匂い。抱かれているみたいで、心地よい。
「……ふ」
 無意識のうちに右手が自分の股間に伸びていた。ハーフパンツの中に突っ込んだ手で自分のそれを握りしめ、既に濡れている先端に指を這わせる。
「っ……」
 遊隆の匂い。そして遊隆本人。でかい体、無防備な寝顔、整った眉毛、唇……。
 物音をたてないように気をつけて、目の前にいる遊隆を見つめながら自身を慰める俺。
 変態の域だ。こんなの、遊隆に対して申し訳ないことなのに……どうしても手が止まらない。
「……ん、っ……」
「……雪弥……?」
「わっ!」
 突然遊隆が目を開き、のっそりと上半身を起こして俺の顔を見た。あまりにも急なことに驚いて、俺は片手をパンツに入れたままで硬直してしまった。
「ど、どうした雪弥。また具合悪いのか? 大丈夫か?」
「あ、う……」
 なんてタイミングで目を覚ましやがるんだ、この男は。
 俺は遊隆と視線を合わせたままで口を金魚のようにパクパクとさせながら、瞬時に頭の中で言い訳を考えた。
「あの……」
 駄目だ。何も思い浮かばない。何か言おうとすればするほど口の中が渇き、頭の中が真っ白になってしまう。
「……?」
 遊隆はそんな俺を不思議そうに見つめ、ふいに何かに気付いたような顔をしてベッド脇を覗き込んだ。俺がパンツの中へ手を突っ込んでいるのを確認して、途端に気まずそうな表情をする。
「……何やってんだ?」
「あ、と……。ごめん、何か、急に……」
 遊隆のベッドの匂いを嗅いで発情してしまったなんて言えやしない。俺は半ば開き直って笑った。
「ちょっと変な夢見て……なんかこう、ムラッときて」
「……いや、オナニーは別にしてくれて構わないんだけどさ。何で俺のこと見て、……」
 恥ずかしさから、頬が燃えるように熱くなる。俺は遊隆のベッドに顔を埋めて小刻みに首を振り、今更と思いながら下着の中から手を抜いた。
 そんな俺を見下ろして、遊隆がふっと優しく笑う。
「雪弥、コッチ上がって来い」
「……む、無理っ」
「なあ、二人でした方が気持ちいいじゃん」
 遊隆に気を遣わせてしまった。それが情けなくて恥ずかしくて、顔が熱くて今にも泣きそうだ。
「ていうかそんなの見せられたら俺も我慢できねえよ。隠してるけどすげえ勃起してんの、見せてやろうか?」
「ゆ、遊隆……」
 遊隆が伸ばした腕にしがみつき、こわごわベッドに上がる。逞しい体に身を寄せればすぐに抱きしめられ、まだ硬いままのそれを下から引っ張り出された。
「……あ」
 そして遊隆が自らの手で露出させた自分のペニスを俺のそれに押し付け、重なった二本の竿を両手で包み込んだ。
「雪弥、自分で腰振って気持ち良くしてみろ」
「ん、ん……」
 擦れる部分が熱い。
「エッロ……」
「ゆ、たか……イッちゃ、……」
「いいよイッても。俺も長く持たねえし」
 それでも遊隆の体を跨いだ体勢だから、このまま射精したら遊隆の服にかかってしまう。俺は数瞬迷ってから、遊隆のシャツを胸元まで大きく捲った。
「イキそ……!」
 小麦色の遊隆の胸元に、俺の白濁液が飛ぶ。
「……雪弥、っ……」
 それから少し遅れて遊隆も達した。俺達はしばらく息を弾ませ、見つめ合い、それから少しだけ照れ臭くなって笑った。
 撮影以外で遊隆とこういう行為をしたのは、最初の面接を別とすれば初めてのことだった。
「な、何か恥ずかし、……ごめん、遊隆」
「撮影でもっと恥ずかしいことしてるだろ」
「でも、それとは違うじゃん……」
 遊隆が俺の頭を撫でて言う。
「……確かにな。撮影の時より、ずっと興奮した」
「………」
 俺も遊隆と同じ思いだった。
 それは心の中がくすぐったいような、温かいような、言葉では言い表せない変な気持ちだった──。
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