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あれから約一週間。俺もだいぶ仕事に慣れてきて、少しは表情の演技とかも身に付いたような気がする。遊隆との二回目の動画撮影はまだ予定が決まっていない。それまでの間は画像と、オナニー兼自己紹介ムービーで繋ぐことになっている。
「雪弥、早速ファンからメールきてるぞ」
松岡さんがメールをプリントアウトした紙の束を俺に放り投げた。
「えっ? 本当ですか?」
遊隆との動画をダウンロードしてくれたお客さんが、わざわざこうしてメールをくれるなんて思ってもみなかった。
『新人のユキヤくん、これから期待してます!』とか『動画見ました。新鮮な感じがして良かったです』とか、読んでるうちにくすぐったくなった。この十八年間、人から褒められたことなんて数える程度しかない俺なのだ。素直に嬉しかった。
「う……」
だけど、全面的に喜んでくれている人ばかりじゃない。
『ユキヤくんとても良かったです。けど、個人的にはユタカには雀夜くんとずっと組んでて欲しかったかなぁ』
『雀夜と遊隆の絡みはもう見られないんですか? ちょっと寂しいけど、久しぶりに攻めに回ってる遊隆が見れたので満足です』
この二人、愛されてたんだなぁ……。
ソファに座って読み進めて行くうち、あるメールの一文にふと目が留まった。
『今回の新人くんは虐めたくなる顔してますね(笑)。ぜひ、新人くんに雀夜の洗礼を!』
「……雀夜の、洗礼?」
無意識のうちに口に出して呟いた俺の隣に、松岡さんが腰を下ろして言った。
「気にすんな。前に、そういう鬼畜な企画があったんだ」
「鬼畜?」
「雀夜の得意分野だったからな。一部のコアな客には好評だったんだけど、撮影中にモデルが雀夜を殴って怪我させちまったんだ」
「え。大丈夫だったんですか、それって」
松岡さんは無表情のままで黒髪をかきむしった。
「ヤッてる途中、相手のモデルはずっと怖がってた。俺も無理に決行しちまったから申し訳なかったんだが……とにかく、雀夜がアドリブでモデルの首を絞めるフリをしたんだわ。それでそいつがキレて、その日のうちにコンビ解消。で、そいつは今はお前の相方」
「ああ……」
そのモデルが遊隆だったということか。あの二人の背景にそんなことがあったなんて全く知らなかった。せいぜい、雀夜の性格に遊隆が付いて行けなくなったとか、ただ単に喧嘩をしたとか、そんな程度の中違いだと思っていた。
「遊隆は、だから……ちょっとしたトラウマになっちまったんだな。もう自分がウケ側になるのは嫌だっつうから、新しい相方は自分で探させたってこと。人気がある遊隆に辞められるよりは、好きにさせた方がましだったからな」
「………」
「選んだのが雪弥で良かった。あいつのこと、よろしくな」
断れないし断るつもりもない。だけど俺は、どうしても疑問に思わずにいられなかった。
「……俺なんかが、雀夜の代わりになれるんですかね……」
松岡さんは一瞬だけ驚いた表情をしてから、そんな俺を鼻で笑った。
「馬鹿か。雀夜の代わりなんて頼んでねえよ。お前はお前のままで遊隆と接してやってくれればいい」
俺は小さく頷き、ベランダで一服中の遊隆を振り返った。少し距離をおいてはいるが、その隣には雀夜もいる。
「で、雪弥の次の動画撮影だけど。前回の評判が良かったから、次は少し上の設定でいこうと思うんだが……。お前、どういうのがいい?」
「俺は……何でもいいです」
「凌辱っぽいのとか、ソフトSMとか。そういうのも平気か」
「う、うーん……。ある程度なら……たぶん」
単語を聞いただけで顔が真っ赤になってしまう俺の隣に、トスンと弾みを付けて桃陽が座った。
「松岡さん、凌辱系は俺に任せて下さいって。雪弥にはまだ早いんじゃないかなぁ。初エッチしたばっかりだもんね?」
桃陽が俺の肩を抱き、ニヤニヤした顔を近付けてくる。
「雪弥はお子ちゃまなんだから、ラブラブで甘ーい感じのエッチの方が似合ってるよ」
「も、桃陽っ……顔近いって。ていうか俺、別に子どもじゃねえしっ!」
「じゃあ今度オフの日に俺と遊んでよ。俺を満足させてみろ、ほれほれ」
「さっ、触るな!」
ぎゃあぎゃあ喚く俺達に向かって、松岡さんが顔色一つ変えずに言った。
「俺も桃陽に賛成だ」
「ええっ?」
「確かに雪弥はそれでいい。でも、遊隆はそれじゃ駄目だ。今更普通のセックスさせたって客は満足しねえからな」
考えてみればその通りだった。俺は新人だから何をやらせても新鮮に見えるけど、遊隆には過去の作品がある。俺にばかり合わせてもらう訳にはいかないのだ。
「松岡さんは、どういうのがいいと思ってますか……?」
「俺は多少過激なのがいいと思ってる。雪弥に演技ができれば、縛ってるだけでも見応えあるだろうし」
「……うーん。縛る程度なら大丈夫かと思いますけど、演技が問題ですよね。俺、そんなことするの初めてだし……」
ソファに深くもたれて天井を見上げると、桃陽がしれっとした口調で言った。
「遊隆とプライベートでそういう遊びしてみればいいんだよ」
「えっ」
「一緒に暮らしてるんでしょ? 家では遊隆とセックスしないの?」
俺は思わずソファから飛び上がった。
「す、する訳ねえじゃんっ。別に俺ら付き合ってる訳じゃないんだしっ」
「付き合ってなくたって普通、一緒にいたらエッチくらいするでしょ」
「しないって!」
桃陽は信じらんない、の顔で俺を見た。信じられないのはこっちだ。俺の常識が桃陽によってどんどん崩されてゆく思いだった。
「ま、それは別として」
松岡さんが俺達の言い合いを見かねたように、両膝を叩いて仕切り直した。
「初めは簡単な凌辱系から入っていこうと思う。それなら雪弥も演じやすいだろうからな」
「簡単な……って、どの程度ですか?」
「それは遊隆とも話し合って決める。そんじゃ──悪いな、休憩時間奪っちまって」
「いえ……」
松岡さんがソファを立ち、俺は太い息を吐いてうなだれた。
「……桃陽が変なこと言うから、松岡さんあきれてたじゃん」
「あの人はいつもあんな感じだよ。むしろ俺は、雪弥が潔癖なのにあきれたけどな」
「潔癖じゃねえって。だってやっぱり、そういうのって恋人同士じゃないと……」
「仕事ではできるのに?」
「それとはまた別」
「雪弥、早速ファンからメールきてるぞ」
松岡さんがメールをプリントアウトした紙の束を俺に放り投げた。
「えっ? 本当ですか?」
遊隆との動画をダウンロードしてくれたお客さんが、わざわざこうしてメールをくれるなんて思ってもみなかった。
『新人のユキヤくん、これから期待してます!』とか『動画見ました。新鮮な感じがして良かったです』とか、読んでるうちにくすぐったくなった。この十八年間、人から褒められたことなんて数える程度しかない俺なのだ。素直に嬉しかった。
「う……」
だけど、全面的に喜んでくれている人ばかりじゃない。
『ユキヤくんとても良かったです。けど、個人的にはユタカには雀夜くんとずっと組んでて欲しかったかなぁ』
『雀夜と遊隆の絡みはもう見られないんですか? ちょっと寂しいけど、久しぶりに攻めに回ってる遊隆が見れたので満足です』
この二人、愛されてたんだなぁ……。
ソファに座って読み進めて行くうち、あるメールの一文にふと目が留まった。
『今回の新人くんは虐めたくなる顔してますね(笑)。ぜひ、新人くんに雀夜の洗礼を!』
「……雀夜の、洗礼?」
無意識のうちに口に出して呟いた俺の隣に、松岡さんが腰を下ろして言った。
「気にすんな。前に、そういう鬼畜な企画があったんだ」
「鬼畜?」
「雀夜の得意分野だったからな。一部のコアな客には好評だったんだけど、撮影中にモデルが雀夜を殴って怪我させちまったんだ」
「え。大丈夫だったんですか、それって」
松岡さんは無表情のままで黒髪をかきむしった。
「ヤッてる途中、相手のモデルはずっと怖がってた。俺も無理に決行しちまったから申し訳なかったんだが……とにかく、雀夜がアドリブでモデルの首を絞めるフリをしたんだわ。それでそいつがキレて、その日のうちにコンビ解消。で、そいつは今はお前の相方」
「ああ……」
そのモデルが遊隆だったということか。あの二人の背景にそんなことがあったなんて全く知らなかった。せいぜい、雀夜の性格に遊隆が付いて行けなくなったとか、ただ単に喧嘩をしたとか、そんな程度の中違いだと思っていた。
「遊隆は、だから……ちょっとしたトラウマになっちまったんだな。もう自分がウケ側になるのは嫌だっつうから、新しい相方は自分で探させたってこと。人気がある遊隆に辞められるよりは、好きにさせた方がましだったからな」
「………」
「選んだのが雪弥で良かった。あいつのこと、よろしくな」
断れないし断るつもりもない。だけど俺は、どうしても疑問に思わずにいられなかった。
「……俺なんかが、雀夜の代わりになれるんですかね……」
松岡さんは一瞬だけ驚いた表情をしてから、そんな俺を鼻で笑った。
「馬鹿か。雀夜の代わりなんて頼んでねえよ。お前はお前のままで遊隆と接してやってくれればいい」
俺は小さく頷き、ベランダで一服中の遊隆を振り返った。少し距離をおいてはいるが、その隣には雀夜もいる。
「で、雪弥の次の動画撮影だけど。前回の評判が良かったから、次は少し上の設定でいこうと思うんだが……。お前、どういうのがいい?」
「俺は……何でもいいです」
「凌辱っぽいのとか、ソフトSMとか。そういうのも平気か」
「う、うーん……。ある程度なら……たぶん」
単語を聞いただけで顔が真っ赤になってしまう俺の隣に、トスンと弾みを付けて桃陽が座った。
「松岡さん、凌辱系は俺に任せて下さいって。雪弥にはまだ早いんじゃないかなぁ。初エッチしたばっかりだもんね?」
桃陽が俺の肩を抱き、ニヤニヤした顔を近付けてくる。
「雪弥はお子ちゃまなんだから、ラブラブで甘ーい感じのエッチの方が似合ってるよ」
「も、桃陽っ……顔近いって。ていうか俺、別に子どもじゃねえしっ!」
「じゃあ今度オフの日に俺と遊んでよ。俺を満足させてみろ、ほれほれ」
「さっ、触るな!」
ぎゃあぎゃあ喚く俺達に向かって、松岡さんが顔色一つ変えずに言った。
「俺も桃陽に賛成だ」
「ええっ?」
「確かに雪弥はそれでいい。でも、遊隆はそれじゃ駄目だ。今更普通のセックスさせたって客は満足しねえからな」
考えてみればその通りだった。俺は新人だから何をやらせても新鮮に見えるけど、遊隆には過去の作品がある。俺にばかり合わせてもらう訳にはいかないのだ。
「松岡さんは、どういうのがいいと思ってますか……?」
「俺は多少過激なのがいいと思ってる。雪弥に演技ができれば、縛ってるだけでも見応えあるだろうし」
「……うーん。縛る程度なら大丈夫かと思いますけど、演技が問題ですよね。俺、そんなことするの初めてだし……」
ソファに深くもたれて天井を見上げると、桃陽がしれっとした口調で言った。
「遊隆とプライベートでそういう遊びしてみればいいんだよ」
「えっ」
「一緒に暮らしてるんでしょ? 家では遊隆とセックスしないの?」
俺は思わずソファから飛び上がった。
「す、する訳ねえじゃんっ。別に俺ら付き合ってる訳じゃないんだしっ」
「付き合ってなくたって普通、一緒にいたらエッチくらいするでしょ」
「しないって!」
桃陽は信じらんない、の顔で俺を見た。信じられないのはこっちだ。俺の常識が桃陽によってどんどん崩されてゆく思いだった。
「ま、それは別として」
松岡さんが俺達の言い合いを見かねたように、両膝を叩いて仕切り直した。
「初めは簡単な凌辱系から入っていこうと思う。それなら雪弥も演じやすいだろうからな」
「簡単な……って、どの程度ですか?」
「それは遊隆とも話し合って決める。そんじゃ──悪いな、休憩時間奪っちまって」
「いえ……」
松岡さんがソファを立ち、俺は太い息を吐いてうなだれた。
「……桃陽が変なこと言うから、松岡さんあきれてたじゃん」
「あの人はいつもあんな感じだよ。むしろ俺は、雪弥が潔癖なのにあきれたけどな」
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