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君色の空に微笑みを・15
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脱衣所の方から聞こえていたシャワーの音が止まる。
俺は咥えた煙草に火をつけ、深く煙を吸い込みながらクリアになった自身の心音を聞いていた。
幻龍楼以外で混一と夜を過ごすのは初めてだ。未だに信じられない。
「……お待たせ、浩介」
「早いな。もっとゆっくり入ってて良かったのに」
「一人じゃつまらないよ」
俺は煙草を処理してソファから立ち上がった。バスローブの前をはだけさせた混一が、誘うような眼差しで俺を見ている。
「浩介、前より男らしくなったね」
「そうかな。先輩にも言われたけど、自分じゃあんまり……」
「多分だけど、浩介に関心がある人しか気付かないんじゃない?」
その言葉が本当なら、混一……。
「好きだよ、浩介のこと」
堪らなくなって、俺は混一を思い切り抱きしめた。
嘘でもいい。今夜だけでもいい。
「……俺も好きだ」
「そっか」
ベッドに倒した混一の身体は熱く火照っている。シャワーのせいだけじゃないと思いたい。俺が混一を求めているのと同じように、彼も俺を求めてくれていると信じたい。
「ん……」
唇から唇、指先から指先。俺と混一の重なった部分から、蕩けるような熱が互いに浸透してゆくようだ。
「はぁ……」
舌から舌、吐息から吐息……上半身、下半身。身体中、全て。
「浩、介……」
「……混一」
そして、囁き。
もう誰も俺達の間に入り込めない。一寸の隙間も出来ないほどに重なり合いたい。
「あっ……」
熱く尖った乳首に指を這わせると、混一は初めて会った日の夜と変わらない愛らしい声をあげた。
「んっ、あ……気持ちいい……」
「気持ちいい? これは?」
指の代わりに唇で優しく挟み、口に含んだ突起をゆっくりと味わうように舌で転がす。
「ん、や、ぁ……!」
切なげに眉根を寄せて喘ぎ悶える混一は、俺が今まで目にしてきたどんなものよりも美しかった。
肌に滲む汗さえも、吐き出される吐息さえも。
「浩介っ……気持ちいい、もっと……」
「…………」
「あっ、あ、……あ」
「硬くなってる。上も、下も」
「あっ、……浩介、初めと比べて余裕出てきたね……。初めは……あっ、もっとがつがつしてたのに……」
「混一の調教のお陰だろ」
「ふふ……」
まるで小さな子供を褒めるみたいに、俺の頭を優しく撫でながら混一が呟く。
「俺好みに調教したんだよ……」
混一の甘い肌に舌を這わせ、俺は出来るだけそっと、愛撫を待ち侘びている彼の下半身に手を伸ばした。
「……ふ、ぅ」
熱い。握った手のひらが溶かされるようだ。
「浩介っ……、浩介……!」
「ん」
「擦って、お願い……」
目尻に涙を溜めて俺を上目に見つめながら、混一がのろのろと首を振る。熱を持った頬はまるで林檎のように赤く、潤んだ鳶色の瞳は緩く輝く宝石のようだ。
「我慢できない……」
「ま、まだ握ったばかりだろ? そんなに急ぐなって」
「だって、……分かるだろ。凄い熱くなってる……」
恥ずかしそうに呟く混一が可愛くて、俺は思わず噴き出してしまった。
「俺の調教は完璧なのに、自分の制御はできないのか? じっくり時間かけさせてくれよ」
「……じれったいのは嫌だ」
「たまにはいいだろ、ねちっこく攻められるのも」
「んん……や、やだ……ぁ」
「混一、足開いて俺によく見せて」
俺に握られたままの状態で、混一がゆっくりと両脚を開いた。白い内股に汗が伝っている。俺は握ったそれの先端に唇を寄せ、弾くような軽いキスをした。
「やっ……」
もう一度。
「あ、ぁ……!」
更にもう一度、……繰り返し何度も。俺がキスをする度に、混一は背中をくねらせて喘ぎ悶えている。が、それは快感からくる仕草じゃない。ただただじれったくてその先を俺に訴えているのだ。
「ちゃんと、やってよ……ぉ」
「可愛い」
尚もキスを繰り返しながら言うと、混一がムッとして「可愛くない」と呟いた。
「拗ねるなよ。ちゃんとしてやるって」
大きく開いた口の中へ、深く混一のそれを咥え込む。舌で撫でる感触、混一から滲み出る体液の味。一ヶ月ぶりの行為に頭がくらくらした。
「あ、あぁっ……! 浩介、気持ちいいっ……」
混一の喘ぎ声が更に拍車をかける。
「浩介っ……」
俺は激しく舌を動かし、混一のそれを吸い上げた。
「んぁっ……、あ……! いい……蕩けそ……」
時折自分の涎を舐めながら喘ぐ混一が堪らなく艶めかしい。もっと乱れさせたくて、俺は混一のそれを吸うと同時に小さな入口へ指を突き立てた。
「や、だっ……」
「……嫌なのか? こんなに欲しそうにしてるのに」
「違う、……。指じゃ、嫌だ……、じれったいだけだから……ぁ」
勿論分かってるけれど、敢えて意地悪して指を挿れてやった。
「――あっ! や、嫌っ……!」
「嫌そうじゃないけどな……」
「指、動かさない……でっ」
「ほら、やっぱり嫌じゃねえんだ」
「だって浩介……やらしいんだよ、動かし方……。中でぐりぐりするんだもん……」
中指を奥へ突き立てる度に混一の身体が跳ねる。指を曲げて中をかき回すように動かせば、その愛らしい口から濡れた声が零れる。
「やだっ、嫌……。浩介っ……」
「イヤイヤじゃなくてさ、もっと可愛くおねだりしてみろよ」
「うー……」
いつもなら混一が男達からお願いされる立場なんだろう。あるいは混一が挑発的に笑って一言言えば、男達は何でもその通りにしてきた。だから彼は、本心から自分のして欲しいことを訴えるのに慣れていない。赤くなった顔を見る限りだと、どうやら相当恥ずかしいみたいだ。
「言えって、混一……」
「………」
「じゃあもうしてやんない」
「そ、それもやだ」
「ワガママな奴」
「こ、浩介こそ……。俺に、そんなこと言わせて何が楽しいのさ……」
「ふふ」
今度は俺が笑う番だ。
「他の男には見せない顔を、見てみたいだけだ」
「もう充分見てるはずなのに……」
本当は気付いていた。
初めて出会った時と今とでは、混一の見せる表情に雲泥の差があること。初めは表情の乏しい人形のような喋り方だったのに、今では俺の前で笑ったり拗ねたり、様々な顔をして見せてくれていること。
それだけ混一が俺を信用してくれたということ。即ち、俺は他の男より一歩も二歩も前に出ているんだ。
「混一……」
そうじゃなきゃ今が存在しない。俺のような男とプライベートでの肉体関係なんて、持ってくれるはずがない。
「………」
俺は乾いた唇を開き、数瞬迷ってからその言葉を囁いた。
「好きだよ、混一」
「……ん」
「愛してる」
口にしてしまえば何て陳腐な台詞だろうか。こんな言葉だけじゃ、俺の想いは伝え切れない。「浩介……?」
「一時的な感情に惑わされてるんじゃない。お前を抱きたいから言ってる訳でもない。初めて会った時から今も、ずっと……俺はお前に惹かれ続けてるんだ」
「浩介……どうしたの……」
「混一が居てさえくれれば、嫌な仕事も頑張れる。お前を幸せにするって目標があれば、何だってできる。好きなんだよ、混一……」
「あっ……」
言いながら、俺は自分のそれを混一の入口にあてがった。
我ながら卑怯な奴だと思う。快楽に乗じて混一の首を縦に振らせようなんて。
「毎晩でも、好きなだけ満足させてやる。もうお前は働かなくていい。ずっと俺だけの為に傍に居てくれればいいんだ。……好きな物食わせてやるし、欲しい物だって全部……」
「あっ、あ……浩介っ……」
「お前が望むことは、何だって叶えてやるから……」
好条件だろ。
頼むから、俺を受け入れてくれ……。
「ふ、あ……浩介、俺がっ、欲しいのは、……自由……」
「………」
涙に濡れた瞳で、混一が俺を見上げる。
「本当の意味での、自由……」
初めは混一が何を言っているのか良く分からなかった。
「誰にも、……何にも縛られない……、……」
「………」
混一の呟く言葉はまるで悪い夢を見てうなされている時のような、重々しく、苦く、そして悲しい言葉だった。
「俺だけの、世界っ……」
「……混一」
彼が言う「自由」――それはひょっとしたら、俺自身が求めている「自由」なのかもしれない。
社会に出て仕事をして、嫌なことでも我慢して、その報酬として毎月給料をもらい、安い酒を飲んで満足するだけの日常……。
そんな日常から解放されたいと思いながらも、本心からやりたいことがあっても、どっぷりと社会に浸った精神はそれを許さない。そうしている間にまた一カ月、一年……時間だけが残酷な早さで過ぎて行く。
ただ人生を消費して行くだけの、無意味な日常。
「分かるよ、混一……」
そんな日常からの脱出。それこそが自由。
俺がどんなに手を伸ばしても掴むことのできない「自由」――。
「くっ……」
俺の頬を伝う涙を、下から混一が拭ってくれた。
「浩介」
「う……」
「大丈夫だよ」
「………」
俺と彼とじゃ、立っている場所が違う。混一は若い。その気になれば彼が望んでいる自由だって得られるかもしれない。混一には充分その素質があるんだ。だけど俺は……
もう遅い。この齢になって日常から脱し、一から人生を始めるなんて出来る訳がない。
結ばれるはずない。退屈な日常に身も心も固められてしまった俺なんかが、混一と。
「……止まってるよ、浩介」
「………」
「動いて」
「っ……」
きっとこれが最後だ。今日以降、混一への気持ちを断ち切らなければ。
混一が用意してくれた最後の夜。それに精一杯応えなければ――。
「あぁっ、あ……。こ、浩介っ……」
これが最後。
「混一っ……!」
「い、ぁ……。気持ちいっ……、イきそ……」
最後……。
「浩介――」
俺は咥えた煙草に火をつけ、深く煙を吸い込みながらクリアになった自身の心音を聞いていた。
幻龍楼以外で混一と夜を過ごすのは初めてだ。未だに信じられない。
「……お待たせ、浩介」
「早いな。もっとゆっくり入ってて良かったのに」
「一人じゃつまらないよ」
俺は煙草を処理してソファから立ち上がった。バスローブの前をはだけさせた混一が、誘うような眼差しで俺を見ている。
「浩介、前より男らしくなったね」
「そうかな。先輩にも言われたけど、自分じゃあんまり……」
「多分だけど、浩介に関心がある人しか気付かないんじゃない?」
その言葉が本当なら、混一……。
「好きだよ、浩介のこと」
堪らなくなって、俺は混一を思い切り抱きしめた。
嘘でもいい。今夜だけでもいい。
「……俺も好きだ」
「そっか」
ベッドに倒した混一の身体は熱く火照っている。シャワーのせいだけじゃないと思いたい。俺が混一を求めているのと同じように、彼も俺を求めてくれていると信じたい。
「ん……」
唇から唇、指先から指先。俺と混一の重なった部分から、蕩けるような熱が互いに浸透してゆくようだ。
「はぁ……」
舌から舌、吐息から吐息……上半身、下半身。身体中、全て。
「浩、介……」
「……混一」
そして、囁き。
もう誰も俺達の間に入り込めない。一寸の隙間も出来ないほどに重なり合いたい。
「あっ……」
熱く尖った乳首に指を這わせると、混一は初めて会った日の夜と変わらない愛らしい声をあげた。
「んっ、あ……気持ちいい……」
「気持ちいい? これは?」
指の代わりに唇で優しく挟み、口に含んだ突起をゆっくりと味わうように舌で転がす。
「ん、や、ぁ……!」
切なげに眉根を寄せて喘ぎ悶える混一は、俺が今まで目にしてきたどんなものよりも美しかった。
肌に滲む汗さえも、吐き出される吐息さえも。
「浩介っ……気持ちいい、もっと……」
「…………」
「あっ、あ、……あ」
「硬くなってる。上も、下も」
「あっ、……浩介、初めと比べて余裕出てきたね……。初めは……あっ、もっとがつがつしてたのに……」
「混一の調教のお陰だろ」
「ふふ……」
まるで小さな子供を褒めるみたいに、俺の頭を優しく撫でながら混一が呟く。
「俺好みに調教したんだよ……」
混一の甘い肌に舌を這わせ、俺は出来るだけそっと、愛撫を待ち侘びている彼の下半身に手を伸ばした。
「……ふ、ぅ」
熱い。握った手のひらが溶かされるようだ。
「浩介っ……、浩介……!」
「ん」
「擦って、お願い……」
目尻に涙を溜めて俺を上目に見つめながら、混一がのろのろと首を振る。熱を持った頬はまるで林檎のように赤く、潤んだ鳶色の瞳は緩く輝く宝石のようだ。
「我慢できない……」
「ま、まだ握ったばかりだろ? そんなに急ぐなって」
「だって、……分かるだろ。凄い熱くなってる……」
恥ずかしそうに呟く混一が可愛くて、俺は思わず噴き出してしまった。
「俺の調教は完璧なのに、自分の制御はできないのか? じっくり時間かけさせてくれよ」
「……じれったいのは嫌だ」
「たまにはいいだろ、ねちっこく攻められるのも」
「んん……や、やだ……ぁ」
「混一、足開いて俺によく見せて」
俺に握られたままの状態で、混一がゆっくりと両脚を開いた。白い内股に汗が伝っている。俺は握ったそれの先端に唇を寄せ、弾くような軽いキスをした。
「やっ……」
もう一度。
「あ、ぁ……!」
更にもう一度、……繰り返し何度も。俺がキスをする度に、混一は背中をくねらせて喘ぎ悶えている。が、それは快感からくる仕草じゃない。ただただじれったくてその先を俺に訴えているのだ。
「ちゃんと、やってよ……ぉ」
「可愛い」
尚もキスを繰り返しながら言うと、混一がムッとして「可愛くない」と呟いた。
「拗ねるなよ。ちゃんとしてやるって」
大きく開いた口の中へ、深く混一のそれを咥え込む。舌で撫でる感触、混一から滲み出る体液の味。一ヶ月ぶりの行為に頭がくらくらした。
「あ、あぁっ……! 浩介、気持ちいいっ……」
混一の喘ぎ声が更に拍車をかける。
「浩介っ……」
俺は激しく舌を動かし、混一のそれを吸い上げた。
「んぁっ……、あ……! いい……蕩けそ……」
時折自分の涎を舐めながら喘ぐ混一が堪らなく艶めかしい。もっと乱れさせたくて、俺は混一のそれを吸うと同時に小さな入口へ指を突き立てた。
「や、だっ……」
「……嫌なのか? こんなに欲しそうにしてるのに」
「違う、……。指じゃ、嫌だ……、じれったいだけだから……ぁ」
勿論分かってるけれど、敢えて意地悪して指を挿れてやった。
「――あっ! や、嫌っ……!」
「嫌そうじゃないけどな……」
「指、動かさない……でっ」
「ほら、やっぱり嫌じゃねえんだ」
「だって浩介……やらしいんだよ、動かし方……。中でぐりぐりするんだもん……」
中指を奥へ突き立てる度に混一の身体が跳ねる。指を曲げて中をかき回すように動かせば、その愛らしい口から濡れた声が零れる。
「やだっ、嫌……。浩介っ……」
「イヤイヤじゃなくてさ、もっと可愛くおねだりしてみろよ」
「うー……」
いつもなら混一が男達からお願いされる立場なんだろう。あるいは混一が挑発的に笑って一言言えば、男達は何でもその通りにしてきた。だから彼は、本心から自分のして欲しいことを訴えるのに慣れていない。赤くなった顔を見る限りだと、どうやら相当恥ずかしいみたいだ。
「言えって、混一……」
「………」
「じゃあもうしてやんない」
「そ、それもやだ」
「ワガママな奴」
「こ、浩介こそ……。俺に、そんなこと言わせて何が楽しいのさ……」
「ふふ」
今度は俺が笑う番だ。
「他の男には見せない顔を、見てみたいだけだ」
「もう充分見てるはずなのに……」
本当は気付いていた。
初めて出会った時と今とでは、混一の見せる表情に雲泥の差があること。初めは表情の乏しい人形のような喋り方だったのに、今では俺の前で笑ったり拗ねたり、様々な顔をして見せてくれていること。
それだけ混一が俺を信用してくれたということ。即ち、俺は他の男より一歩も二歩も前に出ているんだ。
「混一……」
そうじゃなきゃ今が存在しない。俺のような男とプライベートでの肉体関係なんて、持ってくれるはずがない。
「………」
俺は乾いた唇を開き、数瞬迷ってからその言葉を囁いた。
「好きだよ、混一」
「……ん」
「愛してる」
口にしてしまえば何て陳腐な台詞だろうか。こんな言葉だけじゃ、俺の想いは伝え切れない。「浩介……?」
「一時的な感情に惑わされてるんじゃない。お前を抱きたいから言ってる訳でもない。初めて会った時から今も、ずっと……俺はお前に惹かれ続けてるんだ」
「浩介……どうしたの……」
「混一が居てさえくれれば、嫌な仕事も頑張れる。お前を幸せにするって目標があれば、何だってできる。好きなんだよ、混一……」
「あっ……」
言いながら、俺は自分のそれを混一の入口にあてがった。
我ながら卑怯な奴だと思う。快楽に乗じて混一の首を縦に振らせようなんて。
「毎晩でも、好きなだけ満足させてやる。もうお前は働かなくていい。ずっと俺だけの為に傍に居てくれればいいんだ。……好きな物食わせてやるし、欲しい物だって全部……」
「あっ、あ……浩介っ……」
「お前が望むことは、何だって叶えてやるから……」
好条件だろ。
頼むから、俺を受け入れてくれ……。
「ふ、あ……浩介、俺がっ、欲しいのは、……自由……」
「………」
涙に濡れた瞳で、混一が俺を見上げる。
「本当の意味での、自由……」
初めは混一が何を言っているのか良く分からなかった。
「誰にも、……何にも縛られない……、……」
「………」
混一の呟く言葉はまるで悪い夢を見てうなされている時のような、重々しく、苦く、そして悲しい言葉だった。
「俺だけの、世界っ……」
「……混一」
彼が言う「自由」――それはひょっとしたら、俺自身が求めている「自由」なのかもしれない。
社会に出て仕事をして、嫌なことでも我慢して、その報酬として毎月給料をもらい、安い酒を飲んで満足するだけの日常……。
そんな日常から解放されたいと思いながらも、本心からやりたいことがあっても、どっぷりと社会に浸った精神はそれを許さない。そうしている間にまた一カ月、一年……時間だけが残酷な早さで過ぎて行く。
ただ人生を消費して行くだけの、無意味な日常。
「分かるよ、混一……」
そんな日常からの脱出。それこそが自由。
俺がどんなに手を伸ばしても掴むことのできない「自由」――。
「くっ……」
俺の頬を伝う涙を、下から混一が拭ってくれた。
「浩介」
「う……」
「大丈夫だよ」
「………」
俺と彼とじゃ、立っている場所が違う。混一は若い。その気になれば彼が望んでいる自由だって得られるかもしれない。混一には充分その素質があるんだ。だけど俺は……
もう遅い。この齢になって日常から脱し、一から人生を始めるなんて出来る訳がない。
結ばれるはずない。退屈な日常に身も心も固められてしまった俺なんかが、混一と。
「……止まってるよ、浩介」
「………」
「動いて」
「っ……」
きっとこれが最後だ。今日以降、混一への気持ちを断ち切らなければ。
混一が用意してくれた最後の夜。それに精一杯応えなければ――。
「あぁっ、あ……。こ、浩介っ……」
これが最後。
「混一っ……!」
「い、ぁ……。気持ちいっ……、イきそ……」
最後……。
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