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買い物の思い出
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「としちゃん、市場まで買い物に行ってきて。」
と、お母ちゃんに言われた。
僕は、お母ちゃんからお金をもらって、市場まで出かけた。
市場には、僕みたいな子供はいない。大人ばかりだ。
僕はもの怖じするタイプなのだが、お母ちゃんからお使いを頼まれたので、大人たちの中に入り込んで行った。
僕はまず、市場の入口の果物売り場に行く。僕は果物が好きなので、ここではわりと元気良くなる。
昔のことなので、ビニール袋はタダだった。
「それ。」と、僕は果物がのっているざるを指さす。
そして、お店の人にお金を渡す。
するとお店の人は、ざるの果物をビニール袋に入れて渡してくれる。そしてお釣りを渡してくれる。
こんな調子で僕は、市場を回っていくのだ。
次の場所で野菜を買う。この日は、トマトとなすを買った。
そして、いくつかの店を通り過ぎる。
お肉屋さんとは、少し話をしなくてはならない。
「120円の豚肉を300グラム二つと、合いびきを300グラムと...」
と、僕はお母ちゃんに言われた肉をお店の人に告げる。
するとお店の人は、大きなトレイから肉を取り出して秤に載せて重さを測る。
「いつも覚えていて偉いな。」
と、店の人が言ってくれる。
でも、いくらの肉を何グラム買うかはだいたいいつも決まっているので、全然偉くないと僕は思った。
お金を払ってお肉を受け取ると、僕は次の八百屋さんに行く。
この八百屋さんは、さっきの野菜売り場とはお店が別なので場所が離れているのだ、とお母ちゃんが言っていた。
この日は店のおばさんが、大根葉をなたで落としながら大根を売っていた。
店は少し混んでいて、大根売り場の前をお客さんが取り囲んでいた。
「ああ、私その大根葉欲しいわあ。」
と言って、客のおばさんが大根葉に手を伸ばしたとたんに、
「あかん!あかん!」
と言って、店のおばさんが客のおばさんの手の近くをなたで叩いた。
びっくりして、客のおばさんは手を引っ込めた。
そして店のおばさんの顔をあぜんとして見つめた。
僕もびっくりした。
店のおばさんは、何事もなかったような顔をして、大根葉を落としている。
僕は、絶対に大根葉に手を伸ばさないようにして、大根を買った。
そしてこの日の買い物を済ませて、家に帰った。
お母ちゃんは「としちゃん、ありがとう。」と言ってくれた。
弟と一緒に、農協へお米を買いに行ったこともあった。
「ラップがおまけでもらえるので、お米二つ買って来て。」
と、お母ちゃんが言うので、弟と一緒に行った。
お米は重かった。二人でお米を担いで歩いていると、学校帰りの友達がからかうようなことを言って通りかかった。
僕は少し恥ずかしかったので、何も言わずに家に帰った。
お母ちゃんは「ありがとう。」と言ってくれた。
お母ちゃんはよく『足が痛い』と言うので、僕は時々お母ちゃんの足をさすったり、背中を押したりした。
するとお母ちゃんは「ああ気持ちよかった。ありがとう。」と言ってくれた。
それから僕も学年が上がって、お母ちゃんの方が小さくなった。
やがて僕にも子供ができて、お母ちゃんとは離れて暮らすようになっていた。
お母ちゃんは、ますます小さくなった。
僕の子供たちはすっかり大きくなったが、お母ちゃんはベッドの上で寝たままになってしまった。
「お母ちゃん、働き過ぎたんやで。」
とある日僕は言ったが、お母ちゃんはもう昔のように返事をしてくれなかった。
そしてとうとう、お母ちゃんは施設のベッドの上で、まったく動かなくなってしまっていた。
最近のことはよく忘れてしまうようになったけど、お母ちゃんに言われて買い物に行った時のことは、いまでもはっきりと憶えている。
お母ちゃん、ありがとう。
と、お母ちゃんに言われた。
僕は、お母ちゃんからお金をもらって、市場まで出かけた。
市場には、僕みたいな子供はいない。大人ばかりだ。
僕はもの怖じするタイプなのだが、お母ちゃんからお使いを頼まれたので、大人たちの中に入り込んで行った。
僕はまず、市場の入口の果物売り場に行く。僕は果物が好きなので、ここではわりと元気良くなる。
昔のことなので、ビニール袋はタダだった。
「それ。」と、僕は果物がのっているざるを指さす。
そして、お店の人にお金を渡す。
するとお店の人は、ざるの果物をビニール袋に入れて渡してくれる。そしてお釣りを渡してくれる。
こんな調子で僕は、市場を回っていくのだ。
次の場所で野菜を買う。この日は、トマトとなすを買った。
そして、いくつかの店を通り過ぎる。
お肉屋さんとは、少し話をしなくてはならない。
「120円の豚肉を300グラム二つと、合いびきを300グラムと...」
と、僕はお母ちゃんに言われた肉をお店の人に告げる。
するとお店の人は、大きなトレイから肉を取り出して秤に載せて重さを測る。
「いつも覚えていて偉いな。」
と、店の人が言ってくれる。
でも、いくらの肉を何グラム買うかはだいたいいつも決まっているので、全然偉くないと僕は思った。
お金を払ってお肉を受け取ると、僕は次の八百屋さんに行く。
この八百屋さんは、さっきの野菜売り場とはお店が別なので場所が離れているのだ、とお母ちゃんが言っていた。
この日は店のおばさんが、大根葉をなたで落としながら大根を売っていた。
店は少し混んでいて、大根売り場の前をお客さんが取り囲んでいた。
「ああ、私その大根葉欲しいわあ。」
と言って、客のおばさんが大根葉に手を伸ばしたとたんに、
「あかん!あかん!」
と言って、店のおばさんが客のおばさんの手の近くをなたで叩いた。
びっくりして、客のおばさんは手を引っ込めた。
そして店のおばさんの顔をあぜんとして見つめた。
僕もびっくりした。
店のおばさんは、何事もなかったような顔をして、大根葉を落としている。
僕は、絶対に大根葉に手を伸ばさないようにして、大根を買った。
そしてこの日の買い物を済ませて、家に帰った。
お母ちゃんは「としちゃん、ありがとう。」と言ってくれた。
弟と一緒に、農協へお米を買いに行ったこともあった。
「ラップがおまけでもらえるので、お米二つ買って来て。」
と、お母ちゃんが言うので、弟と一緒に行った。
お米は重かった。二人でお米を担いで歩いていると、学校帰りの友達がからかうようなことを言って通りかかった。
僕は少し恥ずかしかったので、何も言わずに家に帰った。
お母ちゃんは「ありがとう。」と言ってくれた。
お母ちゃんはよく『足が痛い』と言うので、僕は時々お母ちゃんの足をさすったり、背中を押したりした。
するとお母ちゃんは「ああ気持ちよかった。ありがとう。」と言ってくれた。
それから僕も学年が上がって、お母ちゃんの方が小さくなった。
やがて僕にも子供ができて、お母ちゃんとは離れて暮らすようになっていた。
お母ちゃんは、ますます小さくなった。
僕の子供たちはすっかり大きくなったが、お母ちゃんはベッドの上で寝たままになってしまった。
「お母ちゃん、働き過ぎたんやで。」
とある日僕は言ったが、お母ちゃんはもう昔のように返事をしてくれなかった。
そしてとうとう、お母ちゃんは施設のベッドの上で、まったく動かなくなってしまっていた。
最近のことはよく忘れてしまうようになったけど、お母ちゃんに言われて買い物に行った時のことは、いまでもはっきりと憶えている。
お母ちゃん、ありがとう。
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