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それぞれの道
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頼朝は橋供養の事件以来、体を満足に動かせなくなっていた。
『あの方への礼拝もできぬようになってしまった。』
頼朝はルシフェルの罰を受けることを非常に恐れていたが、この体ではどうしようもなかった。
『ひょっとしたらわしは、あの方の罰を受けてしまっているのだろうか。いや、あの方の罰はこんなものでは済まないであろう。あの世に行ってからも苦しめられるのだ。』
流石に、今の頼朝は弱気なことばかり考えるようになっていた。
時刻は真夜中であった。頼朝は布団に入ってじっと眠っていた。
しかし、明るい光があまりにも眩し過ぎて目が覚めてしまった。
『何じゃ、この光は?』
頼朝が目を開けると、枕元に義経が立っていた。
『義経!生きておったのか!』
頼朝は言葉を発しようとするが、口が上手く動かせないので、「あわあわ。」としか喋れなかった。
頼朝の苦悩の顔が、そう言っていた。
義経は術を解いて、本来の顔に戻っていた。
「わらわは木曽義仲の妾、巴御前。」
と、隣の凛々しい女性がが名乗った。
『何、義仲の?そうか。』
頼朝は、義仲の嫡男義高を誅殺している。
『それがどうした。災いの元は立たねばならぬが、今の世では当然のことである。』
と、頼朝は心の中でうそぶいたが、ふと見ると巴の後ろに、大姫の亡霊がぼんやりと立っていた。
これには、頼朝はぎょっとして目を見開いた。大姫は何も言わず、ただ暗い顔をして涙のしずくを流しながら泣いていた。
『わしは大姫の事を思って...』
と、頼朝はそれを伝えようとしたが、大姫がそれを遮って話し始めた。でもその声は、生前の大姫の女性らしい声ではなく、まるで男のような、野太い声であった。もうこの世のものでは無いからである。
「三幡も、もうすぐこちらの世界に来ます。可哀想に。父が無理矢理入内させようとしたから、むごたらしい顔になってしまって。本当に可哀想。」
頼朝はそれを聞いて苦しんだ。『三幡が先に死ぬのか...しかもあの三幡がむごたらしい顔に...』と頼朝ははかなく思ったが、大姫は、「父上がもうすぐ先に死にます。でも父上は極楽には行けません。わらわや三幡と同じ場所には行けません。」
と、大姫が告げたので、頼朝は大きな衝撃を受けた。
「兄者が毎日毎晩拝んでいたルシフェルは、もうこの国にはおらぬ。巴殿とこの義経とでこの国から追い出しました。兄者に呪いをかけたまま、ルシフェルはどこか遠くへ行ってしもうた。それが証拠に、ここでルシフェルの事を悪しざまに言うても、我らは平気じゃ。ルシフェルは襲って来ん。」
と、義経が冷ややかに言うのを見て、頼朝は息が詰まりそうになった。
『嘘だ、嘘に違いない。いやこれは夢だ!』
頼朝はこの期に及んでも、ルシフェルに頼ろうとしていた。
「哀れ。」
と、三名が呟いて消えて行った。
翌朝、頼朝は寝床の上で、蛇が不自然にのたうち回ったような奇妙な恰好で固まったまま、こと切れていた。
日本全国を支配した男の哀れな死にざまであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これほど権力を恣にした頼朝の、嫡男であれば堅固な権力基盤を受け継ぎ、第二代将軍として君臨するものであるが、頼朝の嫡男頼家は、北条氏に将軍職を剥奪された上に伊豆に幽閉されて、さらに暗殺される。
頼家のデスマスクが残され伝わっているが、人間と思えないほどの苦痛に満ち溢れた表情である。彼はどんな恐ろしい目に遭ったのであろうか。
それは頼家本人のせいではなく、父頼朝の業に因があったのである。
頼家の嫡男であった一幡は、頼家が重病中に北条氏によって五歳で暗殺された。
この子に何の罪があったのであろうか。
北条氏傀儡の三代将軍となった頼家の弟の実朝も、暗殺される。
実朝を暗殺したのは、頼家の子の公暁である。公暁も、北条義時の命を受けた三浦義村によって殺された。
鴨長明は、実朝の和歌の師を目指して鎌倉に下ったが、実朝が暗殺されたために途中で京に戻っている。
こうして、頼朝の血の繋がった子や孫は全て死に絶えてしまった。
頼朝の子孫として生まれてしまったために、非業の死を遂げてしまった。
北条氏が治める国となったのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
出羽に戻った義経は、家族を連れて北方貿易船に乗り込んでいた。
岸では、義経一行を見送る巴の姿があった。
「どうぞお達者で。」
お互い手を振りあって、いつまでも別れを惜しんだ。
もう二度と会えないことが分かっていた。
その後義経は、錬金術と知略を駆使して、蝦夷の首領になったという話もあり、大陸に渡ったという説もある。
ところで東方見聞録が書かれた元の時代は、すでに平泉は寂れてしまっており「黄金の国ジパング」の面影はなくなっていた。マルコポーロはどういう経由で、平泉が黄金の都であることを知ったのであろうか。
巴は比丘尼になったという説もある。
また巴は、北陸の浜で海に潜り、珍しい大魚を捕まえてその魚の肉を食べたために、いつまでも若々しいままであったという説もある。
素手で、海中で大魚と格闘して捕獲したということである。巴ならやりかねない。
『あの方への礼拝もできぬようになってしまった。』
頼朝はルシフェルの罰を受けることを非常に恐れていたが、この体ではどうしようもなかった。
『ひょっとしたらわしは、あの方の罰を受けてしまっているのだろうか。いや、あの方の罰はこんなものでは済まないであろう。あの世に行ってからも苦しめられるのだ。』
流石に、今の頼朝は弱気なことばかり考えるようになっていた。
時刻は真夜中であった。頼朝は布団に入ってじっと眠っていた。
しかし、明るい光があまりにも眩し過ぎて目が覚めてしまった。
『何じゃ、この光は?』
頼朝が目を開けると、枕元に義経が立っていた。
『義経!生きておったのか!』
頼朝は言葉を発しようとするが、口が上手く動かせないので、「あわあわ。」としか喋れなかった。
頼朝の苦悩の顔が、そう言っていた。
義経は術を解いて、本来の顔に戻っていた。
「わらわは木曽義仲の妾、巴御前。」
と、隣の凛々しい女性がが名乗った。
『何、義仲の?そうか。』
頼朝は、義仲の嫡男義高を誅殺している。
『それがどうした。災いの元は立たねばならぬが、今の世では当然のことである。』
と、頼朝は心の中でうそぶいたが、ふと見ると巴の後ろに、大姫の亡霊がぼんやりと立っていた。
これには、頼朝はぎょっとして目を見開いた。大姫は何も言わず、ただ暗い顔をして涙のしずくを流しながら泣いていた。
『わしは大姫の事を思って...』
と、頼朝はそれを伝えようとしたが、大姫がそれを遮って話し始めた。でもその声は、生前の大姫の女性らしい声ではなく、まるで男のような、野太い声であった。もうこの世のものでは無いからである。
「三幡も、もうすぐこちらの世界に来ます。可哀想に。父が無理矢理入内させようとしたから、むごたらしい顔になってしまって。本当に可哀想。」
頼朝はそれを聞いて苦しんだ。『三幡が先に死ぬのか...しかもあの三幡がむごたらしい顔に...』と頼朝ははかなく思ったが、大姫は、「父上がもうすぐ先に死にます。でも父上は極楽には行けません。わらわや三幡と同じ場所には行けません。」
と、大姫が告げたので、頼朝は大きな衝撃を受けた。
「兄者が毎日毎晩拝んでいたルシフェルは、もうこの国にはおらぬ。巴殿とこの義経とでこの国から追い出しました。兄者に呪いをかけたまま、ルシフェルはどこか遠くへ行ってしもうた。それが証拠に、ここでルシフェルの事を悪しざまに言うても、我らは平気じゃ。ルシフェルは襲って来ん。」
と、義経が冷ややかに言うのを見て、頼朝は息が詰まりそうになった。
『嘘だ、嘘に違いない。いやこれは夢だ!』
頼朝はこの期に及んでも、ルシフェルに頼ろうとしていた。
「哀れ。」
と、三名が呟いて消えて行った。
翌朝、頼朝は寝床の上で、蛇が不自然にのたうち回ったような奇妙な恰好で固まったまま、こと切れていた。
日本全国を支配した男の哀れな死にざまであった。
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これほど権力を恣にした頼朝の、嫡男であれば堅固な権力基盤を受け継ぎ、第二代将軍として君臨するものであるが、頼朝の嫡男頼家は、北条氏に将軍職を剥奪された上に伊豆に幽閉されて、さらに暗殺される。
頼家のデスマスクが残され伝わっているが、人間と思えないほどの苦痛に満ち溢れた表情である。彼はどんな恐ろしい目に遭ったのであろうか。
それは頼家本人のせいではなく、父頼朝の業に因があったのである。
頼家の嫡男であった一幡は、頼家が重病中に北条氏によって五歳で暗殺された。
この子に何の罪があったのであろうか。
北条氏傀儡の三代将軍となった頼家の弟の実朝も、暗殺される。
実朝を暗殺したのは、頼家の子の公暁である。公暁も、北条義時の命を受けた三浦義村によって殺された。
鴨長明は、実朝の和歌の師を目指して鎌倉に下ったが、実朝が暗殺されたために途中で京に戻っている。
こうして、頼朝の血の繋がった子や孫は全て死に絶えてしまった。
頼朝の子孫として生まれてしまったために、非業の死を遂げてしまった。
北条氏が治める国となったのである。
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出羽に戻った義経は、家族を連れて北方貿易船に乗り込んでいた。
岸では、義経一行を見送る巴の姿があった。
「どうぞお達者で。」
お互い手を振りあって、いつまでも別れを惜しんだ。
もう二度と会えないことが分かっていた。
その後義経は、錬金術と知略を駆使して、蝦夷の首領になったという話もあり、大陸に渡ったという説もある。
ところで東方見聞録が書かれた元の時代は、すでに平泉は寂れてしまっており「黄金の国ジパング」の面影はなくなっていた。マルコポーロはどういう経由で、平泉が黄金の都であることを知ったのであろうか。
巴は比丘尼になったという説もある。
また巴は、北陸の浜で海に潜り、珍しい大魚を捕まえてその魚の肉を食べたために、いつまでも若々しいままであったという説もある。
素手で、海中で大魚と格闘して捕獲したということである。巴ならやりかねない。
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