日本国を支配しようとした者の末路

kudamonokozou

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ルシフェルの憂鬱

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『天上の勢力とは思えぬが、何か霊力の強いものがこの国に宿っている。如何ともし難い。』
ルシフェルは阿津賀志山の戦いで、自分に好ましくない勢力がいることを奥州軍の中に感じていた。
そしてルシフェルは今、それと同じ力を感じている。
『何者か?』
ルシフェルにとってこの得体の知れない存在を、彼は非常に不愉快に感じていた。

ルシフェルは、頼朝の娘大姫を入内させることで天皇家を乗っ取って、この国の民を堕落させ、未来永劫奴隷の境遇に陥れようとしていたが、大姫は天皇に嫁ぐことに強く抵抗し、終いには自らの命を絶つことでその目論見を阻んだ。

『頼朝は何でも言いなりだが、娘は芯が強かった。』
と、ルシフェルはこの国の女性の強さを甘く見たことを後悔していた。
大姫は七歳で源義高に想いを寄せ、生涯その気持ちを保ち続けていたのであろうか。

『この国の民の心は、解し難い。何故、己の命を犠牲にして、我に抗おうとするのか。』
日本人は、ルシフェルの存在は全くと言ってよいほど知らないはずである。しかし、この国の民たちは明らかにルシフェルに抗おうとしている、とルシフェルは感じていた。
それは出羽の聖人に代表されるような、正直、慈悲、徳の高さなどを根底に持つ精神であった。このような力がルシフェルに打ち克つ力であり、ルシフェルが苦手とするものであった。
『大陸では見られない、不可解な民である。』
ルシフェルは、戸惑いを隠せないでいた。

更に、頼朝の妻、政子も独立心をもって行動するようになっていることに、ルシフェルは警戒心を抱いていた。
『政子は、平氏の血統を持つ者として、源頼朝を滅ぼすつもりか?』
最初の内はルシフェルに従順であった政子であるが、最近はルシフェルは政子に手を焼き気味である。

また奥州で見た女勇者に、ルシフェルは目を奪われた。
『この国一の勇者が女であったとは。もしこの女に欲があったなら、間違いなくこの国を武力で統一することが出来たであろうに。惜しいことだ。』

一方、義経と巴は常人離れした速さで野山を駆け巡り、鎌倉に入っていた。
鎌倉の街を見渡せる山腹の廃寺で、出羽の聖人のいう「邪悪なもの」を倒す方策を算段していた。

まず、巴が政子に念を送って、邪悪なものから離れるようにという警告を伝えた。

政子はその信号を受け取った。何者か分からないが敵ではないと政子は判断した。
『政子殿が昔ご覧になった、あの白く輝く人のようなものは、善きものではありません。この国の民を永遠に奴隷の境遇に落とそうとするものです。』
何者かがさらに政子の体に、信号を送って来ている。
その内容は、政子の夫に対して悪いことであったが、政子はそれを善とした。
政子は元々、源家ではなく、北条家が長らく栄えるという示現を夢で見ていたのであるから、今その時が来たと観念したのである。

だがこの示現を与えたものが、この国の民を奴隷の境遇に落とそうとしているものとは思いもよらなかった。
民を奴隷の境遇にするというのは、この国にとっても、北条家にとっても許されぬことである。

ルシフェルは、鎌倉の周りに結界を張り巡らせていたので、この巴と義経のやり取りが結界の網にかかった。

上総広常を襲ったのと同じような化け物たちが、巴と義経を襲って来た。
『今この化け物たちと直接戦うのは拙い。』
頼朝討伐の前に事を起こしたくなかった二人は、廃寺にいる仏像たちに術を掛けて力を授け、化け物たちと戦わせた。
化け物たちは次から次へと湧いて出て、仏像を獲物だと思って襲ってくるが、仏像たちは人間の急所をやられても平気で戦い続ける。
その間に、巴と義経は自分たちが結界にかからないように術をかけて、逃げ延びてしまった。
これらの術は、出羽の聖人に見せられた巻物から学んだ術である。

ルシフェルは、化け物たちが仏像と戦っているのを見て「おや?」と思った。
「この魑魅魍魎どもが!木偶相手に何をしておる!」
ルシフェルから叱責された魑魅魍魎たちは、すごすごと退散してしまったが、肝心の相手が結界から見えなくなっていた。

ルシフェルは、ますます憂鬱になった。
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