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総攻撃
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「明日は総攻撃を仕掛け、一気に片を付けよう。」
鎌倉軍の軍議は一致した。
戦力の逐次投入をするから、いたずらに味方の犠牲者が増える。数にものを言わせてひねりつぶしてくれよう、という考えだ。
それにしても、今日は味方の犠牲が多すぎた。
一万人の兵力を突撃させて、数千人の死者数は酷すぎる。
敵の攻撃による犠牲も多いが、甚だしいのは鎧を着けたまま堀に飛び込んだ溺死者である。
鎌倉軍全体に、『奥州陣地の堀に飛び込む者は、一族郎党にまでお仕置きあるべし。』という触れが回った。
「うーむ、なぜか前後不覚になって、ふらふらと飛び込んでしまったのだろうか。」
近くで見ていた指揮官たちも、首を傾げるしかなかった。
徒兵自身も、なぜそんな自殺行為をしたのか分からなかった。
「わしもよく覚えていない。気が付いたら目の前に堀が見えて、危うく飛び込みそうになるところじゃった。」
どうも一種の催眠状態に陥ったのではないかと、皆は推察した。
「そうすると、奥州軍が奥州の薬草か何かで、幻惑したのではないか。」
「いや、騎馬兵は誰も堀に飛び込んでいないというではないか。やはり天狗の仕業か...」
鎌倉軍は、天狗の噂を流す者を処罰した。
この類の話が広まると、また鎌倉軍の士気が落ちてしまう。それほど、当時の人間は怪異なものの存在を恐れていた。
鎌倉軍は、明日の総攻撃に備えての準備を行なった。
「堀を崩すせば、そこから味方の軍勢が一気に雪崩れ込めます。工兵の数を増やしましょう。」
「鋤や鍬なら、近くの農民から略奪すればよい。」
「長い板を堀に置いて渡ればよかろう。」
その日の深夜、闇夜に乗じて鎌倉軍の工兵が少人数でこっそり堀を崩しにかかったが、奥州軍は寝ずの番をしていたのですぐに鎌倉軍の工兵を討ち取った。
「奇襲はいたずらに犠牲を出すだけ。鎌倉武士らしくない。正攻法を用いよ。」
奇襲は義経が得意とした戦法だったので、頼朝色に染まっている鎌倉武士は、奇襲を快く思わなかったのだ。
翌日、十分に準備を整えた鎌倉軍は、総攻撃の準備をしていた。
総攻撃の構えを見て取った国衡は、奥州兵に再び言い聞かせた。
「これから鎌倉の大軍が、一気に押し寄せてくる。だが、討ち死にを良しとするな。できるだけ生き延びよ、退却の命令が出たら潔く引け。」
鎌倉軍は突然の阿武隈川の氾濫に備えて、阿武隈川の水が襲ってくる範囲を避けて突撃進路を取った。
鎌倉の大軍がじわじわと近づいて来た。
奥州軍は防備体制に入る。
そこへルシフェルが、また鎌倉兵を無敵にするように心を狂わせた。
鎌倉兵の第一波が、指揮官の指示に反して走り出した。
彼らの目は血走り、異常な速さで走っている。
「止まれ!止まれ!..まただ。これは如何に?」
兵士は指揮官の言うことなど聞こうとしない。
徒兵は奥州軍の射程距離に入ったので、投石器の攻撃を受けた。
何人かが倒れたが、兵士たちは全く怯むことなく走り続けた。
やがて弓矢の有効射程距離に入ったので、奥州軍は弓矢で鎌倉軍を狙い撃ちした。
鎌倉軍の兵士はばたばた倒れたが、矢をすり抜けた者は構わず走り続ける。
やがて第二派の兵士たちが、また狂ったように走り出した。
鎌倉軍は仕方なく、全員突撃の合図を出した。
足並みは揃わなかったが、総攻撃が開始された。
「ありゃりゃ、まるで蟻のようじゃ。」
頼朝は、呑気に鎌倉軍が突撃する様子を見物していた。
第一波の生き残った徒兵たちが、印地の射程内に入ったので、石投げ紐による石で撃たれ出した。
それでも倒れなかった者たちは、堀に飛び込んで沈んで行った。
第二派の兵士たちも怯まず突撃して行き、岩に撃たれ、弓矢に撃たれ、印地石に撃たれ、最期は堀に沈んで行った。
大量の犠牲者を出しながらも、鎌倉方の大軍はどんどん押し寄せて来て、奥州軍陣地の外堀の回りまで迫って来た。
ここで、奥州軍は阿津賀志山にため込んでいた水の第二の堰を切って、内堀にまで水を満たした。
鎌倉軍の正気の兵士たちは、外堀の前で止まって下から奥州軍に矢を射たり、堀に板を掛けようとしたが、無敵の兵士たちは、構わず堀にどんどん飛び込んで行った。
奥州軍は、鎌倉軍の板を掛けようとする者や堀を崩そうとする者を弓矢で狙い撃ちして、次々に倒していった。
そのうちに、無敵の兵士たちの死体が積み上がって行き、死体の橋が出来上がった。
鎌倉軍の兵士は、その上を踏んで堀を渡って行った。
おぞましい光景である。
『まずい!』と思った義経、国衡、巴は錬金術を使って、中土塁の外堀側を崩した。
土塁に取り付いていた鎌倉軍兵士は、外堀に落とされた。
多くの兵士が溺れてしまったり、土砂に飲まれたりしたが、それでも無敵の兵士たちは堀に飛び込んで行った。
そして溺死して行った。
ある所では水死体が集中してたくさん積もったため、十分な広さの死体の橋が出来上がった。
その死体の橋の上を鎌倉兵が歩いて渡り、外堀を越えた。
それを見て、騎馬武者も死体の山を渡って外堀を越えた。甲冑を着けた騎馬武者が乗った馬でも、やや沈むくらいでその橋の上を渡って行った。
次々に鎌倉兵士が、中土塁に到達した。
外堀は破られた。
「よし、もう少しじゃ。一気に潰せ!」
と、頼朝は喜んだ。
ルシフェルは、
『我に感じさせるほど、霊力が強い。』
と、奥州軍の中に霊能力者がいることに、やや危険を感じた。
『天上の勢力との関係は如何に。』
ルシフェルは、自分たちを蹴落とした天上の勢力との関係を探ってみたが、それとは違うようだと判断し安心した。
外堀を破られた奥州軍は必死に抵抗した。
奥州軍は置き盾を置いて、味方の被害を最小限にしながら、弓矢や石投げ紐による印地で、必死に防戦した。
だが無敵の兵士たちは全く怯まず飛び込んで行き、内堀の底をだんだん浅くしていった。
鎌倉軍の軍議は一致した。
戦力の逐次投入をするから、いたずらに味方の犠牲者が増える。数にものを言わせてひねりつぶしてくれよう、という考えだ。
それにしても、今日は味方の犠牲が多すぎた。
一万人の兵力を突撃させて、数千人の死者数は酷すぎる。
敵の攻撃による犠牲も多いが、甚だしいのは鎧を着けたまま堀に飛び込んだ溺死者である。
鎌倉軍全体に、『奥州陣地の堀に飛び込む者は、一族郎党にまでお仕置きあるべし。』という触れが回った。
「うーむ、なぜか前後不覚になって、ふらふらと飛び込んでしまったのだろうか。」
近くで見ていた指揮官たちも、首を傾げるしかなかった。
徒兵自身も、なぜそんな自殺行為をしたのか分からなかった。
「わしもよく覚えていない。気が付いたら目の前に堀が見えて、危うく飛び込みそうになるところじゃった。」
どうも一種の催眠状態に陥ったのではないかと、皆は推察した。
「そうすると、奥州軍が奥州の薬草か何かで、幻惑したのではないか。」
「いや、騎馬兵は誰も堀に飛び込んでいないというではないか。やはり天狗の仕業か...」
鎌倉軍は、天狗の噂を流す者を処罰した。
この類の話が広まると、また鎌倉軍の士気が落ちてしまう。それほど、当時の人間は怪異なものの存在を恐れていた。
鎌倉軍は、明日の総攻撃に備えての準備を行なった。
「堀を崩すせば、そこから味方の軍勢が一気に雪崩れ込めます。工兵の数を増やしましょう。」
「鋤や鍬なら、近くの農民から略奪すればよい。」
「長い板を堀に置いて渡ればよかろう。」
その日の深夜、闇夜に乗じて鎌倉軍の工兵が少人数でこっそり堀を崩しにかかったが、奥州軍は寝ずの番をしていたのですぐに鎌倉軍の工兵を討ち取った。
「奇襲はいたずらに犠牲を出すだけ。鎌倉武士らしくない。正攻法を用いよ。」
奇襲は義経が得意とした戦法だったので、頼朝色に染まっている鎌倉武士は、奇襲を快く思わなかったのだ。
翌日、十分に準備を整えた鎌倉軍は、総攻撃の準備をしていた。
総攻撃の構えを見て取った国衡は、奥州兵に再び言い聞かせた。
「これから鎌倉の大軍が、一気に押し寄せてくる。だが、討ち死にを良しとするな。できるだけ生き延びよ、退却の命令が出たら潔く引け。」
鎌倉軍は突然の阿武隈川の氾濫に備えて、阿武隈川の水が襲ってくる範囲を避けて突撃進路を取った。
鎌倉の大軍がじわじわと近づいて来た。
奥州軍は防備体制に入る。
そこへルシフェルが、また鎌倉兵を無敵にするように心を狂わせた。
鎌倉兵の第一波が、指揮官の指示に反して走り出した。
彼らの目は血走り、異常な速さで走っている。
「止まれ!止まれ!..まただ。これは如何に?」
兵士は指揮官の言うことなど聞こうとしない。
徒兵は奥州軍の射程距離に入ったので、投石器の攻撃を受けた。
何人かが倒れたが、兵士たちは全く怯むことなく走り続けた。
やがて弓矢の有効射程距離に入ったので、奥州軍は弓矢で鎌倉軍を狙い撃ちした。
鎌倉軍の兵士はばたばた倒れたが、矢をすり抜けた者は構わず走り続ける。
やがて第二派の兵士たちが、また狂ったように走り出した。
鎌倉軍は仕方なく、全員突撃の合図を出した。
足並みは揃わなかったが、総攻撃が開始された。
「ありゃりゃ、まるで蟻のようじゃ。」
頼朝は、呑気に鎌倉軍が突撃する様子を見物していた。
第一波の生き残った徒兵たちが、印地の射程内に入ったので、石投げ紐による石で撃たれ出した。
それでも倒れなかった者たちは、堀に飛び込んで沈んで行った。
第二派の兵士たちも怯まず突撃して行き、岩に撃たれ、弓矢に撃たれ、印地石に撃たれ、最期は堀に沈んで行った。
大量の犠牲者を出しながらも、鎌倉方の大軍はどんどん押し寄せて来て、奥州軍陣地の外堀の回りまで迫って来た。
ここで、奥州軍は阿津賀志山にため込んでいた水の第二の堰を切って、内堀にまで水を満たした。
鎌倉軍の正気の兵士たちは、外堀の前で止まって下から奥州軍に矢を射たり、堀に板を掛けようとしたが、無敵の兵士たちは、構わず堀にどんどん飛び込んで行った。
奥州軍は、鎌倉軍の板を掛けようとする者や堀を崩そうとする者を弓矢で狙い撃ちして、次々に倒していった。
そのうちに、無敵の兵士たちの死体が積み上がって行き、死体の橋が出来上がった。
鎌倉軍の兵士は、その上を踏んで堀を渡って行った。
おぞましい光景である。
『まずい!』と思った義経、国衡、巴は錬金術を使って、中土塁の外堀側を崩した。
土塁に取り付いていた鎌倉軍兵士は、外堀に落とされた。
多くの兵士が溺れてしまったり、土砂に飲まれたりしたが、それでも無敵の兵士たちは堀に飛び込んで行った。
そして溺死して行った。
ある所では水死体が集中してたくさん積もったため、十分な広さの死体の橋が出来上がった。
その死体の橋の上を鎌倉兵が歩いて渡り、外堀を越えた。
それを見て、騎馬武者も死体の山を渡って外堀を越えた。甲冑を着けた騎馬武者が乗った馬でも、やや沈むくらいでその橋の上を渡って行った。
次々に鎌倉兵士が、中土塁に到達した。
外堀は破られた。
「よし、もう少しじゃ。一気に潰せ!」
と、頼朝は喜んだ。
ルシフェルは、
『我に感じさせるほど、霊力が強い。』
と、奥州軍の中に霊能力者がいることに、やや危険を感じた。
『天上の勢力との関係は如何に。』
ルシフェルは、自分たちを蹴落とした天上の勢力との関係を探ってみたが、それとは違うようだと判断し安心した。
外堀を破られた奥州軍は必死に抵抗した。
奥州軍は置き盾を置いて、味方の被害を最小限にしながら、弓矢や石投げ紐による印地で、必死に防戦した。
だが無敵の兵士たちは全く怯まず飛び込んで行き、内堀の底をだんだん浅くしていった。
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