日本国を支配しようとした者の末路

kudamonokozou

文字の大きさ
上 下
23 / 29

総攻撃

しおりを挟む
「明日は総攻撃を仕掛け、一気に片を付けよう。」
鎌倉軍の軍議は一致した。
戦力の逐次投入をするから、いたずらに味方の犠牲者が増える。数にものを言わせてひねりつぶしてくれよう、という考えだ。

それにしても、今日は味方の犠牲が多すぎた。
一万人の兵力を突撃させて、数千人の死者数は酷すぎる。
敵の攻撃による犠牲も多いが、甚だしいのは鎧を着けたまま堀に飛び込んだ溺死者である。

鎌倉軍全体に、『奥州陣地の堀に飛び込む者は、一族郎党にまでお仕置きあるべし。』という触れが回った。

「うーむ、なぜか前後不覚になって、ふらふらと飛び込んでしまったのだろうか。」
近くで見ていた指揮官たちも、首を傾げるしかなかった。

徒兵自身も、なぜそんな自殺行為をしたのか分からなかった。
「わしもよく覚えていない。気が付いたら目の前に堀が見えて、危うく飛び込みそうになるところじゃった。」
どうも一種の催眠状態に陥ったのではないかと、皆は推察した。
「そうすると、奥州軍が奥州の薬草か何かで、幻惑したのではないか。」
「いや、騎馬兵は誰も堀に飛び込んでいないというではないか。やはり天狗の仕業か...」

鎌倉軍は、天狗の噂を流す者を処罰した。
この類の話が広まると、また鎌倉軍の士気が落ちてしまう。それほど、当時の人間は怪異なものの存在を恐れていた。

鎌倉軍は、明日の総攻撃に備えての準備を行なった。
「堀を崩すせば、そこから味方の軍勢が一気に雪崩れ込めます。工兵の数を増やしましょう。」
「鋤や鍬なら、近くの農民から略奪すればよい。」
「長い板を堀に置いて渡ればよかろう。」

その日の深夜、闇夜に乗じて鎌倉軍の工兵が少人数でこっそり堀を崩しにかかったが、奥州軍は寝ずの番をしていたのですぐに鎌倉軍の工兵を討ち取った。

「奇襲はいたずらに犠牲を出すだけ。鎌倉武士らしくない。正攻法を用いよ。」
奇襲は義経が得意とした戦法だったので、頼朝色に染まっている鎌倉武士は、奇襲を快く思わなかったのだ。

翌日、十分に準備を整えた鎌倉軍は、総攻撃の準備をしていた。

総攻撃の構えを見て取った国衡は、奥州兵に再び言い聞かせた。

「これから鎌倉の大軍が、一気に押し寄せてくる。だが、討ち死にを良しとするな。できるだけ生き延びよ、退却の命令が出たら潔く引け。」

鎌倉軍は突然の阿武隈川の氾濫に備えて、阿武隈川の水が襲ってくる範囲を避けて突撃進路を取った。

鎌倉の大軍がじわじわと近づいて来た。
奥州軍は防備体制に入る。

そこへルシフェルが、また鎌倉兵を無敵にするように心を狂わせた。

鎌倉兵の第一波が、指揮官の指示に反して走り出した。
彼らの目は血走り、異常な速さで走っている。

「止まれ!止まれ!..まただ。これは如何に?」
兵士は指揮官の言うことなど聞こうとしない。

徒兵は奥州軍の射程距離に入ったので、投石器の攻撃を受けた。
何人かが倒れたが、兵士たちは全く怯むことなく走り続けた。

やがて弓矢の有効射程距離に入ったので、奥州軍は弓矢で鎌倉軍を狙い撃ちした。
鎌倉軍の兵士はばたばた倒れたが、矢をすり抜けた者は構わず走り続ける。

やがて第二派の兵士たちが、また狂ったように走り出した。

鎌倉軍は仕方なく、全員突撃の合図を出した。

足並みは揃わなかったが、総攻撃が開始された。

「ありゃりゃ、まるで蟻のようじゃ。」
頼朝は、呑気に鎌倉軍が突撃する様子を見物していた。

第一波の生き残った徒兵たちが、印地の射程内に入ったので、石投げ紐による石で撃たれ出した。
それでも倒れなかった者たちは、堀に飛び込んで沈んで行った。

第二派の兵士たちも怯まず突撃して行き、岩に撃たれ、弓矢に撃たれ、印地石に撃たれ、最期は堀に沈んで行った。

大量の犠牲者を出しながらも、鎌倉方の大軍はどんどん押し寄せて来て、奥州軍陣地の外堀の回りまで迫って来た。

ここで、奥州軍は阿津賀志山にため込んでいた水の第二の堰を切って、内堀にまで水を満たした。

鎌倉軍の正気の兵士たちは、外堀の前で止まって下から奥州軍に矢を射たり、堀に板を掛けようとしたが、無敵の兵士たちは、構わず堀にどんどん飛び込んで行った。

奥州軍は、鎌倉軍の板を掛けようとする者や堀を崩そうとする者を弓矢で狙い撃ちして、次々に倒していった。
そのうちに、無敵の兵士たちの死体が積み上がって行き、死体の橋が出来上がった。

鎌倉軍の兵士は、その上を踏んで堀を渡って行った。
おぞましい光景である。

『まずい!』と思った義経、国衡、巴は錬金術を使って、中土塁の外堀側を崩した。
土塁に取り付いていた鎌倉軍兵士は、外堀に落とされた。

多くの兵士が溺れてしまったり、土砂に飲まれたりしたが、それでも無敵の兵士たちは堀に飛び込んで行った。
そして溺死して行った。

ある所では水死体が集中してたくさん積もったため、十分な広さの死体の橋が出来上がった。
その死体の橋の上を鎌倉兵が歩いて渡り、外堀を越えた。
それを見て、騎馬武者も死体の山を渡って外堀を越えた。甲冑を着けた騎馬武者が乗った馬でも、やや沈むくらいでその橋の上を渡って行った。
次々に鎌倉兵士が、中土塁に到達した。

外堀は破られた。

「よし、もう少しじゃ。一気に潰せ!」
と、頼朝は喜んだ。

ルシフェルは、
『我に感じさせるほど、霊力が強い。』
と、奥州軍の中に霊能力者がいることに、やや危険を感じた。
『天上の勢力との関係は如何に。』
ルシフェルは、自分たちを蹴落とした天上の勢力との関係を探ってみたが、それとは違うようだと判断し安心した。

外堀を破られた奥州軍は必死に抵抗した。

奥州軍は置き盾を置いて、味方の被害を最小限にしながら、弓矢や石投げ紐による印地で、必死に防戦した。

だが無敵の兵士たちは全く怯まず飛び込んで行き、内堀の底をだんだん浅くしていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

薙刀姫の純情 富田信高とその妻

もず りょう
歴史・時代
関ヶ原合戦を目前に控えた慶長五年(一六〇〇)八月、伊勢国安濃津城は西軍に包囲され、絶体絶命の状況に追い込まれていた。城主富田信高は「ほうけ者」と仇名されるほどに茫洋として、掴みどころのない若者。いくさの経験もほとんどない。はたして彼はこの窮地をどのようにして切り抜けるのか――。 華々しく活躍する女武者の伝説を主題とし、乱世に取り残された武将、取り残されまいと足掻く武将など多士済々な登場人物が織り成す一大戦国絵巻、ここに開幕!

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

華研えねこ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

処理中です...