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独裁者頼朝と秀衡の死
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文治三年(1187年)4月、義経が平泉入りして2カ月後、頼朝は途方もない要求を秀衡に突き付けてきた。
東大寺再建の鍍金が必要なので、三万両を納めよというのである。
三年前にも東大寺再建の鍍金料を要求してきたが、その時は五千両であった。一方、頼朝は千両しか納めていない。
今回は三年前の六倍である。
まるで、奥州の金は自分のものだと言いたげな態度である。
このような我儘な独裁者は、往々にしてやがて権力の座から引きずり降ろされるものであるが、頼朝にはルシフェルが付いているので安泰であった。頼朝はルシフェルの言いなりとなることで、自分の立場を保っていた。
覇権国家の言いなりになる国の支配者は、いずれその国を亡ぼすものである。この場合は、相手がより強い国家ではなく、ルシフェルという異次元の存在であった。
秀衡は、頼朝の我儘な要求を飲んだ。義経を密かに匿っていることもあり、事を荒立てたくなかったせいでもある。
幸い、巴と義経と言う、霊力と武術に長けた二人が加わったので、金の錬成は滞りなくできるようになっている。
これは、衣川の館で義経たちが襲撃される二年前のことである。逆算すると、義経に残された年数は後二年と言うことになる。
錬金術を会得している者たちにとっては、念動力の完成が喫緊の課題であった。
国衡には一日の長があったが、巴の成長は目覚ましく、巴と国衡が合力した時には、飛躍的に大きな力を得ることができるようになった。
一方義経は、味方の被害を少なくして、敵の大軍を撃破する戦法を思案していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「起請文を書いて頂きたい。」
義経と、泰衡、国衡を集めて、秀衡はそう言い放った。
内容は、義経を侍大将として泰衡、国衡は義経を補佐して一味を結束させ、頼朝の攻撃から奥州を守るというものであった。
戦の天才である義経を侍大将とすることには、二人とも異存はないはずである。
特に側室腹である国衡には、異存は微塵もない。国衡は、自分が武芸の誉れありと称えられても、実戦経験豊富で事実上平家を打ち負かした立役者である義経が、侍大将に相応しいと感じていた。
泰衡は、次期当主を約束されており、この時点では義経を侍大将とすることに妥協した。
こうして、三人は起請文に誓いを立てた。
起請文に違反した者には、罰を受けると言うことは泰衡も重々承知していることである。
起請文に誓いを立てる時、秀衡が口頭で一つ付け加えた。
「老いたりとは言え、戦に必要なのは実戦での経験者である。万が一、鎌倉が攻め込んで来た時には、できるだけ若い者は戦場には駆り出さず、老い先短い者たちを主力として使って頂きたい。」
義経と国衡はこの意味を悟った。
秀衡の意図は、若者を犬死にさせたくない、老人はいずれお迎えが来るので、最期に奥州のためにひと働きして人生を締めくくりたいと思うことは本人たちの幸せともなるが、若者たちにはこれから長く奥州のために働いてほしいと願ったのである。
一方泰衡は、鎌倉の御家人になってでも、長く奥州の権力者でありたいと密かに思っていた。
同年の文治三年(1187年)9月には、義経が平泉の秀衡のもとにいることが、鎌倉の間者から頼朝に報告された。
頼朝は早速、『朝廷に反逆を企てようとしている。』と訴えて、院庁下文を秀衡のもとに送った。
秀衡は『そのようなことは一切ございません。』と弁明するも、頼朝は『既に朝廷に対して反逆の用意をしている。』と、朝廷に告げ知らせた。
現代でも『かの国は大量破壊兵器を保有しているので、即刻攻撃しなければならない。』と喧伝して、無理矢理戦争を仕掛けて実際は、大量破壊兵器など無かったという事件があったが、いつの時代も独裁者はやりたい放題である。
秀衡や国衡が示現で見た通り、奥州藤原氏は今にも滅ぼされようとしているのであった。
そして、この年の10月29日に、秀衡は死去した。
北方の王者と呼ばれた藤原秀衡は亡くなった。
祖父清衡、父基衡と供に、秀衡の遺体は中尊寺金色堂に安置された。
そして遺体は、錬金術によってミイラとなった。
秀衡の死因は、骨髄炎性脊椎炎である。細菌が感染したようである。
予想外の死であった。
祖父清衡、父基衡の死因は脳卒中である。中風である。
秀衡の死は、当然奥州藤原氏にとっては痛手であった。
秀衡の死によって、泰衡は正式に奥州藤原氏の四代目当主となった。
泰衡が切望していた当主の座である。
しかし、いざ当主となってみると、泰衡はその責任の重さに耐えられなくなってきた。
奥州の富は、金によって保たれている。
今までの当主は、その金を自らの手で造り出すことができた。
しかし、泰衡にその力は備わっていない。誰かに頼らなくてはならない。
最近は、忠衡にも錬金術の力が備わってくるようになった。実際忠衡は、錬金の術の輪に加わるようになっている。
さらには、年若い通衡や頼衡も、錬金術の力が付いてきているという話を聞くようになった。
泰衡は当主でありながら、自分には権力が無いかのような虚無感に襲われる時があった。
自分の実の母が、異母兄の国衡の妻になったというのも、泰衡は内心気に入らなかった。
それが藤原氏の結束を強めるための秀衡の策だと知っていても、泰衡には割り切れない気持ちがあった。
だんだん泰衡は、起請文の誓いを疎んじるようになってきた。
東大寺再建の鍍金が必要なので、三万両を納めよというのである。
三年前にも東大寺再建の鍍金料を要求してきたが、その時は五千両であった。一方、頼朝は千両しか納めていない。
今回は三年前の六倍である。
まるで、奥州の金は自分のものだと言いたげな態度である。
このような我儘な独裁者は、往々にしてやがて権力の座から引きずり降ろされるものであるが、頼朝にはルシフェルが付いているので安泰であった。頼朝はルシフェルの言いなりとなることで、自分の立場を保っていた。
覇権国家の言いなりになる国の支配者は、いずれその国を亡ぼすものである。この場合は、相手がより強い国家ではなく、ルシフェルという異次元の存在であった。
秀衡は、頼朝の我儘な要求を飲んだ。義経を密かに匿っていることもあり、事を荒立てたくなかったせいでもある。
幸い、巴と義経と言う、霊力と武術に長けた二人が加わったので、金の錬成は滞りなくできるようになっている。
これは、衣川の館で義経たちが襲撃される二年前のことである。逆算すると、義経に残された年数は後二年と言うことになる。
錬金術を会得している者たちにとっては、念動力の完成が喫緊の課題であった。
国衡には一日の長があったが、巴の成長は目覚ましく、巴と国衡が合力した時には、飛躍的に大きな力を得ることができるようになった。
一方義経は、味方の被害を少なくして、敵の大軍を撃破する戦法を思案していた。
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「起請文を書いて頂きたい。」
義経と、泰衡、国衡を集めて、秀衡はそう言い放った。
内容は、義経を侍大将として泰衡、国衡は義経を補佐して一味を結束させ、頼朝の攻撃から奥州を守るというものであった。
戦の天才である義経を侍大将とすることには、二人とも異存はないはずである。
特に側室腹である国衡には、異存は微塵もない。国衡は、自分が武芸の誉れありと称えられても、実戦経験豊富で事実上平家を打ち負かした立役者である義経が、侍大将に相応しいと感じていた。
泰衡は、次期当主を約束されており、この時点では義経を侍大将とすることに妥協した。
こうして、三人は起請文に誓いを立てた。
起請文に違反した者には、罰を受けると言うことは泰衡も重々承知していることである。
起請文に誓いを立てる時、秀衡が口頭で一つ付け加えた。
「老いたりとは言え、戦に必要なのは実戦での経験者である。万が一、鎌倉が攻め込んで来た時には、できるだけ若い者は戦場には駆り出さず、老い先短い者たちを主力として使って頂きたい。」
義経と国衡はこの意味を悟った。
秀衡の意図は、若者を犬死にさせたくない、老人はいずれお迎えが来るので、最期に奥州のためにひと働きして人生を締めくくりたいと思うことは本人たちの幸せともなるが、若者たちにはこれから長く奥州のために働いてほしいと願ったのである。
一方泰衡は、鎌倉の御家人になってでも、長く奥州の権力者でありたいと密かに思っていた。
同年の文治三年(1187年)9月には、義経が平泉の秀衡のもとにいることが、鎌倉の間者から頼朝に報告された。
頼朝は早速、『朝廷に反逆を企てようとしている。』と訴えて、院庁下文を秀衡のもとに送った。
秀衡は『そのようなことは一切ございません。』と弁明するも、頼朝は『既に朝廷に対して反逆の用意をしている。』と、朝廷に告げ知らせた。
現代でも『かの国は大量破壊兵器を保有しているので、即刻攻撃しなければならない。』と喧伝して、無理矢理戦争を仕掛けて実際は、大量破壊兵器など無かったという事件があったが、いつの時代も独裁者はやりたい放題である。
秀衡や国衡が示現で見た通り、奥州藤原氏は今にも滅ぼされようとしているのであった。
そして、この年の10月29日に、秀衡は死去した。
北方の王者と呼ばれた藤原秀衡は亡くなった。
祖父清衡、父基衡と供に、秀衡の遺体は中尊寺金色堂に安置された。
そして遺体は、錬金術によってミイラとなった。
秀衡の死因は、骨髄炎性脊椎炎である。細菌が感染したようである。
予想外の死であった。
祖父清衡、父基衡の死因は脳卒中である。中風である。
秀衡の死は、当然奥州藤原氏にとっては痛手であった。
秀衡の死によって、泰衡は正式に奥州藤原氏の四代目当主となった。
泰衡が切望していた当主の座である。
しかし、いざ当主となってみると、泰衡はその責任の重さに耐えられなくなってきた。
奥州の富は、金によって保たれている。
今までの当主は、その金を自らの手で造り出すことができた。
しかし、泰衡にその力は備わっていない。誰かに頼らなくてはならない。
最近は、忠衡にも錬金術の力が備わってくるようになった。実際忠衡は、錬金の術の輪に加わるようになっている。
さらには、年若い通衡や頼衡も、錬金術の力が付いてきているという話を聞くようになった。
泰衡は当主でありながら、自分には権力が無いかのような虚無感に襲われる時があった。
自分の実の母が、異母兄の国衡の妻になったというのも、泰衡は内心気に入らなかった。
それが藤原氏の結束を強めるための秀衡の策だと知っていても、泰衡には割り切れない気持ちがあった。
だんだん泰衡は、起請文の誓いを疎んじるようになってきた。
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