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□踊る世間は馬鹿ばかり編
【本当におかしいのは】②
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そんなこんなで時刻は夜を示す頃となる。
「……ふわぁ」
ミモザが眠たそうにあくびをした。
「先に休みますね。ロゼン様も精神体がほぼ安定していると診断はされましたが、無理はせずに早めにお休みください」
「オッケー」
ロゼンが返事をすると、布団に入ったミモザから寝息が聞こえてきた。
しっかり寝たのを確認すると、目の前で将棋をやっているゼンスとティアに小さい声で声をかける。
「なあなあ」
「王手」
「……うっ」
小さな声に気がつかなかったのか、対局は続行され、ゼンスが長考のすえ打った一手にティアが表情をゆがめる。
ロゼンパーティーのなかで脳みそをつかうのが苦手な頭筋ゴリラのゼンスであるが、なぜか将棋だけは異様に強く、ティア相手にも勝ち越してしまうほどの実力があったりする。
「なあ、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
「ロゼン、対局中は静かに、マナーだぜ」
頑張って声をかけるロゼンに、ゼンスがびっくりするほどの正論で注意してきた。
「ぐうの音もでなくて涙でそうだけど、ミモザが寝た今しかないんだ、頼むからちょっと聞いてくれよ」
ロゼンの言葉に、ゼンスとティアはいったん対局を止めて耳を傾ける。
「いいか、驚かないでくれ……じつは、お小遣いの振り分けには偏りがあることがわかったんだ」
ロゼンは、自分の出した結論をばんと2人に叩きつけた。
ゼンスとティアは、とくに表情を変えずに見つめ返してきた。
「驚きすぎてそうなるか、俺のだした計算式だとミモザは100ある報酬金のうち94を持っていっているんだ。冒険資金の管理を考えても、これは持って行き過ぎだ。いいか、俺たちはパーティーの一員として、この問題について抗議すべきだと思わないか?」
熱弁するロゼンに、ゼンスとティアが順番に口を開く。
「そうか、頑張ってな」
「応援しているわ」
「いや、なんでそんな塩対応な答えなの? なんなの? お小遣い平等に欲しくないの?」
返ってきた答えに不満あり、ロゼンは当然聞き返した。
ティアはまるで聖母のような穏やかな表情で諭すように言ってきた。
「……ロゼン、あなたは根本的な見落としをしているわ。その計算式が間違っているとは言わない。けどね、問題はミモザを納得させる時間なのよ。私の計算だと、納得させるには1万時間以上は必要なの。当然、説得のため経過していく間にも違う問題が出てきて、その時はまた新しい計算により納得させる時間が変わっていく……それを繰り返していくうちに、いつしか私たちは気がつくのよ。ああ、この問題に気がつかなければ、もっと時間を有意義に過ごせたのではないかって。今の問題と、わからないほど時間を使ったあとにわかる問題……どっちを手に取ることが私たちにとっての幸せなの?」
「俺、もう寝るわ。そっちもあんまり将棋に没頭して寝るの遅くなるなよ」
ロゼンは考えることを放棄した。
そう、本当におかしかったのは、この問題に気がついてしまった自分なのだとわかったのだ。
将棋の打つ音色を聞きながら、ロゼンは眠りについていった。
でも、翌朝、勇気をだしてプチ文句を言ってみたら、今後のお小遣いの振り分けがちょっと良くなったとかなんとか。良かったねロゼンくん。
「……ふわぁ」
ミモザが眠たそうにあくびをした。
「先に休みますね。ロゼン様も精神体がほぼ安定していると診断はされましたが、無理はせずに早めにお休みください」
「オッケー」
ロゼンが返事をすると、布団に入ったミモザから寝息が聞こえてきた。
しっかり寝たのを確認すると、目の前で将棋をやっているゼンスとティアに小さい声で声をかける。
「なあなあ」
「王手」
「……うっ」
小さな声に気がつかなかったのか、対局は続行され、ゼンスが長考のすえ打った一手にティアが表情をゆがめる。
ロゼンパーティーのなかで脳みそをつかうのが苦手な頭筋ゴリラのゼンスであるが、なぜか将棋だけは異様に強く、ティア相手にも勝ち越してしまうほどの実力があったりする。
「なあ、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
「ロゼン、対局中は静かに、マナーだぜ」
頑張って声をかけるロゼンに、ゼンスがびっくりするほどの正論で注意してきた。
「ぐうの音もでなくて涙でそうだけど、ミモザが寝た今しかないんだ、頼むからちょっと聞いてくれよ」
ロゼンの言葉に、ゼンスとティアはいったん対局を止めて耳を傾ける。
「いいか、驚かないでくれ……じつは、お小遣いの振り分けには偏りがあることがわかったんだ」
ロゼンは、自分の出した結論をばんと2人に叩きつけた。
ゼンスとティアは、とくに表情を変えずに見つめ返してきた。
「驚きすぎてそうなるか、俺のだした計算式だとミモザは100ある報酬金のうち94を持っていっているんだ。冒険資金の管理を考えても、これは持って行き過ぎだ。いいか、俺たちはパーティーの一員として、この問題について抗議すべきだと思わないか?」
熱弁するロゼンに、ゼンスとティアが順番に口を開く。
「そうか、頑張ってな」
「応援しているわ」
「いや、なんでそんな塩対応な答えなの? なんなの? お小遣い平等に欲しくないの?」
返ってきた答えに不満あり、ロゼンは当然聞き返した。
ティアはまるで聖母のような穏やかな表情で諭すように言ってきた。
「……ロゼン、あなたは根本的な見落としをしているわ。その計算式が間違っているとは言わない。けどね、問題はミモザを納得させる時間なのよ。私の計算だと、納得させるには1万時間以上は必要なの。当然、説得のため経過していく間にも違う問題が出てきて、その時はまた新しい計算により納得させる時間が変わっていく……それを繰り返していくうちに、いつしか私たちは気がつくのよ。ああ、この問題に気がつかなければ、もっと時間を有意義に過ごせたのではないかって。今の問題と、わからないほど時間を使ったあとにわかる問題……どっちを手に取ることが私たちにとっての幸せなの?」
「俺、もう寝るわ。そっちもあんまり将棋に没頭して寝るの遅くなるなよ」
ロゼンは考えることを放棄した。
そう、本当におかしかったのは、この問題に気がついてしまった自分なのだとわかったのだ。
将棋の打つ音色を聞きながら、ロゼンは眠りについていった。
でも、翌朝、勇気をだしてプチ文句を言ってみたら、今後のお小遣いの振り分けがちょっと良くなったとかなんとか。良かったねロゼンくん。
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