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■舞台は夢の世界編
【36】
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道具の悪魔“ブラッド”。
悪魔なのに存在感が薄いため警戒を緩めていたが、今のやり取りを見ていれば誰もが違和感を覚えていただろう。
「イデア……」
ガイアが言葉を出そうとするが、それを遮るように大きな存在感が現れた。
『…………』
ロゼンのそばに出現したタナトスは、周りを無表情に見渡したあと、ティアのほうに歩みを始める。
『もう十分だ。私は帰ることにする』
タナトスがそう言うと、頭上に開いたままとなっている巨大な蛇が巻き付いた門が突如として姿を現した。
「待て待て、そう急いで帰らんでも、少しお話したいところなんじゃが」
『いや、エルフのほうは魔力の使い過ぎで言葉すら話せなくなっている。そいつに死なれるのも厄介だ』
タナトスはエルフをちらりと見て、冷ややかに言い放つ。
『……はあ!? ふ、ふざけないでくだちゃい! 私は全然余ゆんにゃんにゃ……』
タナトスに反論するため叫んだエルフだったが、もうあまり力が残っていないのか最後まで言い切ることができなかった。
「では、ひとつだけでいいから教えておくれ。ナイトメアの最後を見てなにか思うことはあったかい?」
ククルの質問に、タナトスは数秒沈黙したあと、
『……そうだな、ほんの少しだが哀れみを感じた。私にそんな感情があるとは不思議なものだ』
そう言い残し、巨大な門に向かって跳んでいった。
タナトスが中に入ると、絡まっている蛇が門を固く閉ざし、ゆっくりと姿を消していった。
「哀れみか……悪魔にもそういった感情があるとはのう。まだまだわしも知らんことが多いのう」
ククルは、消えていった門を見つめながらつぶやいた。
「おいティア、タナトスの野郎が帰ったぞ! もう手を離してもいいんだよな!?」
「はいはい、どうぞ離せば」
召喚時間が終わったため、ゼンスはティアから手を離し、アクロバティックな動きを始める。
「あ―、動けるって素晴らしいじゃねえか!」
解放されたのがよほど嬉しいのかバク転しながら動き回るゼンスを、みなはあきれたように見つめる。
「ほっほっほ、今連絡がきた。北国の国民が目を覚ましたようじゃ。色々と確認や調査のため我々は北国に行くが、お前さんたちも一緒に来るかい? とくに勇者たちはベッドでゆっくり休んだほうがいいじゃろ。イデア、お前さんだって消耗してないわけではないからな。もちろん滞在費は我々が支払うから安心してくれ」
ククルの提案に、反対するものたちはいなかった。
「さて、エルフ、お前さんもタナトスに魔力を奪われ続けてさすがにいっぱいいっぱいじゃろ。一緒に行こう」
『な、なにを言ってるんですかククルさん、私は元気みっぱいんにゅ……』
やれやれ、とククルは見えないなにかを担ぐような仕草をしてテントから出るため歩きだした。
みながそれに続いて歩きだし、動けないものは背負われたりして運ばれる。
──夢の悪魔ナイトメアとの戦いは、本当に夢だったかのように、今、静かに終わりを告げたのだった。
悪魔なのに存在感が薄いため警戒を緩めていたが、今のやり取りを見ていれば誰もが違和感を覚えていただろう。
「イデア……」
ガイアが言葉を出そうとするが、それを遮るように大きな存在感が現れた。
『…………』
ロゼンのそばに出現したタナトスは、周りを無表情に見渡したあと、ティアのほうに歩みを始める。
『もう十分だ。私は帰ることにする』
タナトスがそう言うと、頭上に開いたままとなっている巨大な蛇が巻き付いた門が突如として姿を現した。
「待て待て、そう急いで帰らんでも、少しお話したいところなんじゃが」
『いや、エルフのほうは魔力の使い過ぎで言葉すら話せなくなっている。そいつに死なれるのも厄介だ』
タナトスはエルフをちらりと見て、冷ややかに言い放つ。
『……はあ!? ふ、ふざけないでくだちゃい! 私は全然余ゆんにゃんにゃ……』
タナトスに反論するため叫んだエルフだったが、もうあまり力が残っていないのか最後まで言い切ることができなかった。
「では、ひとつだけでいいから教えておくれ。ナイトメアの最後を見てなにか思うことはあったかい?」
ククルの質問に、タナトスは数秒沈黙したあと、
『……そうだな、ほんの少しだが哀れみを感じた。私にそんな感情があるとは不思議なものだ』
そう言い残し、巨大な門に向かって跳んでいった。
タナトスが中に入ると、絡まっている蛇が門を固く閉ざし、ゆっくりと姿を消していった。
「哀れみか……悪魔にもそういった感情があるとはのう。まだまだわしも知らんことが多いのう」
ククルは、消えていった門を見つめながらつぶやいた。
「おいティア、タナトスの野郎が帰ったぞ! もう手を離してもいいんだよな!?」
「はいはい、どうぞ離せば」
召喚時間が終わったため、ゼンスはティアから手を離し、アクロバティックな動きを始める。
「あ―、動けるって素晴らしいじゃねえか!」
解放されたのがよほど嬉しいのかバク転しながら動き回るゼンスを、みなはあきれたように見つめる。
「ほっほっほ、今連絡がきた。北国の国民が目を覚ましたようじゃ。色々と確認や調査のため我々は北国に行くが、お前さんたちも一緒に来るかい? とくに勇者たちはベッドでゆっくり休んだほうがいいじゃろ。イデア、お前さんだって消耗してないわけではないからな。もちろん滞在費は我々が支払うから安心してくれ」
ククルの提案に、反対するものたちはいなかった。
「さて、エルフ、お前さんもタナトスに魔力を奪われ続けてさすがにいっぱいいっぱいじゃろ。一緒に行こう」
『な、なにを言ってるんですかククルさん、私は元気みっぱいんにゅ……』
やれやれ、とククルは見えないなにかを担ぐような仕草をしてテントから出るため歩きだした。
みながそれに続いて歩きだし、動けないものは背負われたりして運ばれる。
──夢の悪魔ナイトメアとの戦いは、本当に夢だったかのように、今、静かに終わりを告げたのだった。
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