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■舞台は夢の世界編
【20】
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「………」
一瞬の空白を感じたあと、自分の見ている世界が嘘のように塗り替わった。
現実と異世界が入れ替わる奇妙な感覚に驚きながらも、イデアはゆっくりと横たわっていた身体を起こした。
「………」
まず、ここが部屋の中であり、自分がふかふかなベッドの上にいることに気づいた。
さらに、よくあるタンスや化粧台などが置いてあることから宿屋の一室だとわかった。
「………」
ベッドから降りると、宿屋に存在しているにはあまりにも不自然な代物のそばに歩いていく。
それは、真っ赤に染まった大鎌だった。
床に突き刺さっていた赤き大鎌を抜きとると、イデアは小さな微笑みを浮かべた。
「ここが精神世界なんだね。あまりのリアルさに現実と混乱しちゃったよ。キミはどう思った?」
赤い大鎌が小さく震える。
「うん、現実でも夢でも、やることは変わらない」
イデアはそばにある窓のほうに近づいていき、まるでナイフでも扱うような動作で大鎌を振るった。
線が入ると、そこを中心に与えられた力に従い、壁がはじけて崩れ落ちていく。
障害物がなくなると、イデアはぽっかり空いた穴から外の様子を眺めた。
ここが宿屋の4階であり、少しではあるがこの世界のことを広く見ることができた。
「まるで鏡に映した現実のような世界……真似しようと頑張ったけど夢や希望が見当たらない、まるで空虚な箱庭のよう」
そう比喩すると、今度は下に目を向けた。
宿屋の入り口付近に、アンデッドの集団が群がっていた。
だが、この中に入ってくるというそぶりはなく、獲物が出てくるのを待っているようにウロウロと歩いている。
「待たせるのも悪いから、早く行ってあげようか」
4階の窓から、イデアはためらうことなく飛び降りた。
下にいたアンデッドたちは、一斉に顔を上に向け、落ちてくる獲物を我さきに捕らえるべく手を伸ばてくる。
落ちながら、イデアは虹色の光に身を包み、大鎌をクルクルと回し始めた。
「『魔法曲“クリューヴァ”』」
そして業名と共に、アンデッドたちに向かって音色を振るった。
音色を振るった。そう表現したいほど、その鎌の一撃はまるで楽器と錯覚するほどに美しい旋律を響かせ──アンデッドたちの首を一瞬にしてそぎ落としていった。
美しき旋律に魅了し、そして死に誘う。
赤き大鎌も相まって、この女はいつしか白き死神の異名が名付けられる最強の冒険者の1人となっていた。
「ロゼンとガイアがどこかな。今日の依頼は一緒だから少し楽しみだったんだ」
だれ一人拍手ができない演奏を終えたあと、イデアは他の勇者たちを探すために歩きだした。
一瞬の空白を感じたあと、自分の見ている世界が嘘のように塗り替わった。
現実と異世界が入れ替わる奇妙な感覚に驚きながらも、イデアはゆっくりと横たわっていた身体を起こした。
「………」
まず、ここが部屋の中であり、自分がふかふかなベッドの上にいることに気づいた。
さらに、よくあるタンスや化粧台などが置いてあることから宿屋の一室だとわかった。
「………」
ベッドから降りると、宿屋に存在しているにはあまりにも不自然な代物のそばに歩いていく。
それは、真っ赤に染まった大鎌だった。
床に突き刺さっていた赤き大鎌を抜きとると、イデアは小さな微笑みを浮かべた。
「ここが精神世界なんだね。あまりのリアルさに現実と混乱しちゃったよ。キミはどう思った?」
赤い大鎌が小さく震える。
「うん、現実でも夢でも、やることは変わらない」
イデアはそばにある窓のほうに近づいていき、まるでナイフでも扱うような動作で大鎌を振るった。
線が入ると、そこを中心に与えられた力に従い、壁がはじけて崩れ落ちていく。
障害物がなくなると、イデアはぽっかり空いた穴から外の様子を眺めた。
ここが宿屋の4階であり、少しではあるがこの世界のことを広く見ることができた。
「まるで鏡に映した現実のような世界……真似しようと頑張ったけど夢や希望が見当たらない、まるで空虚な箱庭のよう」
そう比喩すると、今度は下に目を向けた。
宿屋の入り口付近に、アンデッドの集団が群がっていた。
だが、この中に入ってくるというそぶりはなく、獲物が出てくるのを待っているようにウロウロと歩いている。
「待たせるのも悪いから、早く行ってあげようか」
4階の窓から、イデアはためらうことなく飛び降りた。
下にいたアンデッドたちは、一斉に顔を上に向け、落ちてくる獲物を我さきに捕らえるべく手を伸ばてくる。
落ちながら、イデアは虹色の光に身を包み、大鎌をクルクルと回し始めた。
「『魔法曲“クリューヴァ”』」
そして業名と共に、アンデッドたちに向かって音色を振るった。
音色を振るった。そう表現したいほど、その鎌の一撃はまるで楽器と錯覚するほどに美しい旋律を響かせ──アンデッドたちの首を一瞬にしてそぎ落としていった。
美しき旋律に魅了し、そして死に誘う。
赤き大鎌も相まって、この女はいつしか白き死神の異名が名付けられる最強の冒険者の1人となっていた。
「ロゼンとガイアがどこかな。今日の依頼は一緒だから少し楽しみだったんだ」
だれ一人拍手ができない演奏を終えたあと、イデアは他の勇者たちを探すために歩きだした。
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