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■舞台は夢の世界編
【18】
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視界がかすむ。
音が消える。
上も下も右も左もないような奇妙な時間が訪れる。
そして───
「──ん!?」
ロゼンは思わずよろめいた。
横たわっていたはずの自分がいつの間にか立っていたことに気づき、倒れる前に反射的に足を踏み込ませて体制を立て直す。
「び、びっくりし…た……本当にびっくりした!」
ロゼンが周りを見渡すと、さっきのテントの面影などなく、その風景はまったく異なったものとなっていた。
民家や商店などが立ち並ぶ姿はまるで国の中にある城下町にも見える。
「なんとなく見覚えが……これって北国の町並みだよな」
以前来たことのある記憶と照らし合わせながらそう考える。
「……ここがナイトメアの世界?」
ロゼンは警戒しながら歩きだした。
夢の世界というからどんなものかと思ったが、ふわっとした世界ではなく、現実と大差がないほど精巧に作られた世界だった。
ただ、それでも現実ではないとはっきりとわかるのは、これだけの大国でありながら人の気配がまったくないことと、
「んー、なるほど……」
ロゼンは空を見上げた。
空、と、現実世界ならそう呼ぶべきものなのだろうが、そこにあったのは空と呼べるべきものではなかった。
例えるなら鏡だろう。
見上げた先にあったのはまるで鏡のように上下が反転した北国が広がっていた。
「上にあるのも北国、俺がいるのも北国……なんとなくだけど、もしかしてこの国の外にあるのも北国だったりするのか。こういう出られないループものって確かに悪夢みたいだな」
ここが夢の世界であることは確認した。
「よし、次は」
ロゼンは周りを見渡す。
「ガイアとイデアの姿なし。こういうのあるあるの仲間とはぐれるパターンか。まあ、エルフでも同じ地点にみんな一緒に並べるのは難しかったってことかね」
そして、これは大きな問題だ。
「なにが問題って俺が問題。あの2人と比べると一番弱いからなあ……それでも人数にいれてくれたってことはきっと意味があるんだから」
ロゼンは身体を虹色の光に包ませ、腰から剣を引き抜いた。
「さすがに、こんなところでやられるわけにはいかないよな」
地面から生えるように現れ、ところどころの部位が破損し腐敗した人間たちに鋭い視線を向ける。
まるでアンデッド。数は3体。痛々しい見た目なのに、そんなのお構いなしによたよたと歩いてくる。
「動く死体……北国の住人……じゃないな。悪魔が使役する、タナトスの蛇と同じような使い魔ってやつか。夢の世界なんだからもう少し綺麗なものが見たかったんだけど」
ロゼンは剣を輝かせ、業名を唱える。
「『魔法剣“幻剛刀”』」
唱えられた業名に従って虹色の光の力が剣に伝わり、七色に輝く剛刀の名にふさわしい力強さをもった剣へとその姿を変える。
「悪いが先は長そうだ。秒殺で行くぜえええへえええいい……?」
言葉がおかしくなるほどびっくりした。
なぜならアンデッドが地面からわらわらと生えてきて、その数をざっと見ても30体ぐらいにまで増えたからだ。
「ダメ! そんな多いの反則だから! こっち1人だから!」
ロゼンは叫ぶが、アンデッドたちは数が増えると同時に、一斉に全力ダッシュで向かってきた。
「最近の動く死体パワフルすぎぃ! しゃあっ、かかってこいやらあぁぁあぁぁあ!」
襲いかかってくるアンデッドたちを、ロゼンは無茶苦茶に裁きまくった。
魔法剣“幻剛刀。ロゼンがつかう業のなかでもっともエネルギー効率も良く使い勝手がいい。少数戦においては優秀は業となるのだろうが、大多数が相手だと苦手だったりもする。
「ふおぉおぉぉぉおぉぉぉおおおおぉぉ!」
それでもロゼンは頑張った。
きっとまだ先は長い。業をころころ変えるのは無駄なエネルギー消費になってしまうため、なんとか魔法剣“幻剛刀”で乗り切ろうと頑張った。
「はあはあ……よ、余裕のよっちゃんだぜ」
暴れまわったあと、アンデッドが動かなくなったのを確認して、ロゼンは息切れをしながら笑った。
「へへへ……これ、エネルギー消費は抑えられたけど体力の消費やばい……大丈夫かな……」
ロゼンは疲弊した身体を深呼吸して整え、他の勇者たちを探すために歩きだした。
音が消える。
上も下も右も左もないような奇妙な時間が訪れる。
そして───
「──ん!?」
ロゼンは思わずよろめいた。
横たわっていたはずの自分がいつの間にか立っていたことに気づき、倒れる前に反射的に足を踏み込ませて体制を立て直す。
「び、びっくりし…た……本当にびっくりした!」
ロゼンが周りを見渡すと、さっきのテントの面影などなく、その風景はまったく異なったものとなっていた。
民家や商店などが立ち並ぶ姿はまるで国の中にある城下町にも見える。
「なんとなく見覚えが……これって北国の町並みだよな」
以前来たことのある記憶と照らし合わせながらそう考える。
「……ここがナイトメアの世界?」
ロゼンは警戒しながら歩きだした。
夢の世界というからどんなものかと思ったが、ふわっとした世界ではなく、現実と大差がないほど精巧に作られた世界だった。
ただ、それでも現実ではないとはっきりとわかるのは、これだけの大国でありながら人の気配がまったくないことと、
「んー、なるほど……」
ロゼンは空を見上げた。
空、と、現実世界ならそう呼ぶべきものなのだろうが、そこにあったのは空と呼べるべきものではなかった。
例えるなら鏡だろう。
見上げた先にあったのはまるで鏡のように上下が反転した北国が広がっていた。
「上にあるのも北国、俺がいるのも北国……なんとなくだけど、もしかしてこの国の外にあるのも北国だったりするのか。こういう出られないループものって確かに悪夢みたいだな」
ここが夢の世界であることは確認した。
「よし、次は」
ロゼンは周りを見渡す。
「ガイアとイデアの姿なし。こういうのあるあるの仲間とはぐれるパターンか。まあ、エルフでも同じ地点にみんな一緒に並べるのは難しかったってことかね」
そして、これは大きな問題だ。
「なにが問題って俺が問題。あの2人と比べると一番弱いからなあ……それでも人数にいれてくれたってことはきっと意味があるんだから」
ロゼンは身体を虹色の光に包ませ、腰から剣を引き抜いた。
「さすがに、こんなところでやられるわけにはいかないよな」
地面から生えるように現れ、ところどころの部位が破損し腐敗した人間たちに鋭い視線を向ける。
まるでアンデッド。数は3体。痛々しい見た目なのに、そんなのお構いなしによたよたと歩いてくる。
「動く死体……北国の住人……じゃないな。悪魔が使役する、タナトスの蛇と同じような使い魔ってやつか。夢の世界なんだからもう少し綺麗なものが見たかったんだけど」
ロゼンは剣を輝かせ、業名を唱える。
「『魔法剣“幻剛刀”』」
唱えられた業名に従って虹色の光の力が剣に伝わり、七色に輝く剛刀の名にふさわしい力強さをもった剣へとその姿を変える。
「悪いが先は長そうだ。秒殺で行くぜえええへえええいい……?」
言葉がおかしくなるほどびっくりした。
なぜならアンデッドが地面からわらわらと生えてきて、その数をざっと見ても30体ぐらいにまで増えたからだ。
「ダメ! そんな多いの反則だから! こっち1人だから!」
ロゼンは叫ぶが、アンデッドたちは数が増えると同時に、一斉に全力ダッシュで向かってきた。
「最近の動く死体パワフルすぎぃ! しゃあっ、かかってこいやらあぁぁあぁぁあ!」
襲いかかってくるアンデッドたちを、ロゼンは無茶苦茶に裁きまくった。
魔法剣“幻剛刀。ロゼンがつかう業のなかでもっともエネルギー効率も良く使い勝手がいい。少数戦においては優秀は業となるのだろうが、大多数が相手だと苦手だったりもする。
「ふおぉおぉぉぉおぉぉぉおおおおぉぉ!」
それでもロゼンは頑張った。
きっとまだ先は長い。業をころころ変えるのは無駄なエネルギー消費になってしまうため、なんとか魔法剣“幻剛刀”で乗り切ろうと頑張った。
「はあはあ……よ、余裕のよっちゃんだぜ」
暴れまわったあと、アンデッドが動かなくなったのを確認して、ロゼンは息切れをしながら笑った。
「へへへ……これ、エネルギー消費は抑えられたけど体力の消費やばい……大丈夫かな……」
ロゼンは疲弊した身体を深呼吸して整え、他の勇者たちを探すために歩きだした。
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