☆なんちゃってクエスト★

Natsu

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■舞台は夢の世界編

【10】

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 テントの中に入ってきたのは、き通るような肌を持ち、妖艶ようえんな真っ白な長髪を揺らし、白いワンピースで自身を着飾きかざっている、まるで名画からこぼれ落ちてきたような美貌びぼうをもつ女だった。

 世界守備隊の隊員たちはそんな女を警戒しているような様子で伺っており、とりわけ彼らの注意を引いたのは、透き通るように白く美しい女が背負うにはあまりにも不釣ふついに見える真っ赤に染まった大きな鎌だった。

 白と赤の対比が美しさと恐ろしさを同時に表現しており、初めて間近まぢかで姿を見たものはふたつの意味で目を奪われることになるとされるが、まさにその通りだった。
 そして、驚くべきは見た目だけではなく、彼女が冒険者としての強さにおける“最強”の称号を与えられていることもあるだろう。

 その称号の名前の由来は、本気で最強を名乗りたいのであれば誰よりもきでた強さを見せてみよ、と言われたのが始まりだとされる。

 きでるならば、競い、争い、誰にもそのつのを折らせないという意味としてかくがふさわしい。
 そして人数は、究極を極めて完成を意味する数字ともされる9とするのがいいだろう。

 ゆえに、その称号はこう名付けられた──“九角きゅうかく”と。

「──ごめんね、遅くなってしまったかな」

 集まっているパーティーたちの前に来ると、白い髪を揺らしながら女は第一声に謝罪の言葉を投げかけてきた。

 彼女こそ、最強の称号である九角きゅうかくの一人──勇者イデア。
 この世界の冒険者において、その強さの頂点に立つ者の1人である。

「なにも謝ることはないぞ、私たちもさっき来たばかりだ。しかし珍しいな、お前が布で隠さずにブラッドを持ち歩くとは」

 ガイアに言われ、イデアはくすりと微笑みながら答える。

「すれ違う人が驚くから普段は隠しているだけだよ。でも、ここではそんな人いないだろうからいいかなと思ってね」

 答えながらイデアは手を背後に回し、ブラッドと呼ばれた真っ赤な大鎌を指でそっと撫でる。

「うむ、その通りだ。そうしてると、あだ名の通り白き死神っぽいぞ」

「……そのあだ名恥ずかしいからやめて欲しいな。それに私はこれでも勇者だから死神という呼ばれ方はあまり好きじゃない」

 イデアはそう言うと、すまんかったと謝っているガイアの横にいるロゼンを見た。

「よお、イデア」

「久しぶりだねロゼン。元気そうでなによりだよ」

「当たり前だろ。俺は元気だけが取り柄の男だぜ」

「とても素敵なことだね」

 集合した勇者たちが話していると、ほっほっほ、と笑い声が響く。

「よし、3人の勇者が揃ったな。ではここからは依頼としてしっかり仕事してもらおうかの。エルフはおるか?」

『は、はははい! ここにぴます!』

 ククルの呼びかけに答え、姿の見えないなにかが噛み噛みで返事をした。
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