☆なんちゃってクエスト★

Natsu

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□初心に戻れ!編

【落ちた黒き蜘蛛の物語】②

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 北東国ほくとうこくの城内。

「王様!」

 兵士が玉座ぎょくざに慌てた様子で入ってきた。

「どうした、なにがあったのだ」

「わ、我が国のバッチコイ美術館にこんな手紙が!」

 兵士は手に持った手紙を渡した。

【太陽が祝杯しゅくはいをあげ終え、月光げっこうが夜空の真上で踊る時刻じこく今宵こよい、バッチコイ美術館にかざられしダ・イピンチの名画“怒鳴どな”を頂きに参上さんじょうしつかまつる……怪盗ブラックスパイダー】

 王様は手紙を読むと、驚きと緊張が入り混じった表情を浮かべた。

「……宣戦布告せんせんふこくというわけか。よろしい、この挑戦受けてたとうではないか。なんとしても我が国のほこりである“怒鳴り屋”を守り抜くのだ! 確か冒険者がこの国に来ていたな、そいつらにも協力してもらうぞ!」

 王様が予告状を握りしめながら言い放つと、兵士は敬礼をしてすぐに玉座の間から走って出ていった。

「さて、この国はワタクシを満たしてくれのか期待していいものかどうか……」

 兵士はにやりと笑いながらつぶやいた。

 ─────────

 夜。
 静寂せいじゃくとまで言わなくても、活気かっきのある朝昼とは違う表情に染まる時間であるが、

「うおおお! おめえらわかってんな! なんとしても名画“怒鳴り屋”だけは死守するぞおお!」

 今宵の北東国はそんなこと言っちゃらんねえべらんめえとのごとく、国宝こくほうを守るためにバッチコイ美術館を中心に殺気立っている兵士や守備隊がわんさかといた。

「そう、美しいこのワタクシが来るのですからギャラリーは多くなくてはいけない。なぜならそうでなくては美しいこのワタクシに失礼というのもの!」

 怪盗ブラックスパイダーはお城の屋根のてっぺんに立ち、自分のためににぎわう目標の建物を見ながら叫ぶ。

「しかし……」

 ブラックスパイダーは空を見上げ、少し残念そうな表情をした。
 今夜は雪が降っており、予告状にも書いた月の姿が見えない。

「せっかく満月に照らされた舞台を用意しようと思ったのに、このワタクシの美しさに月が恥ずかしがって隠れてしまうなんて……天の感情すら変えてしまう罪すぎる美しさ……どうしてこんなに美しく生まれてしまったのだろう」

 ぶっちゃけた話ちょっと調べれば天気魔導予報てんきまどうよほうで今日の夜は雪だとわかっただけの話である。

「大丈夫、わかっています、世界という名の女神よ。雪の祝福しゅくふくのなか踊るワタクシも美しい。そういうことなのですね!」

 なんて無敵のプラス思考。しかし意外と馬鹿にはできない。マイナスを考えないこれこそがこいつの強さの秘訣ひけつでもある。
 ナルシストの究極完成系きゅうきょくかんせいけいみたいな男“怪盗ブラックスパイダー”は雪が舞う世界に飛びだしていった。
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