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■結成編
【13】
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業をまとって振り落とされた鎚の一撃が振動と共にドラゴンの頭を大地にうずめていく。
地上に降りてきた王子はその瞬間を狙って、自分の業の反動で目を回している隊員と、疲弊が見られる隊長の2人を両腕でかついでその場から離れる。
「……なにやってるんですか王子?」
ドラゴンと距離をとってから地面に降ろされると、隊長はとりあえず頭に浮かんだ言葉を口にした。
「決まってんだろ魔王討伐だ」
王子は粉塵が舞い散るほうに向けて腰についている鞘から剣を抜いた。
「いえ、そうではなく、王族はこの場合は手順に従い優先的に避難しなければならないはずです」
「馬鹿、国が火だるまになってるのに国民見捨てて逃げられるかよ」
「馬鹿という言葉はお返しいたします。そう言ってなにかあるたびに統治者や跡取りである王や王子が戦場に出て死んでいては国家運営が成り立たなくなるでしょう」
「あー、うるさいうるさい。だったら俺が死なないようにお前が守ってくれよ。で、そのお前を俺が守ればなんやかんやで生き残れるだろう」
王子の言葉に、隊長は沈黙する。
「……本当に馬鹿………」
かすれた声が漏れた。
「え?」
「わかりましたと言ったのです。正直、私は死にたくないので王子は死ぬ気で私を守ってください。私は適度に頑張ります」
「温度差えぐくない?」
こんなときだがこの会話のおかげなのか隊長は疲労が和らいだ気がした。そして、そばで気絶したように寝ている隊員に目を向ける。
(自分が制御できる光力を超えて業を使用した影響……気絶しているだけなら反動としては幸運でしたね)
それにしても凄まじい一撃だった。
ドラゴンが空中にいるとき手当たり次第に業をぶつけまくった時とは違い、確実に急所である頭を一点狙いで打ち抜いていた。
ドラゴンは地面に頭をうずめたまま今だ沈黙を貫いている。
今攻めるべきなのはわかるが、どうやって攻めていいのかわからない。
(私の剛刀ではダメージが入らなかった。この国で私を大きく超えて剛の業を使えるのはこの隊員ぐらいしか……)
確実にダメージを通せる方法が思いつかない。
かといって、やみくもに全員で突撃して火炎で一網打尽なんてことをされたら洒落にもならない。
「おい隊長、悩む暇があるならとりあえず攻撃を」
『……驚いたな』
考えている隊長に王子が言葉をかけようとした時、沈黙を破って巨体がゆっくりと起き上がってきた。
『意識が途切れていた……これが気絶という現象なのか…なかなかに面白い体験だ』
この場にいるものたちが一斉に身構える。
しかし、さて、とドラゴンは言葉を続け、蛇のように長い首を伸ばし黒いもやに包まれた顔をこちらに向けてきた。
『……なるほど、知らない顔だと思ったらまた新たに勇者が生みだされたのか。我もずいぶんこの世界とやらに嫌われているな』
くくく、と声を殺したような笑い声が響く。
「はっ、なんか知らないが、地面に頭突っ込んで気絶してたくせに大物ぶって笑うなよ!」
王子は虹色に輝く剣を構えると、ドラゴンに向かって走りだした。
地上に降りてきた王子はその瞬間を狙って、自分の業の反動で目を回している隊員と、疲弊が見られる隊長の2人を両腕でかついでその場から離れる。
「……なにやってるんですか王子?」
ドラゴンと距離をとってから地面に降ろされると、隊長はとりあえず頭に浮かんだ言葉を口にした。
「決まってんだろ魔王討伐だ」
王子は粉塵が舞い散るほうに向けて腰についている鞘から剣を抜いた。
「いえ、そうではなく、王族はこの場合は手順に従い優先的に避難しなければならないはずです」
「馬鹿、国が火だるまになってるのに国民見捨てて逃げられるかよ」
「馬鹿という言葉はお返しいたします。そう言ってなにかあるたびに統治者や跡取りである王や王子が戦場に出て死んでいては国家運営が成り立たなくなるでしょう」
「あー、うるさいうるさい。だったら俺が死なないようにお前が守ってくれよ。で、そのお前を俺が守ればなんやかんやで生き残れるだろう」
王子の言葉に、隊長は沈黙する。
「……本当に馬鹿………」
かすれた声が漏れた。
「え?」
「わかりましたと言ったのです。正直、私は死にたくないので王子は死ぬ気で私を守ってください。私は適度に頑張ります」
「温度差えぐくない?」
こんなときだがこの会話のおかげなのか隊長は疲労が和らいだ気がした。そして、そばで気絶したように寝ている隊員に目を向ける。
(自分が制御できる光力を超えて業を使用した影響……気絶しているだけなら反動としては幸運でしたね)
それにしても凄まじい一撃だった。
ドラゴンが空中にいるとき手当たり次第に業をぶつけまくった時とは違い、確実に急所である頭を一点狙いで打ち抜いていた。
ドラゴンは地面に頭をうずめたまま今だ沈黙を貫いている。
今攻めるべきなのはわかるが、どうやって攻めていいのかわからない。
(私の剛刀ではダメージが入らなかった。この国で私を大きく超えて剛の業を使えるのはこの隊員ぐらいしか……)
確実にダメージを通せる方法が思いつかない。
かといって、やみくもに全員で突撃して火炎で一網打尽なんてことをされたら洒落にもならない。
「おい隊長、悩む暇があるならとりあえず攻撃を」
『……驚いたな』
考えている隊長に王子が言葉をかけようとした時、沈黙を破って巨体がゆっくりと起き上がってきた。
『意識が途切れていた……これが気絶という現象なのか…なかなかに面白い体験だ』
この場にいるものたちが一斉に身構える。
しかし、さて、とドラゴンは言葉を続け、蛇のように長い首を伸ばし黒いもやに包まれた顔をこちらに向けてきた。
『……なるほど、知らない顔だと思ったらまた新たに勇者が生みだされたのか。我もずいぶんこの世界とやらに嫌われているな』
くくく、と声を殺したような笑い声が響く。
「はっ、なんか知らないが、地面に頭突っ込んで気絶してたくせに大物ぶって笑うなよ!」
王子は虹色に輝く剣を構えると、ドラゴンに向かって走りだした。
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