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■結成編
【8】
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対話が可能なら、お互いに歩み寄れるどこかの分岐点があるはず。
そう思うのは人間が持つひとつの優しさでもあり、ひとつの欠点でもあった。
今回はその欠点が堅調にでたのだろう。
対話の最中、まるで人間が緩んだのを狙っていたかのように放たれた火炎は、人間が守ろうとしている国に深刻な被害を瞬く間に与えた。
「『飛刀・燕』!」
隊長は業名を唱え、紫色の光に包まれた剣をドラゴンに向かって振るった。
業──光力をもつ個人の力の結晶だ。
業名を口に出すのが重要で、その言葉がトリガーとなり意味を与え、与えられた力をより具現化する。
剣撃と共に放たれたのは、人間ほどの大きさをした紫の光が形作る燕に似たエネルギーの塊。
狙った対象に跳んでいくその速度、風を切る音、形こそ一羽の鳥のようだが、斬撃の特性を付与されたこの一撃に触れれば分厚い鉄板ですら瞬く間に真っ二つになるだろう。
隊長に続くように、隊員たちも一斉に業を放ち、ドラゴンに向かって様々な色の光力の結晶が飛んでいく。
もしこのような状況でなければ、鮮やかに光が飛び交うこの瞬間はさぞ美しく見えたことだろう。
(──躱さない気ですか)
向こうの出方を見ていた隊長は驚いた。
自分に攻撃が向かって来ているのに、ドラゴンはまるで優雅に羽を羽ばたかせながらそれらが届くのを待つかのように動かない。
たしかに国結界の攻撃魔法陣の一撃には耐えられてしまった。だがあれは破壊力だけを重視した一撃にすぎない。
人間の業の強みは、その一撃に特性、効果を付与できること。
(いくらなんでもこれだけの業を同時に裁くことなんて)
できるわけがない、と隊長が思うと同時に最初に放たれた燕がドラゴンに命中した。
それを合図にしたしたように次から次へと業が足されるように炸裂していく。
なにかの業同時の影響なのか、爆煙のようなものが発生してドラゴンの姿が見えなくなる。
とはいえ次の瞬間には攻撃が飛んでくるかもしれない。本来ならいけないが、隊長は対象から視線を外し、見える範囲で国の状況を確認する。
燃え盛る火炎がまだいくつか残ってはいるが、国民を救助する守備隊の活躍のおかげで鎮火に向かっているのを確認できた。
『……なるほど』
聞こえてきた声に、隊長は空に顔を向け直す。
が、晴れていく爆煙からは、葉っぱが木の枝から離れたかのように、巨体が不自然に舞いながら落ちてくる。
『飛行状態を維持できん……どうなるかとあえて受けてはみたが想像を超えたダメージか。人間の業が融合すると時には予測できない威力と効果を生む可能性があるらしいが……ここまでの結果になった貴様らの運を褒めてやろう』
大地の震動を起こし、ドラゴンが国に落ちてきた。
その姿を見て守備隊は希望をもっただろう。
「効いています、攻めますよ!」
全身を焼け焦げたようにくすぶらせ片方の羽を失った脅威に、隊長はこの場にいる誰よりも光を輝かせて飛びだした。
そう思うのは人間が持つひとつの優しさでもあり、ひとつの欠点でもあった。
今回はその欠点が堅調にでたのだろう。
対話の最中、まるで人間が緩んだのを狙っていたかのように放たれた火炎は、人間が守ろうとしている国に深刻な被害を瞬く間に与えた。
「『飛刀・燕』!」
隊長は業名を唱え、紫色の光に包まれた剣をドラゴンに向かって振るった。
業──光力をもつ個人の力の結晶だ。
業名を口に出すのが重要で、その言葉がトリガーとなり意味を与え、与えられた力をより具現化する。
剣撃と共に放たれたのは、人間ほどの大きさをした紫の光が形作る燕に似たエネルギーの塊。
狙った対象に跳んでいくその速度、風を切る音、形こそ一羽の鳥のようだが、斬撃の特性を付与されたこの一撃に触れれば分厚い鉄板ですら瞬く間に真っ二つになるだろう。
隊長に続くように、隊員たちも一斉に業を放ち、ドラゴンに向かって様々な色の光力の結晶が飛んでいく。
もしこのような状況でなければ、鮮やかに光が飛び交うこの瞬間はさぞ美しく見えたことだろう。
(──躱さない気ですか)
向こうの出方を見ていた隊長は驚いた。
自分に攻撃が向かって来ているのに、ドラゴンはまるで優雅に羽を羽ばたかせながらそれらが届くのを待つかのように動かない。
たしかに国結界の攻撃魔法陣の一撃には耐えられてしまった。だがあれは破壊力だけを重視した一撃にすぎない。
人間の業の強みは、その一撃に特性、効果を付与できること。
(いくらなんでもこれだけの業を同時に裁くことなんて)
できるわけがない、と隊長が思うと同時に最初に放たれた燕がドラゴンに命中した。
それを合図にしたしたように次から次へと業が足されるように炸裂していく。
なにかの業同時の影響なのか、爆煙のようなものが発生してドラゴンの姿が見えなくなる。
とはいえ次の瞬間には攻撃が飛んでくるかもしれない。本来ならいけないが、隊長は対象から視線を外し、見える範囲で国の状況を確認する。
燃え盛る火炎がまだいくつか残ってはいるが、国民を救助する守備隊の活躍のおかげで鎮火に向かっているのを確認できた。
『……なるほど』
聞こえてきた声に、隊長は空に顔を向け直す。
が、晴れていく爆煙からは、葉っぱが木の枝から離れたかのように、巨体が不自然に舞いながら落ちてくる。
『飛行状態を維持できん……どうなるかとあえて受けてはみたが想像を超えたダメージか。人間の業が融合すると時には予測できない威力と効果を生む可能性があるらしいが……ここまでの結果になった貴様らの運を褒めてやろう』
大地の震動を起こし、ドラゴンが国に落ちてきた。
その姿を見て守備隊は希望をもっただろう。
「効いています、攻めますよ!」
全身を焼け焦げたようにくすぶらせ片方の羽を失った脅威に、隊長はこの場にいる誰よりも光を輝かせて飛びだした。
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